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2.ブレンダーの仕事
 プロローグのアッシャー氏に関する話のでブレンダーの仕事を垣間見ることができるが、現在のブレンダーの仕事の主な物をもう 一度整理してみると次のようになる。
(a)新製品の中味の開発
 一般的に酒類はライフサイクルの長い商品であるが、市場や技術の変化の中で、新しい価値をもった新製品の開発は欠かせない。こ の仕事は、新商品のコンセプト、それに合致するウイスキーの味わいイメージの創出、多くの試作と社内・社外パネルによる評価を中 心に作業が進行するが、ブレンダーは同時に原酒在庫との関連での供給可能数量、コスト、生産工程上の問題の有無等をチェックしてお く必要がある。
 その他、新製品の品質に関する訴求点を、広報、宣伝、営業、流通向けに準備する仕事もある。発売に前後して、新製品に関する説 明会やセミナーもおこなう。新製品開発、導入に伴うこういった仕事は近ごろの市場の成熟化、競合の激化で複雑化し、ブレンダーの 仕事の中で大きな比重を占めるようになった。
(b)既存製品の品質維持・向上
 ウイスキーも典型的なブランドビジネスであり、常にユーザー満足度を高め既存ブランドの価値を向上させることは、ブレンダーの 最も重要な責務といってよい。製造品質(日常の品質管理)の観点と、設計品質(商品力強化)の観点からご説明したい。
@製造品質の管理
 よく、「原酒は一樽、一樽品質が違うといわれるが、どのようにして製品の品質を一定に保たれるのですか」、という質問を受ける。 この質問へのお答えは次の通りである。
A ブレンドの作業は、商品毎の基本レシピ(どこの蒸留原酒で、どのような樽で、何年間、どの貯蔵庫で熟成させたもの、を基準と した配合比率表)に従っておこなわれる。
B これらの基準の中での品質の変動、例えば同じような樽なのに品質が異なる、で許容幅を外れる物は除外する。
C 許容範囲内のバラツキは一回の生産規模を大きくする(一度に払い出す樽の数が多い)ことで消してしまう。少量生産品の場合は手 作業で一樽、一樽の選別を厳しくする。
D 原酒の払い出し工程の後は原酒どうしを混ぜ合せるヴァティング、ブレンド、後熟後の払い出しの各工程でのソレーラーシステム (大きなタンクで混合した後、次の工程に払い出されるのはそのタンクに入っている容量の二〇%だけで、残りに次回の混合がされる。 シェリーのソレーラーシステムに準る)。
E これらすべての工程で特別な訓練をした者が厳密な品質管理をおこなっている。
以上のような仕組みのおかげで、近年製品中味に対する消費者からのクレーム率は数ppm(百万本に数本)以下になっている。
A設計品質の管理
既に相当の支持を受けている既存品とはいえ、「現在の設計品質が現在から今後も正しいか?」というのは非常な難問である。なぜ なら各ブランド、あるいは商品カテゴリー全体としても、顧客の支持は今後の社会情勢、消費者の価値観、競合状況、会社の行動等に よって大きく揺れるからである。当面の課題としては、社内での厳格な品質評価はもちろんのこと、ユーザーの意識や評価調査、競合 状況の変化等を総合的に勘案して、品質向上への手を打ってゆくことになる。
 長期的な計画は一層難しい。ウイスキーの商品特性は貯蔵熟成が必要な点にあり、原酒の蒸留からスタートした打ち手は数年から一 〇数年先にしか実用化されない。スピードが決定的といわれるこの時代には極めて不向きな面がある。幸い、ウイスキーには目先の流 行を超えた不易の価値、すなわち自然、原料、製法、時間、人のスキルが渾然となって生み出す複雑で豊潤な味わい、快適なドライさ、 品質バラエティの多さ、飲むことの楽しさを倍加するストーリー等々がある。まさに人類が創り出したベストの蒸留酒である。この中 で、創意工夫を凝らす余地はまだまだ多い。
(c)原酒在庫のマネージメント
 新製品の開発にしても、既存のブランドの品質リファインにしても、すべてブレンダーの手元にどのような原酒がいくらくらい在庫 されているか、に制約される。在庫はまた今後の販売計画(長期的には予測に近い)でその適否が決まるが、この販売予測を基に商品 計画やその品質計画を組み合わせて需給計画を策定するのも、ブレンダーの基本業務の一つである。ウイスキーには長年の貯蔵熟成が 必要で通常年間販売数量の八?九年分の在庫を抱えるため、事業の資金計画や決算上の影響も多大である。在庫を決定する要因は、長 期の販売予測、商品ポートフォリオ、品質計画などがあるが、計算の結果から具体的な配合計画、新規の蒸留計画、さらに樽や貯蔵庫、 蒸留設備のプランまでが導き出される。
 コンピュータ導入以前は、算盤と計算尺による手計算で難儀したものだった。現在はパソコンの進歩で計算は容易になったが、製品 数が増えたり、市場状況が大きく変わったりで作業が楽になったとは言い難い。ともかく、一五〇年前のアッシャー氏の悩みを我々は今 も受け継いでいる。
f品質訴求活動
 ここ一〇数年ブレンダーがお客様に直接商品の品質や製法について説明する機会が増えた。この背景には、@消費者や流通にかかわ る人々のウイスキーに関する知識が大幅に増えた、A商品数が増え、商品の特性、他の商品との差別性を明確に説明することが必要と なった、B会社としては、自社の商品やつくりの特徴を訴求し支持を増やす、また飲み方等のソフトな情報の提供で市場を開拓する、 等がある。
 ブレンダーが直接説明申上げる方々は主として、流通、マスコミ、オピニオンリーダー等の方々、社内営業部門等である。近年実感 することは、これらの方々のウイスキーに関する知識の豊富さと品質の評価力の向上である。こうした活動を通じて、社外の関係者か ら直接にご感想、ご意見を頂戴でき、それを今後の仕事に活用してゆくことはブレンダーの原点でもある。そういえば、オリジナルブ レンダーは皆顧客と直接対面する商人だった。アンドリュー・アッシャー、ジョン・ウォカー、ジョージ・バランタイン、トーマス・デ ュワー、鳥井信次郎等などすべてメーカーというより商人としての色合いが強い。

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