時代や文化とリンクしたお酒に関する旬の情報サイト
酒文化研究所ホームページ
会社概要酒文化の会メールマガジンContact UsTOP
イベント情報酒と文化コラム酒文研おすすめのお店酒文化論稿集酒飲みのミカタ特ダネ
海外の酒めぐり日本各地の酒文化見学できる工場・ミュージアム酒のデータボックスアジア酒街道を行くリンク集

 
<論稿集トップへ

食と酒におけるイタリーメイドの世界戦略

女性は酒をどう選ぶ

「とりあえずビール」衰退の背景

一〇年後の酒市場 何が増えて何が減る

オープン価格化で
  あなたの仕事はどう変わる?


デフレ時代の
  ハイクラス活性化戦略


本格焼酎の産地呼称
  を考える


機能分化する酒類販売

広告規制と酒類
  マーケティングの将来


酒造メーカーと農業
 の新たな提携条件


灘五郷の伝統と革新
酒論稿集
酒と健康
灘五郷の伝統と革新
3. 清酒の普遍性と地域性の両立
「白鹿」の発展の三〇年仮説


  寛文二年、江戸は徳川四代将軍家綱の頃、天下に比類のない西宮の名水を得て酒造りの事業を起こした初代辰屋(辰馬家の当時の屋号)吉左衛門、その水は、 三百三十年の時の流れをつくり起業家辰屋吉左衛門の心として、絶えることなく受け継がれてきた(前出『創業三百三十年記念誌「白鹿」』)。

 「白鹿」(辰馬本家酒造)の創業は一六六二年に遡ることができるが、近代に入ってからの同社の発展は、三〇年に一度の大革新に よるものだと、インタビューに応じていただいた辰馬章夫社長は言う。
 その第一の革新は、明治二〇年代に起こった。かって、江戸積みなどに見られた樽廻船に始まった同社の海上輸送事業は、大正時代 中期の欧州大戦の際には船会社として大きく発展した。これが第一の革新であるが、その利益は酒の改良につぎ込まれ、「黒松白鹿」 がこのときに誕生した。
 その三〇年後、一九三〇年(昭和五年)に、大規模な瓶詰め工場が作られた。その工場は現在も使われているくらいだから、当時とし ては最新の大規模工場だ。これが第二の革新である。
 その三〇年後、一九六〇年に四季醸造蔵が完成した。戦後しばらくのあいだ、まがい物を作らないとの方針で「黒松白鹿」にこだわ った生産を進めていたが、それが、「白鹿」をして高度成長の波に乗り遅れることにもつながった。手形は扱わず現金決済。桶買いは しない。こういう経営では、安定はしていても、清酒市場の高度成長についてはいけない。それを反省して、四季醸造蔵を作り、販売の やり方も大きく変えて、市場拡大政策に踏み込んでいった。これが第三の革新。
 そしてその三〇年後、現在の六光蔵の完成である。その蔵は、一九九二年に作られたもので、省力化工場を目指している。二〇万石 まで、二六人の人員でまかなえると言う。昭和四三年頃、四〇〇人もいた蔵人は、この蔵ではゼロ。当時と同じレベルで安定した品質 の清酒を造りだしている。

質の競争に
 同社の古い木造の酒蔵は全部、潰れたが、六光蔵は残った。今やフル稼働している。とはいえ、それだけで厳しい業界の競争をわた っていけるわけでもない。社長の危惧は、業界が価格競争に走りすぎていることである。

 日本は、横並び競争意識がありますよね。すぐ、人のやったことを後から行って、値段ちょっと安うして やる。価格が、それでぐちゃぐちゃになってしまう。
 日本酒業界っていうのは、蔵元数が非常に多いです。これはもう、伝統産業とくに地場産業の特徴なんです けれども。味噌にしろ、醤油にしろ、お酢にしろ、日本酒にしろ、そうですね。こういう業界では、零細多 様な会社が何千と全国に散らばっている。これが横並び競争したら、成り立つわけないですわ ね。だから、結局は淘汰されるんでしょうけれども、「その蔵元の特性をどう発揮するか」「自分ところの特 徴をどう生かすか」ということが大事じゃないでしょうか。


 蔵元が他と差別化することが大事だと述べる辰馬社長は、自社の商品の品質にこだわる。最近では、「山田錦」という清酒が自慢の商品である。それは、酒造好適米の山田錦を一 〇〇パーセント使用したもの。そもそも、山田錦とは、大正一二年に兵庫県立の宇治試験場で雄町系の短桿渡船(たんかんわたせぶね)と山田穂(やまだほ)交配して作ら れた米であるが、「白鹿」は古くからその米を農家に契約栽培してもらっている。昔であれば「黒松白鹿」、現在では「山田錦」と、 品質・素材にこだわった商品の開発こそが、「白鹿」の生きる道だと思い定めておられるのだろう。

 米にこだわって最高の山田錦で作った酒。一切、値引きなしで売れてます。こうした特性のある商品を出 していくということがいいんじゃないでしょうか。
 そして、全国どこででも、品質のよいものが飲める。そこが地酒と違うところです。販売網がしっかりして いること、それがわれわれの大事な使命の一つだと思います。
 しかし、それだけではどうしても横並び状態になってしまいます。だから、それにプラスして、それぞれ の蔵元の特性を発揮して、と思うのですが。それぞれの特性を出して、切磋琢磨して品質競争をするという ことがこれからますます大事だと思います。


 もっとも、品質が大事だと言っても、蔵元の独り合点の品質ではダメだと注意する。お客さんの視点に立たなければならない。

 品質も、独り善がりはダメですね。われわれがよいって言ったって、お客さんが飲んでまずいというなら、 良いとは言えませんね。お客さんが喜んでいただける。目線をそこにもっていかないと。
 いくら良い酒を造っても、それ買っていただいて、飲んでいただいて、お金払っていただいて完結するわ けですから。


ボーダーレスの世界へ
 辰馬社長は、清酒の世界はこれからボーダーレスになると考えている。
 第一に、品質は大事だが、それも独り善がりではない品質、つまり消費者の目線に合わせた品質が重要だということに 関係する。つまり、消費者のまわりには、清酒だけでなく、ビールやウィスキーや焼酎やその他、さまざまなアルコール飲 料がある。消費者は、アルコール飲料という広い視野で見ているのに、こちらが清酒だけと狭く考える必要は何もない。 「白鹿」自体はやるつもりはないとのことだが、地ビールを造る蔵元が出てきても不思議ではないと、辰馬社長は言う。
 第二に、卸・流通もそうだと言う。「白鹿」のお得意先の卸さんの中でも、本来の物流機能以外に、メーカー機能を 含め新しい機能を加えてきているところが伸びている。メーカー、卸、小売といった昔あった境目がなくなってきた。
 第三に、そして清酒の世界もそうだと言う。灘の酒の目指す方向は、世界の酒、つまり、世界に通用する普遍性をもった 酒ではないかと言う。

 ヨーロッパの一流ホテルで、「これは日本の最高級の酒です」といって置いてるところはまずないと思い ます。これからは、そうならなきゃいかんのじゃないですかね。エスニック的な発想で置いているところは あるかもしれませんが……。

 世界に通じる酒を目指して、「白鹿」も、アメリカ・ロッキーの麓、デンバーで酒造りを四年前から始めている。白鹿USAである。 アメリカ産の清酒「白鹿」は、アメリカの飲食店で相当浸透してきていると言われる。

<<前頁へ      次頁へ>>