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明治中期以降における酒造技術の平準化と 産地間競争の激化

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明治中期以降における酒造技術の平準化と産地間競争の激化
 このような技術指導の地域間格差は、醸造試験場で開発された新技術の普及に大きな影響を与えた。図表3をみると、一九〇九(明 治四二)年に醸造試験所で開発された山卸廃止もと法や、速醸法、酸馴養連醸法(以下「連醸法」と略)など新技術の導入率が東北地方 で高く、反対に兵庫県や京都府などの先進地で低い。なお、山卸廃止P法とは、在来法の生もとで行っていた蒸米・麹・水の混合物を櫂 ですりつぶす工程を省いて、労働力と仕込日数を減らす方法である。速醸法は、米・麹・水を混ぜたものへ人為的に乳酸を加えて雑菌 を死滅させた後、直ちに酵母を投入する方法である。在来法では、酵母を加える前の無菌状態を自然発酵による乳酸の生成で用意して いたため、酒母ができるまで三〇日前後を必要とした。ところが、速醸法を用いれば二週間で酒母が使用可能となり、かつ作業工程が 一部省略される分だけ在来法よりも安定した品質を得られる。酸馴養連醸法は、酵母添加した速醸から種を採取してこれを母料とし、 母料中の乳酸含有量を一%とみて、雑菌を死滅させるに充分な三%まで乳酸を新たに加える方法である。そして、新技術の導入率が重 点的に技術指導を受けた東北地方で高く、反対にあまり受けなかった近畿地方で低い。また、関東地方における新技術の導入率が東北 地方に次いで高いのは、明治中頃に酒造技術の自律的な開発と普及に熱心であったことから理解できる。
 以上の結果、明治後期まで在来法の先進的な技術を有していた兵庫県は、醸造試験所の地方産地に対する新技術の普及活動によって 技術上の比較優位を揺るがされた。ただし、在来法よりも速醸法や連醸法の方が香りを出しやすいなど、酒造技術によって出来上がる 酒質は異なる。したがって、在来法による酒質に対して市場の評価が高ければ、兵庫県は業界リーダーの地位を安定化できたはずであ る。ところが、事態はこの反対となり、新興産地優位の品質競争が行われた。この主要な原因こそが、次章で取り上げる品評会である。

4.全国酒類品評会と博覧会の影響
 一九〇七(明治四〇)年の第一回全国酒類醤油品評会(6)開催以前、品評会は主に府県や郡を単位として行われており、審査基準 に地方的特色を有していた。ところが、全国酒類品評会はすべての出品酒を共通の審査基準で評価し、受賞率の高低によって産地を序 列化する。
 審査の内容は、色澤、香り、味を利き酒と理化学的検査によって点数化し、酒精分と甘味、旨味の豊富な強濃醇酒を良酒とするもの であった。この審査基準によって最も恩恵を受けたのが広島県、秋田県、京都府など甘口酒を造っていた産地であり、反対に不利だっ たのが兵庫県や愛知県、埼玉県などの辛口酒造っていた旧先進地であった。なぜなら、酒精分と糖分の間には負の相関関係があるた め、実際の審査では酒精分の少ない甘口酒が高く評価されたからである。図表4をみても、品評会の優良酒は広島県酒と同様にエキスと 糖分を多く含んでいる。
 そして広島県は、出品数に対する受賞点数の割合を示す受賞率(7)が一九〇七年の第一回に七四・四%、一九〇九年の第二回に八 五・六%、一九一一年の第三回に六五・一%、一九一三年の第四回に七八・五%、一九一五年の第五回に七六・六%、一九一七年の第六 回に六八・五%、一九一九年の第七回に八〇・〇%、一九二一年の第八回に七〇・四%と、全国で最も高い成績をあげ、優良 酒のモデルを示した。一方、灘酒は四斗樽で貯蔵、輸送される間に杉の香りを含み、風味を増すことを計算して、貯蔵前の段階であえてエキスの少ない 辛口に造られていた。しかも、全国酒類品評会の開催時期は灘酒の飲み頃である秋ではなく、新酒を対象とした春であった。また、兵庫県は全国酒類品 評会向けの吟醸酒を造らず、辛口の市販酒を出品していたため、好成績をあげられなかった。そして、兵庫県の受賞率は第一回五七・六%、第二回六 九・五%、第三回三七・四%、第四回五六・二%、第五回四六・二%、第六回三六・九%、第七回三二・七%、第八回一八・四%と、地方産地への技術普及が進むにつれて低下していった。

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