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日本酒の国際化

国際化時代の日本酒
酒論稿集
日本の酒の国際化
国際化時代の日本酒
【質疑応答】
日本酒を楽しく飲む

――醤油のように日本酒もアレンジできないでしょうか?
奥村 うちの道楽亭ではよくやります。加工していない絞りたての山ぶどうのジュースと日本酒を一対一で合わせる。ピーチネクター と日本酒を合わせてもおいしい。宝酒造のカルシュウムパーラーは洋梨が効いているので、これと日本酒を合わせてジャパニーズカクテ ルと言ってます。そうすると色、香、味が楽しめる。
 でも酒屋さんが「日本酒はそうやって飲むものではない」と怒るんです。もうちょっと楽しい飲み方をと思います。日本のお茶も食 事もそうですが楽しくない。日本のお酒も楽しくない。飲んでいるとうっとうしくなる。もうちょっと楽しく酒を飲める、そういう雰 囲気作りをするために、酒屋さんからイメージチェンジをしなければなりません。こうして飲むんだ! と押しつけるのではなく、飲 み手の自由な発想で飲むことが文化。もっと遊び心を持ち、楽しく飲めばつい遊楽(はやし)。手拍子がおのずと出ます。この言葉は万葉ことば。 酒は人の心を癒し、かつコミュニケーションをとるひとつの装置です。
 うちでは梅ジュースを作りますが、梅一リットルに砂糖六〇〇ミリリットルにしますと、一%くらいのアルコール発酵をして炭酸ガスができて旨 いんです。これと日本酒を少し合わせると梅酒よりおいしい。江戸時代の梅酒は古酒に青梅でした。それに氷砂糖。焼酎を使うのは明 治より後です。それを新聞に書いたら、国税庁に「日本酒を使ってはいけない」と怒られました。
 日本酒好きの外国人の友人は「大吟醸は食事には重たい」と言います。その時に氷を入れてレモンを落してあげると喜ばれるし、松 葉の新芽を浮かせるとジンの味がします。
 クリームシチューの仕上げに、うちでは生クリームではなく白味噌を入れます。生クリームよりヘルシーで味もよい。それから粕汁 の中に牛乳を入れますと子供達は喜んで食べます。白味噌の中にマヨネーズを入れて、和えものにしたり、魚を焼いたりするとまたお いしい。そんな新しい発想をすべきです。

ワンショットで飲めない日本酒
 神戸在住の外国人三〇人に日本料理を三年間教えましたが、「日本料理は非常に手数がかかる。でも、食べると少し」と言います。 手数の割りにボリュームがないからです。希望の中で一番多かったのが「ワンポット・クッキング(ひとつの鍋でできる料理)を教え て欲しい」。だからすき焼きが人気がある。
 それから白いご飯が恐い。味が付いてないから。外国にもナチュールといって白いご飯はありますが、必ず塩味を付けます。
 それから日本酒は「ワンショットで飲めない。おかずがたくさんいる酒ですね」と言われる。この酒肴作りが日本人もじゃまくさい 日本酒の売れ行きが伸びなくなったのも、アテ(つまみ)を作るのが大変だと家庭の奥さん方が思っているからです。あるいは燗をす るのが難しいからいやだ。そんなことが原因にもなっているのではないでしょうか。一番はいろいろな酒が飲めるようになったからだ と思いますが。
 でも外国人さんはうちへ来ても燗を喜びますね。うちは囲炉裏が切ってありますが、その灰に徳利を突っ込んで燗をします。その場 所が一番の取り合いになります。女性のお客は酌をして自分で「舞子」と言ったりします飲み屋にこんなコーナーをいくつも作って 楽しめるようにする。酒に飲み方やサービスの情報を付けたほうが販売促進に、より効果があるのではないかと思います。

旨みに頼り過ぎる酒
――今のままの日本酒で、海外で大衆に受け入れられるでしょうか。
奥村 今までに言ったような工夫をすればある程度は彼らの嗜好に対応できると思いますが、もう一つ別のタイプのお酒を造られた ほうがよいと思います。世界のトヨタをご覧なさい、あれだけいろんな車種がある。それでないとあれだけの社員を養えないんですか ら。日本酒も、もうちょっといろんなタイプがあってよいのではないでしょうか。
 日本酒は伝統的に旨みを追っかけて来ました。そして、旨みを活かすのは絶対に塩気なんです。塩辛とか。酒の肴はみなそういう味 です。それと酢の物です。米酢がベター。酢の中に旨みも含まれる。味噌、醤油は塩気もありますが旨み、アミノ酸があります。酒の 旨みと相乗していきます。例えば、酒はコハク酸が主ですが、味噌、醤油の場合はグルタミン酸で、それがのっかっていきますとさら に旨みが七倍くらいになります。ですから味噌、醤油の料理で飲むとよけいに旨くなる。
 しかし外国にはないので、外国の料理を研究して、基本から作り方を変えていかないと。今のままは今のままでよいから、外国の料理 に合う別のタイプを造る方がベターだと思います。今あるものをフランスまで持って行くのはもったいない。彼らにはわからない。

スパイスと日本酒
――海外には香辛料が利いた料理が多いですが、そういう料理との相性はどうですか?
奥村 スパイシーでも東南アジアはどちらかというとさわやかな香で、しかも旨みを含んだ魚醤を使いますから日本酒にも合います。 焼肉はビールとは限らず、日本酒ともよく合います。ただし、大吟醸やアルコール度数が高い酒は重たいから普通の酒をといいます。 低アルコール、韓国のマッカリ程度がスパイシーでホットな料理に合います。ただ、インドのスパイシーな料理はどの種の酒とも合い ません。香が邪魔をするのです。この国の料理にもっとも合うのは、水と紅茶です。
 ワインはスパイスとともに発達してきた文化、肉食文化です。そこには油脂もくっついている。
 案外よいのは、月の桂(京都市)さんが出している発泡タイプの濁り酒。上澄みだけでしたらタイ料理と合います。カルピスのよう でちょっと発泡する方が、スパイシーな文化圏では日本酒としては生きていけると思います。水のごとく澄んだ清酒もよろしいが、東 南アジアではココナツミルクをよく料理に使いますから多少お酒が白くても違和感がない。
――そうすると、今よりもっと品質管理が必要になりますね。

*本稿は一九九六年に日本酒造組合中央会が行った「日本文化と日本酒に関する基礎調査」における、奥村彪生氏の講演と質疑応答を再編 集・加筆したものです。

【プロフィール】
奥村彪生(おくむら・あやお)
一九三七年生まれ。現在、神戸山手大学生活学科教授。伝承料理研究家。
専攻は、日本の食文化史、食の美学=盛り付けと食空間。
論文に、「酒肴の変遷」(『論集 酒と飲酒の文化』一九九八)、「日本の香辛料その使い 方と歴史」(『論集 東アジアの食事文化』一九八五)、「食事作法論」(『二一世紀の調理学 1 調理文化学』一九九六)、「世界の食事様式と食卓論」(『二一世紀の調理学2 献立学』 一九九七)、「雑煮と組重」(『Vesta』No.30・一九九八)、他。

月刊酒文化 1999年 12月

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