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第1回 ハッピーを大きくしたプレミアムビール
狩野卓也


第2回 変わりゆく饗宴外交
西川恵


第3回 かかりつけの名医のみつけ方
松井宏夫


第4回 日本の赤ワインの礎「マスカット・ベーリーA」
坂田 敏


第5回 週末はいつもアウトドア
廣川健太郎


第6回 不可能の壁を超える実践優位のマーケティング
石井淳蔵


第7回 ブレンダーという仕事
輿水精一


第8回 過去の体験が濾過されて曲になる
村井秀清


第9回 グラスはつくり手と飲み手をつなぐ
庄司大輔

第10回 落語を世界へ 英語で伝える日本の話芸
立川志の春


第11回 和食は「ご飯がたべたい」料理の文化
阿古真理


第12回 若者のための酒場歩きガイド
橋本健二


第13回 画像で気持ちが伝わる ネット口コミが市場を動かす
徳力基彦


第14回 創業60周年 復活した十三トリスバー
江川栄治


第15回 カクテルバーのコミュニティ
豊川紗佳


第16回 次に目指すは日本のバー文化の底上げ
坪倉健児


第17回 カクテルアワード受賞経験を倉敷で活かす
松下知寛

第18回 地域でつくるオペラアカデミー「農楽塾」
中嶋彰子

第19回 「消費されるワインの最高峰」を目指して
椎名敬

酒論稿集
酒器論稿
画像で気持ちが伝わる ネット口コミが市場を動かす
■火種と広がる理由は違う
―― 今年の3月ごろにお書きになったブログで、「保育園落ちた日本死ね」の書き込みがテレビも巻き込んだ大騒動になった経緯を考察していらっしゃいました。そこでは、インターネットの書き込みをネガティブなものと捉えている人が少なくないこと、問題の火種と広がる理由の取り違え等を指摘しておられます。
徳力 日本では「2ちゃんねる」のイメージが強いため、インターネットの書き込みを、悪い奴らが匿名で悪いことをしているように捉える方は少なくありません。「保育園」の件では、国会でこうした方々が書き込みを事実なのかと疑い、書くならば実名で書けと反発したところから、大きく採りあげられるようになりました。
 火種は最初の書き込みですが、テレビや新聞を巻き込む大きな騒動にしたのは、国会での問題の取り違えが原因です。国会では書き込みが事実かどうかを問題にし、偽物だと考えている態度が垣間見えました。ですがこの時点では問題はそこではなく、多くの人たちが「保育園落ちた」という書き込みに共感していたところにありました。これを無視した対応が騒ぎを大きくしてしまったのだと思います。
 東京オリンピックのエンブレム騒動や過去の企業の炎上した例でもそうなのですが、炎上原因の誤解がさらなる炎上の火種になっていること、そしてメディアを通じて逆ギレする様子を見せてしまうなどの行動が、問題を悪化させたことが共通します。常に多くの人達に見られているという意識を持つことが重要で、ペヤングの異物混入騒動なども、初動の対応次第では展開は違っていたと思います。 これらはトラブルの対応という意味でだけでなく、いい声を可視化してポジティブな方向にもっていくプロセスに役立てたい知見です。

■伝統を広く捉えたストーリーづくり
―― 酒類のマーケティングにも関心がおありだそうですね?
徳力 はい。今回のお話をいただいた時に、むしろいろいろお聞きしたいと思いました。酒類業界は長い歴史があり、市場は成熟しています。そこで抜きんでるのは難しそうに見えますが、一方で『黒霧島』や『獺祭』のように突き抜けて急成長する商品が出ています。それが芋焼酎の本場の鹿児島ではなく宮崎から出たり、日本酒の印象が薄かった山口の酒蔵だったりするのをとてもおもしろく感じます。

―― どちらも大成功していますが、特に『黒霧島』はスタンダードな市場での成功ですから、とてもユニークです。『獺祭』は高級酒であり海外の新しいマーケットを開拓して伸びていますから、まだわかります。
徳力 そうですね。『黒霧島』は焼酎というコモディティ市場で、特別な技術革新があったということではないと思うのですが飛躍的な成長を遂げた理由はなんなのでしょうか?

