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宮水の沿革
戦災を乗り越えて
 敗戦後、焦土化した西宮市の宮水は駄目になってしまったのではと大変危惧されたが、宮水は健在であった。「宮水の成分に変化がない」ことは酒造家にとっては喜びではあったが、「地中にしみこんだはずの汚濁水は、何故宮水に影響を与えなかったのだろう」と言う疑問もわいてきた。
 これは後の調査で解ったことなのだが、宮水地帯の表土のすぐ下に実に堅い層が走っていて、これがフタの役目をして、雨水は浸透せずに海へ流れ去ったのである。確かに、トリガイの貝殻層は存在するが、昭和二四年にはそのすぐ下に焚き火跡が、その後のガス工事の際には貝殻層の中から土錘(「おもり」として使用された漁具)をはじめとした土師器(はじき)などが発見された。考古学者、貝の専門家等によって、貝殻層と思われていたものは、貝塚と断定された(写真3)。
 「宮水が健在である」というだけでおわるのではなく、宮水の本当のところの成因について調べ、あわせて保存対策をも考えようという目論みをもって、西宮の酒造家を中心として、宮水保存調査会(会長は西宮市長)が結成されたのは、昭和二九年のときだった。委員長には、前回の宮水保護調査会で水質調査にあたった京都大学の松原厚名誉教授に委嘱した。
 戦災復興にともなう各種の土木建設工事が、宮水地帯の内外で盛んとなり、水位の低下が宮水井戸に認められはじめたことも、その会の発足の要因でもあった。宮水を涵養している伏流水の保護のためにも、保存調査会は必要であった(現在は灘五郷酒造組合内に移ったが、活動は続けられている)。

住民と共に守った宮水
 昭和三五年、六〇年安保の後、池田内閣は「所得倍増論」をもって登場してきた。それと軌を一つにして、西宮浜の埋め立て問題が浮上してきた。日本石油が石油コンビナートを埋め立て地に建設するというものであった。酒造家たちは、宮水を守るという観点から「日本石油誘致反対」に立ち上がった。それは西宮市を二分する騒動と化した。昭和三八年の市長選挙まで、騒動は続いた。
 環境アセスメントなんて言葉のなかった時に、水質・大気汚染・石油化学・港湾災害・ガス中毒などの専門家を動員して専門家委員会を設置し、闘いを繰り広げた。市民による四日市・川崎・徳山などの視察も行われ、粘り強い闘いが組まれた。
 まさに、日本最初の公害闘争であり、かつ勝利を勝ち取った公害闘争であった。
 反対運動の経費は、昭和三五年一〇月から三七年一二月まで総額(約一四〇〇万円)を寄付金・分担金などでまかなっている。分担金の算出方法は各社の買付原料米数量(注)割りとなっている(大正から昭和初期では酒の製成数量割りであった)。
 ちなみに、西宮十日会(西宮市の今津郷・西宮郷の酒造家団体)のメンバーは原料米一俵に付一〇円の分担金を六回にわたって拠出している。
 この後、昭和三七年には「工業用水法」適用の問題。四一年には山陽新幹線工事。同じく四一年での阪神高速道路高架工事等々の諸問題を経て、「宮水」はどうにか保たれている。
(注)買付原料米ということは、昭和一三年より始まった「基本石数」での統制が一五年には原料米でのそれになったものがまだ「基準指数」として続いていたことを意味する。

【参考文献】
『西宮町誌』『宮水保護調査会顛末書』
『宮水の話』宮水保存調査会編
『西宮市史』
『宮水の保存について』坂下圭弥著・編
『宮水―帯水層の形成とその歴史―』田岡香逸著
『西宮酒造一〇〇年史』西宮酒造且ミ史編纂室編  
『灘の酒 博物館』講談社編
『宮水物語』読売新聞阪神支局編

【プロフィール】
寺岡 武彦(てらおかたけひこ)
1944年生まれ。
辰馬本家酒造株式会社に入社。
現白鹿記念酒造博物館勤務。近畿民具学会、日本酒造史学会会員。
著書「酒造業の産業政策」(森本隆夫・矢倉伸太郎編『転換期の日本酒メーカー』所収)

お酒の四季報 2002年春号

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