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二 酒造メーカーの差別化戦略と契約生産
 新たな酒造メーカーが産地と契約的関係に入るのは昭和五〇年代後半からであり、中小規模メーカーがブランド化の可能な希少価値 のある品種から開始された。兵庫県山田錦は新規に産地が形成されにくく、これまでの取引関係を優先すると新たなメーカーの契約に よる参入は容易でない。雄町はある時期には適地とされる旧産地でもほとんど作付がなくなったが、地元の赤坂町のA社は雄町の復活 と産地形成を図った。この会社は雄町の技術が未確立で収量水準も低いため、初期には一俵当たり三〇〇〇?五〇〇〇円の奨励金を支 払い、量的確保が実現されてくると五〇〇円程度にまで低下した。この会社では雄町を中心にした特定名称酒が支配的であり、小規模 ながら大阪・東京市場へ七〇%を出荷している。
 また、伏見の中堅メーカーであるB社は福井県大野地域、岡山県二地域で契約関係に入った。この内で岡山県の地域では一俵当たり 五〇〇円の奨励金を助成していたが、量が確保されたので停止し、ライスセンターの設置とともに運営費を助成する方法に変更している。このメーカーと地元農協は品質管理を徹 底するため有機肥料の割合を増加させ、また農協の紹介を得て数戸の有機無農薬栽培農家を選定し、収量の低下と多労化によるコスト のアップを補償するため一俵当たり二〇〇〇?三〇〇〇円の奨励金が支払われている。この奨励金は農協よりも生産者に直接支払われ るか、生産者グループが運営費の一部として徴収する場合もある。酒造メーカーが農協レベルでまず品質管理を徹底しようとすると食 糧事務所、農協とともに検査に立会い、格付けについて発言することもあり、また独自のより大きな枡目で再選別することもある。
 さらに農協との合意で農家のタンパク含有率などの化学成分などのデータ分析が酒造メーカー側で進展している。現段階ではこのデ ータ分析から農家の選別にまで至っていないが、複数農協からの調達があれば、品質管理の良好な農協からの調達は増加するであろう。 また、品種や地域によって酒造メーカーの調達行動は異なってくる。たとえば、石川県の中堅メーカーのC社は新品種の産地育成を長 野県木島平村(金紋錦)と兵庫県中町より伝統的な村米制度で調達している。この場合ではすべての地域に奨励金を支払うよりも農家 側に有利な取引価格を設定している。
 新潟県ではD社が農業生産法人(有限会社)であるD農研を設立して川上への統合化を進展させた。このD社の立地する越路町は昭和 五八年から五年間で五百万石の作付面積が三倍にも増加し、このD農研も作付面積が二、一ヘクタールから一六ヘクタールにまで拡大された。このD 農研は地元の農家三名の出資者で構成され、冬期を中心にD社の社員として従事し、事務をD社に担当してもらう以外は独立採算を原 則として一人当たり五〇〇?六〇〇万円の給与を保証している。また、独自に五ヘクタールの農地を購入して一七ヘクタールの借地で集落の六〇%の農 地をカバーし、多少の作業受託があり、五百万石よりも確保しにくい「たかね錦」を中心として酒米が生産される。このD農研は化学 肥料の減少やアイガモ農法の導入などでD社にとって環境保全型農業の試験圃場としての性格があり、消費者との交流も期待されている。また、D社は酒米を専用のライスセンタ ーのある地元のJA越路より全面的に調達して、提携関係にあり、この専用のライスセンターは取引特殊的投資としての性格を持って いる。
 以上のように中堅酒造メーカーは高級化のための差別化戦略として酒造好適米での川上との契約関係に入った。この行動は純米酒、 吟醸酒の需要拡大とともに大手メーカーでも契約関係に入る戦略を持ち、単協・経済連との結びつきが強くなっている。すなわち、 灘・伏見の酒造好適米の供給基地である福井県では、経済連が精米歩合七五?三五%で産地精米を実施している。また、交渉力のある 単協でも圃場まで集荷し、乾燥・調整を徹底管理した場合、一俵当たり数百円のプレミアムの支払いがなされている。さらに伏見のE 社との契約関係に入った岡山市内の農協では、栽培の協定・統一を促進している。すなわち、農協側では、@窒素成分五〇%以上は有機を 利用すること、A農薬の中でも倒伏軽減剤の使用禁止、B適正な乾燥・調整、などを申し合わせている。このうち、Bでは自然乾燥型 のライスセンターで高品質管理が可能になり、相互の結びつきが強くなっている。