―― 芋焼酎の人気に最初に火がついた1990年代の前半は、鹿児島の『森伊蔵』『村尾』などが高級酒の市場を開拓しました。1998年にスタンダードな市場で『黒霧島』が全国発売となり急成長します。芋焼酎の上級酒市場では「黒麹」が人気のキイワードになっていましたが、スタンダード商品で商品名に「黒」を冠す、味を色で想起させるネーミングは初めてだったかもしれません。
徳力 黒豚とかの「黒」のイメージなんですかね?

―― 正直、『黒霧島』の成功の理由はよくわかりません。次回までに調べておきます。
 清酒メーカーのコミュニケーションについては何か思うところございますか?
徳力 日本の会社は伝統を狭くとらえすぎるところがあるように思います。よく酒蔵が昔から地元で愛されてきたと言いますが、物流や流通網がなかったからその地に留まっていただけ、仕方なく地場に居たという見方もできます。

―― ええ。酒蔵の集積が厚い地域は物流の拠点であることが多いです。灘は江戸への海運、伏見も淀川の港、広島の西条は電車が通ってから酒造業が発達しました。
徳力 なるほど外でも売れる酒をつくったところが産業化したのか。

―― 立地に関しては、いい水が湧くところに酒蔵ができたとよく言うのですが、物流の便だったり消費地に近かったりというビジネス上の優位性も強く影響しています。また、どんな料理に合うかと聞くと、決まって地元の食材や郷土料理をあげますが、今や郷土料理ばかり食べているお宅はあまりありません。全国どこでも、カレー、餃子、焼肉のほうが馴染があって、高級料理は洗練された味になっています。
徳力 それも伝統を小さくとらえすぎている例だと思います。料理との相性も郷土料理を超えていったほうがいい。
 ネットの世界では技術の新しさに目を奪われがちなのですが、酒のような伝統のあるものは、古いものの見せ方や伝え方で大きく変わるのだろうと思います。酒を飲むのは目隠しして飲むわけではありませんから、ブランドや商品が秘めたストーリーと一緒に飲んでいます。

―― なのに「熟練した技で、真心を込めてつくりました」とか「地元の米でつくりました」で止まってしまいます。
徳力 伝統産業はそう言ってしまうことが多いですね。海外に向けてはそれが特徴になるかもしれませんが、国内では差別化になりません。職人は求道的で寡黙と思っているのかもしれませんが、表現しなくていいと考えるのは間違いです。
 大昔に遡ってみるとストーリーづくりの手掛かりがあるのではないでしょうか。銀座の商店街の方々が伝統というものは、古いものをただそのまま守ることではなく、時代に合わせていかに変えていくか、革新こそが大事だとおっしゃっていました。その革新をする際に、何を守って何を変えるのかが大事なのではないかなと思います。

―― 『獺祭』の桜井社長は2000年頃から海外とおっしゃっていました。地元に市場を持てなかったので東京に活路を求めた、その延長にニューヨークがありパリがある。何も特別なことではないと。
徳力 おもしろいですねえ、いかにも長州らしい発想です。私も山口の出身なのですが、実は数年前まで『獺祭』を知りませんでした。東京の知人から山口にすごい酒があるとすすめられて驚きました。

―― 『獺祭』をはじめ最近注目される酒蔵はどこもトップが能弁です。自分はどう考えて、なぜ、この酒をつくるのかをしっかり語ります。言葉が出るからマスコミが重宝に使い、信奉者たちがカリスマ化させてしまうのに危うさを感じますけれど……。
徳力 大勢のアンバサダーを育てて、上手に可視化を仕掛けていくと次の展望が開けると思います。

―― そうですね。本日は興味深いお話をありがとうございました。

(2016年5月30日 於 響銀座三丁目店 聞き手:酒文化研究所 山田聡昭)

【プロフィール】
徳力基彦(とくりきもとひこ)
NTT、IT系コンサルティングファームを経て、2002年にアリエル・ネットワークに入社。情報共有ソフトウェアの企画や、ブログを活用したマーケティング活動に従事。2006年からは、ブログネットワークのアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。現在は取締役CMO。日経ネットマーケティングでの「カンバセーショナルマーケティングの近未来」の連載等、最新のネットマーケティングに関する複数の執筆・講演活動も行っている。

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