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第1回 ハッピーを大きくしたプレミアムビール
狩野卓也


第2回 変わりゆく饗宴外交
西川恵


第3回 かかりつけの名医のみつけ方
松井宏夫


第4回 日本の赤ワインの礎「マスカット・ベーリーA」
坂田 敏


第5回 週末はいつもアウトドア
廣川健太郎


第6回 不可能の壁を超える実践優位のマーケティング
石井淳蔵


第7回 ブレンダーという仕事
輿水精一


第8回 過去の体験が濾過されて曲になる
村井秀清


第9回 グラスはつくり手と飲み手をつなぐ
庄司大輔

第10回 落語を世界へ 英語で伝える日本の話芸
立川志の春


第11回 和食は「ご飯がたべたい」料理の文化
阿古真理


第12回 若者のための酒場歩きガイド
橋本健二


第13回 画像で気持ちが伝わる ネット口コミが市場を動かす
徳力基彦


第14回 創業60周年 復活した十三トリスバー
江川栄治


第15回 カクテルバーのコミュニティ
豊川紗佳


第16回 次に目指すは日本のバー文化の底上げ
坪倉健児


第17回 カクテルアワード受賞経験を倉敷で活かす
松下知寛

第18回 地域でつくるオペラアカデミー「農楽塾」
中嶋彰子

第19回 「消費されるワインの最高峰」を目指して
椎名敬

酒論稿集
酒器論稿
ブレンダーという仕事〜ウイスキーをつくるということ
■原酒を集めることと原酒からつくることの違い
―― スコットランドでもいろいろ新しい試みはされているのでしょうか。最近はよくシェリーフィニッシュという言葉を聞きますが。
輿水 樽熟成に関する取り組みはサントリーの方が進んでいると思います。サントリーはグループにワインのシャトーラグランジュ、ブランデーのロワイエなどがあるので、樽についての知見が多く蒸溜したてのニューポットを貯蔵する段階から新しい試みをしてきました。スコットランドの場合には、個々の蒸溜所は伝統的な自社の味わいを守ることがより重要で、新しいチャレンジは後工程が中心であり、今はシェリー樽フィニッシュが流行っていいます。しかし、最初に樽に詰める段階から取り組むのとフィニッシュからの取り組みでは香味の幅の広がりが違います。

―― 多様な原酒を生み出すことがブレンドの深みを出すということでしょうか。
輿水 そもそもスコットランドにはたくさんの蒸溜所があり、ブレンデッドウイスキーをつくる場合は、そのたくさんの蒸溜所から多様なモルトウイスキーを集めることができます。日本の場合には、基本的に自前のモルトですから、自社で多様な原酒をつくることが必要です。だから山崎や白州を見ていただけばおわかりですが、ポットスチルの形状も異なるものを持っています。

■後熟へのこだわり
―― 入社されてからブレンダ―になるまではどのようなキャリアをたどったのですか。確か、ご出身は白州蒸溜所のある山梨県とか。
輿水 ええ、ちょうど白州蒸溜所ができあがったころ1973年に入社しました。入社前はここで働くのものだと思っていましたが、結局白州に勤務することはありませんでした。最初は多摩川工場でブレンダーの指示に従って実際にブレンドをする仕事に3年ほど携わり、山崎にある研究所に移って9年間基礎研究に携わりました。そのときに樽の研究も行ったことは、後にブレンダーになってからすごく生きてきました。その後、山崎蒸溜所に移り品質管理、貯蔵、バッテイング、ブレンドの仕事をして1991年にブレンダー室に異動しまして、1998年にチーフブレンダーに就任しました。

―― ブレンダー室に異動されたときやチーフブレンダーになられたときはどういう感じでしたか。
輿水 立場が大きく変わって最初は戸惑いました。生産現場では、ブレンダーの指示に基づいて実際にウイスキーをつくる仕事をするわけですが、ブレンダー室はその指示を出す側、全商品の品質を決める立場で大きな責任を感じました。さらにチーフブレンダーになったときは、頼れる相手がいなくなるので、その重圧は大変なものでした。決定をするたびにこれでいいのだろうかと悩む日々でした。