三 生産者の規模拡大
 新食糧法下では単協との提携がさらに強まっており、農家との契約的関係が拡大しつつある。ただし、計画外流通米に移行すること は少なく、経済連による調整がある。広島県の事例ではこれまで酒造メーカーと産地は同一県内でありながら、「顔の見えない」関係 であったが、山田錦の産地が形成され、酒造メーカーと産地の距離が短縮された。酒造メーカーによっては独自に農家を組織化し、形 式的に単協・経済連を経由する場合もある。
 酒造好適米は山田錦、雄町では取引価格が高位にあることから大規模経営の参入がみられるようになった。これまで酒造好適米は土 地条件の悪い中山間地に立地し、集約管理を必要条件としたことから、五〇アール?一ヘクタールの作付規模が支配的であった。しかし、機械化や団地化で規模拡大が可能になり、広島県の中 山間地では一〇ヘクタール規模の農家が出現している。さらに岡山市内の干拓地では大規模経営者のグループが戦略的に酒造好適米を導入した。 岡山市藤田地区では一〇年ほど前に経営類型の異なる五戸の農家が酒米を導入して研究会を組織し、農家一〇戸、七〇 ヘクタールまで拡大し、平成九年で二三名、一〇〇ヘクタールに拡大した。主な取引先である北陸のF社への出荷量だけでも平成七年五〇〇〇俵、八年七〇〇〇俵、九 年一万俵へと増加している。この生産者グループの中で国定農産(有)は平成二年に雄町二〇ヘクタールを導入し、八年には五七 の内で五〇ヘクタールまで拡大することになった。また、米価の低下は地域的にも酒米の拡大になり、一俵一万円程度はあるといわれる価格有利性は魅力 であった。この藤田地区では圃場が一区画一ヘクタールか五〇アールかであるので機械化と不耕起栽培で省力化さたが、一〇アール当たり八俵の収量を 目標としても収量が変動しやすくなった。この不耕起栽培と以前から実施している乾田直播方式でこれまで一〇アール当たり一七時間にと どまっていた労働時間が一二?一三時間まで減少した。この地域では農業機械への投資額も多いが、裏作利用率が六〇%以上もあって 酒米/ビール麦の二毛作が中心で土地利用が高度化されている。ただし、大規模経営で作業適期が実施できないと倒伏や胴割れの発生 で品質の低下が発生する。
 このように酒造好適米は、適地と小規模経営による集約管理という枠から出て、生産地が拡大され、大規模経営の経営組織に入って きた。このことは旧産地の兵庫県などで高齢化で生産が持続できなくなると他地域での大規模経営を促進することになり、生産の担い 手の性格が変化することを意味する。
 多くの酒造メーカーにとって米は原料であるだけでなく、農業とをつなぐ架け橋であるとの認識が強くなり、川中と川上の情報の偏 在は新食糧法下で緩和されてきたといえる。そして、掛米も含めての農協との提携が強くなるが、現段階では計画流通の枠にとどまる ことになる。

酒造メーカーの統合化戦略
 酒造メーカーは農協レベルでまず品質管理を徹底しようとすれば、生産者の粗タンパクの含有割合、吸収率などの化学成分などのデ ータを集積し、単協との情報化の共有が進展してくる。また、農協のライスセンターは酒米専用のタンクの設置、経済連などへの精米 作業の委託など、契約生産以外の提携関係も見られる。大手酒造メーカーでも特定名称酒の拡大のためにフィールドサービスが充実し た農協と提携するメリットが大きくなり、その農協も遠隔地よりも管理しやすい近接地が選択されるであろう。
 新食糧法下では規制緩和によって生産者の販売の自由度が拡大したが、酒米では計画外に流れる割合が少ない。生産者個人やグルー プと酒造メーカーが契約関係に入る場合でも、系統農協が形式的に入って計画流通米になるのが一般的である。その意味では流通効率化 が制約されることになるが、農業サイドで補助金などを活用しながら取引特殊的投資をすることによって、酒造メーカーの投資額を節 約したり、情報の共有化は将来、生産者の品質水準に対応した契約方式になるといえよう。
 ただし、この契約関係の形成は新品種や指定した技術体系での栽培方式を採用することになるとプレミアムによって生産者の販売額を 補償する場合も発生する。たとえば、酒造メーカーが無農薬有機栽培の生産者を農協の紹介を得て選定すれば、一俵あたり二〇〇〇? 三〇〇〇円の奨励金を支払うか、取引価格にこれをオンすることになる。
 現段階では提携関係に入ることは酒造メーカーにとって結果的に取引コストを上昇することになるものの、吟醸酒や純米酒の販売価 格によって吸収されている。酒造メーカーと産地との新たな価値創造ができるかどうかが両者の信頼関係を左右するであろう。掛米で あっても加工適正に合致した開発された品種で増収が可能であれば、両者の提携が強くなるであろう。
 小売段階での規制緩和によって酒販店のシェアが低下し、DS、CVS、量販店のシェアが増加して、フルライン戦略をとれない酒 類卸売の構造変化が誘発されている。このような川下?川中の変化と新食糧法への移行にもかかわらず、全体として酒造メーカーは 「調達先」としてのみ農業を位置づけているにすぎない。農業との提携は契約生産を基本とするが、品質管理の徹底や取引特殊的投資 の節約などで酒造メーカーと農協との関係が強くなるであろう。
 酒造メーカーは農業との提携関係をとる多くの食品メーカーと同様に担い手農家の育成も課題である。岡山県の国定農産のような大 規模経営では雄町でも生産コストが大きく節約されることから、大規模経営の育成は必要。

【プロフィール】
齋藤 修(さいとうおさむ)
1951年、埼玉県生まれ。千葉大学園芸学部を経て、東京大学大学院博士課程修了(農業経済学)。1981年広島大学助手(生物生産学部)、助教授から1992年教授。農学博士(東京大学)。1997年千葉大学大学院・園芸学部教授。フードシステム学会常任理事。
【専門分野】
フードシステム論、農産物流通論、農業経営学
【主な著書】
『産地間競争とマーケティング論』(日本経済評論社・1986)
『フードシステムの革新と企業行動』(近刊・共著・農林統計協会・1999)

月刊酒文化 1999年 2月

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