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第1回 ハッピーを大きくしたプレミアムビール
狩野卓也


第2回 変わりゆく饗宴外交
西川恵


第3回 かかりつけの名医のみつけ方
松井宏夫


第4回 日本の赤ワインの礎「マスカット・ベーリーA」
坂田 敏


第5回 週末はいつもアウトドア
廣川健太郎


第6回 不可能の壁を超える実践優位のマーケティング
石井淳蔵


第7回 ブレンダーという仕事
輿水精一


第8回 過去の体験が濾過されて曲になる
村井秀清


第9回 グラスはつくり手と飲み手をつなぐ
庄司大輔

第10回 落語を世界へ 英語で伝える日本の話芸
立川志の春


第11回 和食は「ご飯がたべたい」料理の文化
阿古真理


第12回 若者のための酒場歩きガイド
橋本健二


第13回 画像で気持ちが伝わる ネット口コミが市場を動かす
徳力基彦


第14回 創業60周年 復活した十三トリスバー
江川栄治


第15回 カクテルバーのコミュニティ
豊川紗佳


第16回 次に目指すは日本のバー文化の底上げ
坪倉健児


第17回 カクテルアワード受賞経験を倉敷で活かす
松下知寛

第18回 地域でつくるオペラアカデミー「農楽塾」
中嶋彰子

第19回 「消費されるワインの最高峰」を目指して
椎名敬

酒論稿集
酒器論稿
和食は「ご飯がたべたい」料理の文化
■サラダは和え物 カレーは味噌汁 ラーメンはコッテリうどん
―― 日本ではサラダのバリエーションが豊富です。阿古さんはサラダは和食の和え物に通じると書いていらっしゃいますね。
阿古 はい。日本ではもともと野菜を生で食べる習慣はなくて、サラダは戦後アメリカの食文化として入ってきます。居酒屋のメニューに入り、1990年代の初めに総菜メーカーのロック・フィールドが、主菜にもなるようなしっかりしたサラダを出しました。サラダはオイル、酢、塩のドレッシングで生野菜を和えます。オイルを胡麻や豆腐や梅などに置き換えたら、昔から日本で食べてきた和え物です。サラダがバラエティ豊かになって浸透したのは和え物の文化が下地としてあったからではないでしょうか。

―― なるほど。言われてみればオイルを他に置き換えただけですね。
阿古 そしてカレーは味噌汁なのではないかとも思います。

―― えっカレーが味噌汁?
阿古 おふくろの味って昔は味噌汁だったかもしれませんが、今はカレーです。肉、玉ねぎ、ニンジン(西洋系)などが海外から入ってきて、それを日本の食事に取り入れる工夫をしたひとつのかたちがカレーで、すっかり定着しました。

―― ではラーメンはどう見ますか?
阿古 日本はお米の文化ですが、かつてお米を食べられたのは特権階級や都市部の人たちで、農民は小麦や蕎麦や雑穀を食べていました。うどん、ひっつみ(すいとん)などはその代表です。こうした米の代わりとして丼一杯で食べられる簡便食は、日本に昔からあります。それが肉を食べ、油脂をたくさん摂るようになって、かたちを変えたのがラーメンだと思います。

筑摩書房刊2015年■和食はご飯がおいしい発酵調味料の料理
―― 世界無形文化遺産に和食が認定されてから、和食の露出がものすごく増えました。和食とは何かという問いかけも多く、阿古さんも和食をテーマに本をまとめられました。
阿古 ええ。最近の和食に関する表現で気になっているのは、一汁三菜と出汁にこだわりすぎているところです。今回の無形文化遺産登録が京都の料理人の方の働きかけから始まったからかもしれませんが、京都風に一汁三菜でなければ和食ではないということではありません。出汁にしても昆布だしは北前船が行き来した日本海側と関西、沖縄。鹿児島から太平洋側は鰹だし、瀬戸内には飛魚だしがでてきて、江戸に来ると関東ローム層で京都とは地質が異なりできる野菜が違う、食べ方も濃い醤油をたっぷり使って食べる。全国をつぶさに見ていくと、出汁ではなく素材のうま味を醤油で味付けする食文化だったところもあるのだろうと思います。

―― では、阿古さんは和食をどのように捉えているのですか?
阿古 特定の料理ではなく食の文化だと思います。日本では米は特別なもので精神的な支柱、瑞穂の国といわれるように、稲が実って頭を垂れるのを見て安心するような心性があります。和食の核はお米で、ご飯をおいしく食べられるように料理が整えられていきます。味付けは発酵調味料で、味噌、醤油、酢、味醂などすべて麹を使って発酵させてつくたものです。外国から入ってきた素材や料理を、ご飯がおいしく食べられるように手を加えてきた結果が今のカレーやハンバーグです。こう考えると、一汁三菜だけでなく、これらをもう和食といってよいのだろうと思います。

―― 同感です。日本化した洋食も含めて和食だと思いますが、ラーメンも和食に数えますか?
阿古 和食の文化として核は米なのですけれど、先ほどお話ししたように、並行して米が食べられない者の雑穀食や麺類がありました。これも和食ですから、その延長としてラーメンも入ってくるのではないでしょうか。

―― あとはパンですね。数年前に家計調査で支出金額でパンが米を抜いたと話題になりました。
阿古 日本でパン食が普及したことは、戦後にアメリカがパン食に誘導したからという文脈でよく語られます。たしかにそれも理由のひとつだろうと思いますが、日本のパンは欧米の固いパンではなく柔らかいコッペパンです。皮がパリッっと固く、中身がギュッと詰まった腹持ちのよいパンではありません。昔、給食で出てきたフランスパンも皮が柔らかかったですよね(笑)。固いのを好むのは欧米帰りや一部のパン好きの方で、みんなが好きなのは柔らかいパンなんです。それにクリームを入れたり、カレーを入れたり、具材を挟んだりして食べます。こういう具材パンは欧米にはほとんどありません。デニッシュでちょっとありますけれど、日本のようなバラエティはない。たぶん具材パンは丼物なんです。ご飯におかずをドンと乗せて食べるのをパンに置き換えた。
 それで日本人がソフトパンが好きなのは柔らかさがご飯に通じるからではないかと思っていたのですが、先日、台湾に行ったらパンが柔らかかったのです。台湾もご飯を食べますから、ご飯のところではパンが柔らかいのではないかと。

―― おもしろい見方ですが、ベトナムはご飯なのにフランス統治が長かったからか皮がパリッと固いパンです。ご飯文化圏はソフトパン説は、もう少し情報を集めたほうがよいかもしれません。


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