―― ウイスキーづくりでサントリーがこだわるのはどんなことでしょうか。
輿水 原酒は、熟成のピークを迎えるまで樽でじっくり貯蔵して、必要な量だけ取り出し、ブレンドしてから後熟させます。この後熟というのは、さまざまな原酒をブレンドした後に味わいをなじませるというか、香味成分が安定するように一定期間貯蔵する期間で、サントリーではこれを重視しています。

―― ひとたびレシピが決めれば後は、順調に製品化されるのですか。
輿水 レシピ通りにブレンドしても1回で味が決まるものでもありません。同タイプの原酒でも樽によって個性が違うので、同じ味になるようにブレンドした後で最終調整を行うことも多いです。特に12年以上熟成している原酒になるとほとんど1樽ずつ違う味わいになっています。響や山崎、白州クラスになるとレシピ通りで同じ味になるということはほとんどありません。別の樽の原酒を少し加えたり微調整が必ず必要となります。

■世界最高の評価をとったサントリーウイスキー
3年連続ディスティラリー・オブ・ザ・イヤーの表彰式にて(左から2人目)*サントリー提供―― ところでロンドンで行われているISC(インターナショナルスピリッツチャレンジ)で3年連続4回目のディスティラー・オブ・ザ・イヤーを受賞されました。これはどのような賞なのでしょうか。
輿水 SCは主要なウイスキー会社が必ず参加している世界で一番権威のある蒸留酒のコンテストです。審査員は、世界のウイスキー会社のマスターブレンダー、チーフブレンダーというクラスがつとめています。すべてブラインドテイスティングで商品カテゴリー毎に、トロフィー、金賞、銀賞、銅賞が選ばれます。ディスティラー・オブ・ザ・イヤーは個別の商品ではなくて、高品質で多彩な製品を生み出したメーカー(ディスティラー)の中から1社に贈られる極めて栄誉ある賞です。2012年から連続して受賞できたのですが、今回は、最高位のトロフィーの数だけで比べるとウィリアムグラントに負けていたので、受賞は無理と半分あきらめていたので、発表のときは大変驚きました。評価の詳細はよくわかりませんが、出品している全商品の評価をあわせてのものと言われていますので、会社にとっては一番名誉ある表彰です。

ISCで審査をしている真剣な表情の輿水精一さん―― そんなすごい賞を3年連続で受賞された秘密はどこにあるのですか。
輿水 2004年から審査員に加わって世界のマスターブレンダー・チーフブレンダー10数名と一緒にジャッジをするようになった経験が大きかったです。すべてブラインド審査ですが、あとで各審査員が審査結果について商品ごとにコメントを述べます。だから、ディアジオやペルノーといった世界有数のウイスキー会社のマスターブレンダーの品質に対する考え方が理解できるのです。2004年以降に当社から発売していったスーパープレミアムウイスキーは、最低でもこの審査で金賞にかなうものということをひとつの目標にしています。お客様を見ていないと怒られるかもしれませんが、スーパープレミアムという少量で限定された商品ですからこのような指標で考えてよいと思っています。そんなことも高評価につながったのだと思います。

―― 審査員をされていて、何か感じられたことはありますか。
輿水 台湾や南アフリカなどウイスキー新興国のレベルアップですね。10年前はまだまだという感じのウイスキーがほとんどでしたが、最近はとてもよくなってきています。日本もうかうかしていられません。

―― 今後は名誉チーフブレンダーということですが、どういうことをされるのですか。
輿水 相変わらず毎日山崎蒸溜所には出勤しています。これからは、ウイスキーづくりについてのセミナーや講演会など、主に飲み手のみなさんとの交流をしていくことになると思っています。ブレンダーという仕事は、なかなかその本質を理解してもらいにくい仕事ですから、ブレンダー・ブレンドについてお話する機会もあればと思っています。いろいろな場面でお世話になった方々のバーなどにも出かけていきたいですね。
―― ぜひ、ご一緒させていただき、ウイスキーのブレンドについてまたお話をお聞かせください。本日はどうもありがとうございました。
2014年11月19日 於:サントリーワールドヘッドクォーターズ 聞き手狩野卓也)
輿水 精一(こしみず せいいち)
1973年サントリー入社。76年より研究センターでウイスキーの貯蔵・熟成の研究に従事。85年より山崎蒸溜所で品質管理、貯蔵部門を担当。91年よりブレンダー室勤務。99年よりチーフブレンダー。15年10月に退任。

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