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定義が厳格なウイスキー
稲富 ウイスキーの定義の問題は、主として海外からの圧力がずっとありました。世界のウイスキーの主なものは、スコッチ、アイリッシュ、バーボン、カナディアン。それらは全部、どちらかというとケルト人の流れが造ったんです。日本のウイスキーもスコッチを範に取っているから、これもケルトの流れですが、彼らは長い歴史のなかで定義でさんざん揉めてきた経緯がありますので、あの人たちの精神構造としては非常に厳格に定義したがる。それで「こういったウイスキーはけしからん」という話がずいぶんありました。
 ウイスキーの定義を構成している要素は三つです。原料は穀類。それからもちろん蒸留酒であるということ。蒸留の仕方も、原料の特性をきちっと残す。ですから九五度以上でアルコールを取って蒸留したものは、それはスピリッツにしかならない。さらにそれを、樫の樽で三年以上貯蔵するものとか、これでないとウイスキーと認めないということになっています。ですから私、さきほどのお話を聞いてまして、甲類焼酎を「焼酎」と命名した人はある意味で天才だと思いました。
−ジャンルとしては、本来はかなり離れたお酒だったわけですからね。
鮫島 蒸留酒の世界で、甲類と乙類は両極端です。乙類焼酎は、ウイスキーのモルトがいちばん近い。まったく違うものが同じ名前になったというところに、問題の根本があるわけです。
稲富 鮫島さんのお話で、商品開発のための工夫が効く自由度があったということがありましたが、自由度の広さというのは一面ではいいんですけど、片方では、ではなにが乙類焼酎なのか、なにが芋焼酎なのか。どの酒でも「らしさ」ということが必要なので、そのあたりの折り合いのつけ方が問題として残るのでしょうね。
鮫島 ひとつには開発をする時のこだわりというのもあります。酒税法では認められているけれど、これはやってはいけないことだというのもある。表示が細かくなかった頃は砂糖の添加をしているところもあったようです。ところが、そのことを表示すると決めた途端に消えたわけですよね。砂糖を入れることが認められたままだと、蒸留でいかにその味を出していくかという技術がストップしてしまう。蔵ごとの個性もなくなってしまう。
 そういう意味では、本格焼酎の表示は厳格にできていて、芋焼酎のなかに麦焼酎を一滴入れても、原材料表示がいる。使ったものは全部書かないといけない。
ー逆にちゃんと書いておけば、大根でもキャベツでも許されるわけですか。
鮫島 認めるわけではないけれど、まあそうしましょうという方向です。

ウイスキーに熟成は必須か
稲富 ウイスキーでは、たぶん過去二、三〇年ですけれど、やはりウイスキーとはなにかという議論がいっぱいありました。より本格的なもの、より長期貯蔵熟成したものとか、そういうところに非常に力を入れてきました。あるいは最近十数年でしたら、これは「先祖返り」なんですけれど、シングルモルトでけっこう成功を収めたと思うんですよ。
 ただ一方、広い裾野を見ると、たぶん焼酎にたくさん譲り渡したところがあると思うんです。それでは、なぜ譲り渡したのか、取り戻す可能性はないのかと、もう一度見直す必要があると思っています。
−一九八九年に酒税法の改正があって、特級ウイスキーは前よりもものすごく安くなりましたよね。安くなったのに量が増えたかというと、増えてない。
稲富 ですから、価格の問題ではないでしょうね。
鮫島 消費者が選定する基準が、わからなくなっているんでしょうね。たとえば、いまモルトウイスキー、オールモルトとかあるけど値段が安い。だったら、昔のあの高いウイスキーはいったいなんだったのという話にもなりかねません。だから価格と商品設計は、非常に難しい世界だと思うんです。ほんとうに味のわかる人であれば、長期熟成だからということで納得するのかもしれませんが。
 だけど熟成させたものがいいかというと、必ずしもそうではないと思う。焼酎の世界からいうと、新酒には新酒のおいしさがあります。寝かすことによって、また別なよさに変わって出てくる。だから寝かせたものの値段が高いのは、貯蔵コストがかかっているから高くなっているだけの話で、長期物より新酒が安物だという発想がもともとない。
−確かに焼酎の場合は、そこに価値観の差がないですね。
稲富 ウイスキーでも、熟成年数の短いものがよくなくて、うんと長いものがいいかというと、必ずしもそうではないと私は思っています。若いウイスキーはフレッシュ感もあるし、飲み方によってものすごくおいしいわけですよ。もちろん長期に熟成したものは熟成のよさが出てきますから、それはそれでそのよさを楽しんでいただければよい。一方向に流れるのはあまりよくないと思っています。
鮫島 たぶんそこのところが、まだ一般に認識がないんだと思いますね。
稲富 世界のほとんどの蒸留酒は、べつに長年樽かなにかで貯蔵されて飲まれているわけではないと思います。三年貯蔵くらいならばあまり樽の影響を受けずに、もともと蒸留されたスピリッツの個性が非常によく出ている。あるいは若いなら若いなりのよさを持っているのですが……。
−現実にそういうウイスキーは、過去に商品化されていたのですか。
稲富 従来はたぶん、そこはブレンドの世界でやっていたと思いますね。
 歴史的に見ますと、ウイスキーを造っていくうえで三つくらいの大きな技術革新があったと思っているんです。それはみな、一九世紀にスコットランドで起こったことですけど、ひとつは連続式の蒸留機の発明。ただこれもスピリッツにはしないように、九五度未満で蒸留する。このグレーンウイスキーの登場で、いわばひとつの新素材ができた。ふたつめが、これは技術革新というより発見でしょうが、樽に入れておくとおいしくなることを見つけた。実際、樽で貯蔵したものが好まれた。三点目がブレンドで、グレーンを使って新しいジャンルの製品、すなわち、ブレンデッドウイスキーを開発しました。
 その当時、産業革命が起こって、人々が豊かになって膨大な中産階級が出てきて、そうした人々は昔の労働者階級ではないから、モルトウイスキーよりももう少し風味の軽いものが飲みたい。そこに、ブレンデッドウイスキーが商品としてフィットした。

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