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「乾杯」越境した酒作法
酒論稿集
酒の文化論
「乾杯」越境した酒作法
移ろふ乾杯の酒
 ビールが中心となり乾杯という行為が生まれ、宴会の中の礼講的な部分そのものが簡略化されていった中で、九〇年代以降になると バブル景気も手伝い、乾杯の酒にシャンパンやスパークリングワインを使うことが目立ちはじめる。言うなればより西欧風、フランス の方式に倣う形式が出始めてくる。これは、ワイン文化の浸透の影響もあるだろうが、自動車レースやサッカーJリーグなどの影響も 少なくない。例えば、それ以前にはプロ野球の優勝チームは必ずビールで乾杯&ビールかけと進んでいたものが、いつしか、メジャー リーグやJリーグを見習いシャンパンも併用されはじめた。こういうものがテレビで広く放映されると、若者に与える影響は強い。以 前、弊社の酒と健康フォーラムに参加していただいた元ヤクルトスワローズの内藤投手は、友人の「ぜひビールかけをやってみたい」と いうリクエストに応えて、自宅で正月にビールかけをやっていると話していたくらいだ。こうして、若年層を中心によりセレモニー的な乾杯は、格好よさ、楽しさが追求されてい くのだ。ビールよりもはるかに高価なシャンパンが、こういうシーンに入れたのはなぜであろうか。ワインブーム・スノッブの誘導もあったかも しれないが、単純に格好よく見えるということがいちばんのポイントであろう。しかも、情報鮮度も高い。そういう面で比較すると、 日本の伝統酒である日本酒や焼酎には、格好よく乾杯するというスタイルが依然として見えてこない。
 そんな中で、自己のアイデンティティを確認することを強めていくことから地元の酒への移行が図れた典型例として、沖縄の話があ る。酒文化の会会員でもある久米島の久米仙の島袋周仁社長はかつて弊社のインタビューに際して「復帰以前の沖縄では酒造組合の会 合でも、乾杯や飲むお酒はほとんどアメリカ産のバーボンであった。泡盛メーカーの集まりでこんなバカな話があるかと思い、あまり 参加しませんでした。復帰後数年してこれは改まり、泡盛で乾杯するようになりましたが」と語っている。そして最近の沖縄での宴会や 飲酒事情について同社の平営業部長は、「さすがにホテルなどの宴会で、最初の乾杯はまだビールでおこなわれる方が多いですが、乾 杯が済むとほとんどの方が泡盛の水割りを飲まれますね。ウェルカムドリンクもほとんどの場合には泡盛ベースのカクテルか、泡盛の 水割りを使うところが多いようです。最近では、うっちん割りといって泡盛と沖縄特産の鬱金(うこん)を混ぜて飲む人も増えています」と言う。 沖縄の場合は特殊事例と言えなくないが、成功すれば乾杯やセレモニー的なお酒も変わりうるというひとつの事例であることには間違 いない。それは製造者側の独りよがりではうまく広がらないのは言うまでもない。この泡盛カクテルの普及に大いに効果を生みだした のは、実は一昨年の九州・沖縄サミットかもしれない。

故小渕総理のこだわりが生んだサミットの酒

 沖縄で開かれたサミットの酒はどうであったか。このときのサミットは、従来の日本で開かれた国際会議とは接遇という意味ではか なり異色であった。沖縄で開催するということからしてかなりの波紋を呼んだが、これは故小渕総理の強い意志の現れである。そのあ たりの事情を毎日新聞論説委員の西川恵氏が『外交フォーラム』(発行・外務省)に詳しく書いている。
 酒については、田崎真也氏が総監修して、泡盛のカクテル〜栃木県の知的障害者施設で作ったスパークリングワイン、日本酒のスペ シャルブレンド〜赤ワイン各国のブレンド〜泡盛の古酒と結んでいる。ブレンドした泡盛、日本酒、赤ワインはすべて当日用のスペシャ ルでレシピも残していない。日本酒は九人の出席に合わせて九種類の銘醸酒のブレンド、赤ワインは参加各国の酒をすべて含めたブレ ンド。さて、そのときに食前酒では泡盛カクテルが用意されていたのだが、シラク仏大統領、シュレーダー独首相は、いきなり「サケ」 を注文した。しかしその食前酒を楽しむ部屋には、日本酒、泡盛ともに用意がなくソムリエが取りに行く。正餐が始まると、乾杯は国 産スパークリングワイン。一の膳が配られると、日本酒・赤ワインがサービスされるのだが、ブレア英首相はフランス料理なのにビー ルを注文。これも用意がなかったが、料理人の打ち上げ用のビールを出して事なきを得る。クリントン米大統領とシラク仏大統領は赤ワ インのブレンドの素晴らしさを誉め、プーチン露大統領とシュレーダー独首相はもっぱらブレンド日本酒を飲んだようだった。
 食後酒の泡盛古酒ブレンドは出席者の平均年齢に合わせて五七・八歳に調合。これも話題を呼んだ。プーチンとシュレーダー両氏は その後もカルバドスを飲んでいたらしい。このように、酒のひとつひとつまで工夫をこらした宴席を日本政府が開いたのは初めてのこ とだろう。
 沖縄から出発して、日本を包み込む日本酒ブレンド、世界を包む赤ワインブレンド、そして最後に沖縄に戻り時空を超えた古酒ブレ ンド。トータルメッセージで二一世紀に向けた世界の調和。できすぎたような話だが、このようなコンセプトで作成されている。
 なぜこのことを延々と紹介したかといえば、このように基本は押さえていても、乾杯・接遇というものは現場ではかなりフレキシブル に変わるということ、そして遠来の客は、やはり地元の酒を飲んでみたいという欲求が強そうだということの事例としたかったからだ。 ただ単に世界的に高名なワインを用意するのでなく、ホスト側が自己主張するお酒のチョイスで見事にもてなしを成功させる。このよ うなことこそが、日本酒で乾杯の真髄でもあるはずだ。

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