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ウイスキーの日本化は
  いかに進められたか


ビールこそが
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自由度の高さと
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  大衆の酒−泡盛の100年


清酒の文明化と文化性
  の再構築


酒論稿集
20世紀の酒文化
ウイスキーの日本化はいかに進められたか
スコッチを手本にした「本格主義」
−製法から言いますと、北米と違って、日本の場合はスコッチを踏襲するというかたちでウイスキーが出てきますが、そのへんの違いはどういうところからきていますか。
嶋谷 北米でも最初は、移民が自分のふるさとのスコッチやアイリッシュを造るんですね。けれども結局定着する時は、そこでいちばん得やすいコーンとかライ麦とかを、麦芽でもって糖化して造るように変わっていく。
その後はやっぱり技術の進歩。特に、禁酒法前後からアメリカ製のウイスキーが盛んになりますでしょ。その頃からたくさんの需要に追いつくということで、連続式蒸溜機を使うように技術が変わっていく。
これは私の推測ですが、北米は湿度が低いから蒸発する量も多い。あんまり長く置く酒は不経済です。バーボンは新樽の内側を焼きますでしょ。炭というのは吸着力が強いですから、刺激的な味や香りをとってくれるし、熱変化による樽成分の溶け出しも早い。小さい樽というのも、熟成が早くなる。企業家の知恵です。
−日本の場合は、スコッチの製法をかたくなに守る。国民性の違いでしょうか?
嶋谷 日本の場合はそんなに乾燥してないのと、それと民族性、伝統を守るとか正統的なものを好むとかの影響もあるかもしれない。でも、やっぱり鳥井信治郎の「本格的なものをやろう」という意思でしょう。サントリーの製造の特徴は、すごく本格主義なんです。それが彼の本質。
ウイスキーでも麦芽から何から自分のところで作り、よそから買ってきてもよいようなものまで作る。原点に帰って、基本に戻ってやろうというところがサントリーの本格主義。時間はかかりますが、うまくできあがった時は大きな財産になります。

ウイスキーは「クラフト」の酒
−嶋谷さんは最初ワインをやられて、それからウイスキーに変わられたそうですが、技術者としてみたらワインとウイスキーとはかなり共通するところが多いのですか?
嶋谷 まったく別ですね。ぜんぜん違う。私の考えですが、ワインは酒のなかで非常に農業に近い。「アグリカルチャー」です。ビールは「インダストリー」であると思う。ウイスキーはその中間で「クラフト」と私は言うんですけれど。
ワインは、まさにブドウのできが八割くらいの味を決める。ビールは、工場のなかでやるウエイトが非常に高い。ワインは、人類の始まりとともに、人間が考える以前からあったようなもの。そういう酒の心というか、材料も原料も含めて非常に手作りの要素がある。だから、自分たちの技と自然が一緒になって酒がおいしくなる、そういう謙虚な気持ちが、ワインはいちばん養われる。
白州のウイスキー工場を作った時には、酒造りのいちばん真ん中になる醸造の工程のリーダーはワインをやってる男を引き抜いてきた。何でかというと、そういう謙虚な気持ちがものすごく大事だと思いましたので。ウイスキーはこれから勉強すればいいと。

なぜ木桶タンクを復活したか
−ウイスキーの工場長は、現場作業の全体のマネージャーでいらっしゃるんですか?
嶋谷 そうです。醸造や貯蔵をやる技術者は、別に何人かいますから。ブレンダーはまた別ですが。
−ブレンダーの仕事が独立しているというのも、お酒のなかでは珍しいですね。
嶋谷 ブレンダーというのは本当にプライドが高い。うちのもすごく威張ってる(笑)。ウイスキー造りというのは、ブレンダーと製造のいわば共同作業ですが、やっぱりケンカもいたします。
ブレンダーというのは非常に難しい仕事ですけれど、けっこう勝手なことを言う。「こういう酒を造ってくれ」とか。そう簡単には造れない。しかし原酒を造る側とブレンダーとの熱い議論の積み重ねが、日本のウイスキーを育ててきたと思います。
−今おっしゃった、ブレンダーのこういう酒が欲しいという注文を、ひとつのメーカーのなかで研究していくのは日本だけですね。スコットランドはいろんなところから買いますから。日本のウイスキー造りの、これは特徴と言ってもいいですね。
嶋谷 そうですね。山崎とか見て頂ければわかりますが、蒸溜機の形もいろいろで、発酵タンクでも表に見せている木桶タンクだけでなく、ほかにステンレスのもある。ステンレスのタンクも形がいろいろ。
−発酵タンクにもいろいろな形があるんですか?
嶋谷 昭和60年頃の山崎の改造計画の時に、それまでポットスチルは初溜と再溜で2パターンだったのを、背の高いのとか低いのとか、いろいろな形のものに変えた。それと木桶発酵の復活。工場の作り直しをしたんですよ。いろんなタイプの酒を造るため。白州もさまざまな工夫がしてあります。
ビール屋から見たら軽蔑するかもしれない(笑)。あいつらはなに考えてるのかと。だけどそれは、あえて。
−木桶でやると腐造のリスクも大きくなると思いますが?
嶋谷 そうですね……。ステンレスタンクで十分に洗って殺菌すれば、雑菌は絶対生えません。ビールはそうします。ウイスキーはある程度の雑菌が生えてもらわないと豊かにならないのです。だけど腐ったら困る。
酵母が少ないと雑菌が繁殖するので、最初にたくさん入れて立ち上げる。そうすると雑菌に負けない。それから自然の乳酸菌をうまく使う。酵母が食い残した糖分を使って繁殖するタイプの菌と、発酵を終えて死んだ酵母を栄養分にする別の乳酸菌。ウイスキーというのは三つの乳酸菌の交替がある。そういうことは、やはり木桶のほうが起こりやすい。

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