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2.日本酒は文化だ
−西村隆治氏(沢の鶴株式会社社長)にきく

 日本酒業界をめぐる状況は厳しいというのが、沢の鶴・西村隆治社長の意見である。価格破壊、品質破壊、そして文化破壊が起こっ ていると言うのだ。

価格破壊
 第一は、価格破壊。近年、急激に伸びてきた酒量販店を通じての厳しい価格競争の中、蔵元は出荷量を競い、卸売は量をはこうとす る。蔵元や卸売業者にはほとんど利益の出ないままで、酒量販店に商品が卸され低価格で販売される。
 どうして、そのようなことが起こるのか。西村社長の話は、日本の企業と経営者の関係のあり方にも及ぶ。

 日本では、経営者の権限が強く、逆に株主の権限が弱いという構図になっています。そのため、どうして も、株主の利益を反映する株価や利益より、経営者の腕の見せ所というわけで売上げとシェアに力を注ぐ傾 向があります。

品質と伝統技術の破壊
 西村社長は、老酒やワインや洋酒に比べても、「清酒は世界で一番技術的に難しい」製法だと言う。

 たとえば、ワインは天候と畑が違えば、全然違ったものになります。畑のむねが違うだけで、ワインの味 も評価も違ってきます。日本酒はそれほどのことはありません。というのは、逆に、日本酒の場合、技術の 要素がかなり強いということです。米の適合性が多少悪くても、技術者はがんばるんです。

 優れた醸造技術をもったことが、少しくらいの原料の違いは関係なしに、よい酒を造るようになってしまったというわけである。そ して、安い米を使った醸造、従来の製法とは違った醸造が広がっているという。
 西村社長は、しかし、外国の安い米を使って醸造したり、従来の製法とは違ったやり方での醸造を認めていくと、日本酒が日本酒で なくなるという危機意識を表明される。社長が「現代は、日本酒業界の危機であると同時に、日本酒の危機だ」と言われるのは、そう いう意味だ。
 同じ意味で、日本酒の国際化も、安易にやるわけにはいかないと考えられておられる。海外からの安い原料の輸入はもちろん、海外 産地からの桶買いにも批判的な立場に立つことになる。値段の安い古米を使ったようなやり方を続けていくと、日本酒本来の品質が保 てなくなるというわけだ。また、日本酒として、製品品質だけではなく、世界に類のない繊細な感性と技術も守ら れなければならないことも強調したいことの一つだと言われる。
 西村社長によれば、醸造酒の醸造方法には、三つのタイプがある。第一は、原料中の糖分をそのままアルコール発酵させる方法(単発 酵・ワイン)。第二は、原料中のデンプンを糖化(ブドウ糖に変えること)したのちに、アルコール発酵させる方法(単行複発酵・ビ ール)。そして第三は、糖化とアルコール発酵とを同時に進行させる方法(並行複発酵・日本酒)である。
 この糖化とアルコール発酵とを同時進行させ(並行複発酵)て品質のよい酒を造り上げるには、高度の感性と技術が要求されるのだ という。

 並行複発酵では、酵母と麹が一緒に働くわけです。
 糖化とアルコール化が同時に行われる。だから製法も微妙なものとなり、そこに高度な感性が要求される。
 ところが、単発酵の技術が開発されました。それなら安く作れます。私は悪しき技術主義だと思うのですが、悪しき技術主義が日本酒の品質破壊に手 を貸しているのです。
 並行複発酵は、日本酒の大切な技術として、守られなければいけないと思うのです。


当然、日本酒がいろいろの混ぜものをすることにも批判的だ。

 米を磨きすぎるくらいに磨いて造られる大吟醸。うちの杜氏なども大吟醸をやってもらうときには、一月から三 月のあいだで三キロ痩せます。それほど気を遣ってやってもらっております。

と、本当の酒造りの苦労とその意義を話され、そして合成酒との質の違いが強調される。

文化の破壊−日本酒の特
 結局、価格破壊が品質破壊を招き、それが文化破壊につながることを、西村社長は強調する。「日本酒には日本酒としての特質があ る」というのが、年来の主張である。
 西村社長の言う日本酒の特質の第一は、実用品ではなく、嗜好品だということ。第二は、担税物資だということ。そして第三は、アル コール飲料だということ。そして第四に、日本の文化を担ったものだということ、この四つの特質である。
 実用品であれば、価格が安くなることはよいことだということになるが、嗜好品はそうではない。担税物資であるからにはそれなり の規制が必要。アルコール飲料であるかぎりは、自動販売機をあっちこっちに置いてよいものではなく、自ずからシェア争いにも自制 があってしかるべき。つまり、日本酒としての基本条件を考えると、業界には自ずから社会的規制が必要ではないのか、というのがポ イントである。
 とりわけ、日本酒が日本の文化を担うという第四の特質は、社会的規制のための有力な条件になるはずのものである。西村社長は、 それを「文化の醸造」だと述べ、その日本酒文化の特徴を次のように述べておられる。

