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大人の文化と酒の飲み方

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大人の振る舞いと伝承
 しかし、「大人の場所」では、自ずと大人の振る舞いが要求される。それは、一方では他者に対する寛大で暖かいもてなしであり、自分に対しては自己規律である。また、男性はあくまでも紳士的な行儀のよさと女性に対する騎士的な態度を要求されるし、女性は常に「エレガント」であることを要求される。
 例えば、酒の飲み方も、泥酔することは大人のすることではない。自己規律を放棄して、他人に迷惑を掛ける「泥酔」は、最もすべきではない行為ということになる。フランス社会では、泥酔者に対しては厳しい。お酒を飲んで、自己をコントロールできない者は大人の資格がないのである。「酒の上なので」という弁解に対しては誰も聞く耳をもたない。若い者は、若さの勢いで馬鹿なことをするので、興奮させないようにしなければならない、コントロールを効かせるように教育しなければならないと大人は考えている。決して「若さゆえ」許すということはないのである。逆に、早く大人になることが求められる。自己規律が出来て初めて、本当の意味で「自由」を謳歌できるのである。
 では、このような振る舞いを、誰がどこで若者に教えるのか。私の旧知の友人で、ほとんど兄弟付き合いをしているアラン・フォレスト・パリ第七大学教授に率直な意見を聞いてみた。フォレスト教授は次のように語った。「確かに、フランスにおいてどのようにして社会秩序が形成されるかは、内部の人には当たり前すぎるし、外部の人には微妙な問題すぎて、よく分からないことが多いと思う。フランスは自由を尊ぶが、同時に目に見えない社会規律も厳しい。『良く躾けられている』とか『行儀が悪い。家庭教育はどうなっているか』など家庭教育の良し悪しを他人の判断基準に良く使う。また、反ユダヤ主義の言説はタブーになっていて、ユダヤ系の人々に侮蔑的な言葉を吐くことは、それ自体で忌むべき行為として見られる」
「では、どこで教育するのか。それは夕食の時の食卓であろう。現在、どんなに忙しくなっても、フランス人の80%以上は、夕食は家で家族そろって食べることを当然のこととして実行している。その夕食の席で、父親が15歳を過ぎた息子や娘にワインの味わい方を教える。どんな料理には赤ワインが合うとか、白ワインを飲む時には、よく冷やして飲む方が美味しくなるが、どのような準備をすればよいかなどを実地教育する。その時に,飲み過ぎて気持ちが悪くなったり、泥酔して前後不覚になったりすることなどは、恥ずかしむべきことだと教える」
「また、子供が何時大人の扱いを受けるかは、家庭や地方によりけりで、一般的な規則や儀式は存在しない。が、親がワインを飲む家庭では、ほとんどの家にカーヴ(酒倉)があり、そのカーヴに1人で入っていって、ワインを選んでくることを任せられるようになると、大人の扱いをうけるようになったと見なしてよい。40年以上前の話だが、僕の家でも2歳違いの兄貴が17歳の頃、親父にカーヴに1人で入るのを許されたことを好いことに、友人何人かとカーヴに入り込んで、父親の大事にしていたワインを片っ端から飲んでどんちゃん騒ぎをして、その騒ぎを聞きつけた親父が烈火のごとく怒って、『お前らは俺の酒を全部飲み干す気か。すぐカーヴを出て行け』と怒鳴って追い出したことを鮮明に覚えている」
 お酒を飲むことは、自分の気持ちを高揚させたり、気持ち良くなって他人との会話を円滑にしたりするために飲むもので、酔うために飲むのではない。勿論、嫌なことがあって、「憂さを晴らす」ために、アルコールを飲むことは数多く行われているし、多分アルコールを飲む最大の理由であるかもしれない。フランス社会は緊張のきつい社会で、精神安定剤の使用量が世界一の国でもあるから、「憂さ晴らし」や嫌なことを一時忘れるために飲むことも多い。だが、やはり、大人は「酒に飲まれて」はいけないのである。
 もちろん、フランス人のすべてが「酒に飲まれない」のではない。パリの至る所に浮浪者や家なき人(サン・ドミシッル)と呼ばれる人々が居て、多くの場合、昼間から安ワインをがぶ飲みしているアル中患者が多い。厳しい競争に敗退して、職場からも家庭からも見放されて、アルコールだけに頼って憂さを晴らす哀れな姿がある。
 フランス社会は、はっきりとした階級社会の側面もあり、全員がお酒を味わって楽しんで飲んでいるのではない。キツイ労働に耐えるために自分を元気付けようと、朝のカフェでカルバドスやマールなどの強いアルコールの小グラスをコーヒーと共に1杯引っ掛けて、職場に向かう労働者も多数居る。
 だが、「大人」の振る舞いと「子供」の振る舞いは、どの階級をとってもはっきりと区別されている。だが、その振る舞いを何歳で身に着けるかは個人の問題とされていて、凄く若くても大人の振る舞いをする若者もいるし、中年になっても、「子供じみた振る舞い」がとれない大人も居るのである。

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