時代や文化とリンクしたお酒に関する旬の情報サイト
酒文化研究所ホームページ
会社概要酒文化の会メールマガジンContact UsTOP
イベント情報酒と文化コラム酒文研おすすめのお店酒文化論稿集酒飲みのミカタ特ダネ
海外の酒めぐり日本各地の酒文化見学できる工場・ミュージアム酒のデータボックスアジア酒街道を行くリンク集

 
<論稿集トップへ

「天の美禄」を止めますか?

大人の文化と酒の飲み方

ワンカップはどう生まれ、どこへ行くのか?

「酒を混ぜる文化」考

諏訪杜氏の特質と「出稼ぎ」労働力輩出の背景

日本の蒸留酒の未来(上)

日本の蒸留酒の未来(下)

酒を交ぜる 酒を寝かす

大地の精霊とワイン

文明化の一極として
  ある文化の酒


「乾杯」越境した酒作法
酒論稿集
酒の文化論
「乾杯」越境した酒作法
「日本酒で乾杯」の誕生
 時代を一気に進めたい。酒や主食の米がふんだんに供給されるようになる昭和四〇年代。それまでは、経済の成長にともない清酒の需 要も着実に伸びてきたが、いよいよ頭打ちの傾向が見えはじめる。この二〇年間の清酒産業は、大量生産、安定生産、コストダウンの 方向が主なテーマであり、飲酒シーンの開発やよりおいしい酒の開発というのは二の次だったのだろう。洋風化が進む都会の食生活、 家庭内家電三種の神器、冷蔵庫が完備される中でビールが大きく成長していく。昭和三四(一九五九)年には総消費量でビールが日本 酒を抜き、ある意味では国民酒の地位を奪う。そして昭和五〇(一九七五)年に清酒の販売量はピークを打ち減少に転じる。
 冒頭で紹介した日本酒造組合中央会では、昭和四七(一九七二)年の田中総理の訪中時の周恩来首相の招宴で、何回かマオタイ酒で 乾杯する場面がテレビで大きく映し出されたことに大きな刺激を受ける。中国は賓客をもてなすのに、自国の酒を供しているではない か。しかも自国の食文化・飲酒スタイルのロジックの中でそれを打ち出している。さっそく時の大平外相に対して、政府公式行事への 日本酒の使用を働きかけることを始めた。当時の陳情書によると、

 諸外国においては、国際的賓客を接待するに当たり、その国の国民酒による乾杯で始まる。国民酒はその国の歴史の所産で、その国 の文化と国民性を理解するには、これにまさるものはない。―中略―田中総理の訪中の際のマオタイ酒による乾盃はいまだ耳目に新し いところである。しかるに仄聞するに、わが国では、公式のレセプションにおいて、日本酒を使用していないとのことであるが、わが 国の向上した国際的、経済的地位の現状からみても、まことに遺憾である。以下略―

 以後徐々に、政府主催の外国主賓歓迎夕食会などでも日本酒で乾杯することが始まる。昭和五〇(一九七五)年には三木総理主催の、 ルーマニアのチャウシェスク大統領夫妻歓迎夕食会での公式レセプションが、はじめて日本酒の乾杯で始められた。それから三年後の 昭和五三(一九七八)年のシェール西ドイツ大統領夫妻を迎えての宮中晩餐会では、従来の慣例を超えて、初めて日本酒で乾杯された のは特記すべき事項であろう。この昭和五三年は、一〇月一日の日本酒の日を制定した日でもあり、当時の日本酒造組合中央会の需要 拡大に向けるさまざまな努力が大きく結実した年とも言えるだろう。

もてなしの捉え方の違い
 これらの運動は、米消費拡大などとも絡み合って政治主導の形で進められたが、実際に外国公賓を接遇する外務省の判断はこれとは 異なるもののようである。寺西千代子氏(外務省儀典官室・現エドモントン総領事館主席領事)の著書『国際ビジネスのためのプロト コール』(発行・有斐閣)によると、外務省としては接待するにあたり、慣れていないお酒(日本酒など)を奨めるのは接待というこ との本質から推奨していないのある。いわんや乾杯に日本酒を扱うことなどもない。そもそも欧米方式のテーブルマナーでは、日本の ように大仰な乾杯というものは少ない。主賓の挨拶程度で、会話を楽しみ途中でなにかしらのイベント的に乾杯が織り交ぜられること もある程度なのだから、日本式での乾杯推進には否定的なのも無理からんことではある。
 つまり、こと国賓、公賓に対して日本酒での乾杯を推進するということでは、理解が不足していた。政治家や日本酒関係者が日本文 化の伝導という観点から乾杯を奨めようとしても、接遇の責任者、事務局側はなるべく正当的な欧米スタイルを踏襲したいのだ。極端 に言えば、鹿鳴館以来の考え方に基づいていると言ってもよい。ここに大きなミスマッチが生まれていたのだ。このことは、同じよう に、現代の若い世代という異邦人に対して、乾杯を奨めていくときにも留意しなければいけないことになるだろう。
 一方で、酒造組合中央会では更に一歩進めた形で、催事での鏡開きの利用を推進するために、毎年二〇以上の団体に日本酒樽を寄贈 するという需要促進活動を進めた。
 これも一定の効果は産み出すが、樽酒を開いて飲むということは、一般人が実践するにはハードルが高い。セレモニー・イベントと してのインパクトはあるものの、日常の飲酒や乾杯に結びつけるまでには時間がかかりそうである。  

<<前頁へ      次頁へ>>