(1)日本酒を味わう
 日本酒は五感で味わわれることが強調される。色、味、香りに加えて、香りと味のバランス、のどごし、 温度による微妙な変化も関係する。
(2)飲み方によって微妙に違ってくる酒の味わいカン、ヒヤ、ロックと、酒の飲み方は古い。「沢の 鶴」の調べによれば、「燗」では、三〇度Cから五五度Cまで順に、「日向燗」「人肌燗」「ぬる燗」「上燗」 「あつ燗」「飛びきり燗」といった言葉での区別。「冷や」でも、五度C、一〇度C、一五度Cと順に、「雪 冷え」(キーンとした透明感がある冷やの爽快感が楽しめる 温度)、「花冷え」(ゆるやかにひろがってく る含み香が楽しめる温度)、「涼冷え」(ゆったりと立ちのぼる上立ち香が楽しめる温度)といった区別があ る。どの温度が味わいのためによいかというのは、酒の品質と大きく関わり合う。
(3)料理によって異なる日本酒との相性
日本酒が四つのタイプに分類される。「香りが高いか、おだやかか」と「味が若々しいか、濃醇か」の区 別が重要である。
a)香りが高いタイプ(香りが高くて、味が若々しい)吟醸酒が代表例。あらゆる料理・食卓の食前酒とし て最適。吟醸酒には、ハナ吟醸と味吟醸がある。
b)軽快なめらかタイプ(香りがおだやかで、味が若々しい)生酒とか、普通酒がこのタイプ。口中の油脂類を洗 い流す作用があり、魚介類などの素材を生かした料理に適している。
c)コクのあるタイプ(香りがおだやかで味が濃醇)純米酒がこの代表例。アミノ酸含有量が多い料理に 適しており、うまみの濃厚な、しっかりとした味付けの料理に合う。
d)香りとコクのあるタイプ(香りが高くて味が濃醇)長期熟成した古酒。素材が強く豊かな味わいで、味 付けとしては醤油や味噌、動物性の油脂を使った料理に適する。
(4)最後に、日本酒を引き立てる器・サービス・雰囲気。


 日本酒の微妙な色・味・香り、温度や、料理や器・雰囲気と共に微妙に変化する味わい。ここにこそ、日本酒の原点があると言う。そ うした日本酒の味わいが軽視されない、新しい和の文化復興の時代を期待する。
 日本酒文化論議に続けて、西村社長は次のように述べる。

 日本酒業界でも、新ジャパネスクと呼びうる本当の新しい形の日本酒が生まれるだろう。それは、日本の 歴史と伝統、とくに江戸期の日本酒の伝統を正当に受けついだ日本酒である。………、日本酒ルネッサンス に努力し、日本の文化、和の文化の復興の一翼を担い、日本のアイデンティティの確立に寄与することが、い ま日本酒業界に課せられた課題であろう。
 日本酒を醸造することは、文化を創造することにほかならない。


これからの展望
 業界並びに同社のこれからの具体的な方向についても、そうした日本酒のあるべき姿を中心に見定められる。

 「灘の酒はナショナル・ブランドだ」という言い方は好きではない。そういうレッテルをいつも貼られる のですが、今の時代では、灘の地酒でいくべきだと思っています。日本酒が伝統文化を担っているというの は、その地域の風土、人、原料を含めて、その地域の歴史的産物だと思います。だから、いい酒というのは、 この灘の風土を最大限生かすことが一番素晴らしいことだと思います。

 今、百貨店で地酒の人気は高い。そして価格も高く、安売りはされない。一方、酒量販店に並んでいるのは、灘の酒。西村社長によ れば、戦後、灘の酒の全国市場のシェアは三六%くらいまでいったそうだが、今は三〇%を切っている。
 こうした現実が強調され、その中で、量よりも質が重視されなければならないこと、商品としてもまた流通経路としても、日本酒ら しさを守っていくことが重要であることを主張される。
 同社の今回の震災による被害は、小さいものではなかった。資料館が壊れ、七蔵、二〇数棟が潰れた。全部、木造だ。灘五郷の中で も、地震の被害がもっとも大きかったのではないだろうか。それでも、資料館については、残った文化財共々、三年くらいかかって建て 直すことが予定されている。
 思うに、その再建は、日本酒本来のありようを強調する「沢の鶴」にとって、単なる資料館の再建を越えた、同社の日本酒事業再建 の象徴となるものだろう。

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