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飲みやすい酒をたっぷり飲みたい
 質的な面から中上級市場の変化を考えると、級別に代わってグレードを表す指標として清酒では製造コスト(原料・人手・時間・技術 レベルの高さ)が、ウイスキーではエイジングと限定性(シングルモルト・シングルバレルなど)が強調されるようになったことがあ げられる。ワインでは産地・ヴィンテージ・ぶどう品種が評価軸として以前にも増して注目されるようになり、また、焼酎には清酒の 中上級市場とよく似た切り口から新たな市場が誕生した。大雑把に言えば中上級商品は、コストと希少性という硬質な情報を軸に消費 者とコミュニケーションをとっている。
 酒類の、現在の主たる選択基準はおおむね消費の外部性と飲みやすさで説明される。
 まず、スタンダードであった中位の商品が下位にスライドするかたちで価格要素が強まった。「味もそこそこだし周りもこれを飲む ようになったから、私も……」という消費の外部性がはたらき、この三年間で発泡酒をはじめ大規模メーカーの低価格商品が一気にス タンダード化した。
 消費トレンドは酔うための酒から楽しむための酒へのシフトと言われ、おいしさが選択の最重要ポイントになるとされてきたが、低 価格商品のスタンダード化はまったく反対の現象に見える。
 曲者は「おいしさ」であった。消費者はふだん飲む酒に絶品のおいしさは求めない。優先するのは「飲みやすさ」であり、これが 「おいしさ」の基準となった。そして、どの酒類でも主流は淡麗辛口になった。
 酔うためや量を飲むための酒も、廃れることなく巧みに勢力を伸ばした。やはり酒飲みはある程度は酔いたく、たくさん飲みたいの である。「飲みやすい」ことが大前提で、二日酔いしにくければ言うことはない。少ない予算で量を飲むために割安な発泡酒が選ばれ、 太りたくはないけれど飲みたい人に低カロリー発泡酒が支持され、体験的に二日酔いしにくい焼酎が消費量を伸ばし、低アルコールな はずのチューハイはいつの間にかアルコール度数七%の三五〇ml缶が標準になった。一缶で清酒一合、ビールなら五〇〇mlに相当する アルコール量であり、それが一〇〇円と最安値でストレートジュースのようにツルツルと飲める。チューハイは酔っ払いのイメージな しにしっかり酔える酒だ。
 そのほか、食事との相性や健康情報などが新たな選択基準として広く認知されるようになったが、消費の外部性と飲みやすさを補佐 する程度のインパクトにとどまる。

消費の外部性を欠いた中上級酒類
 こうして安価な商品に需要がスライドし活性化した一方で、コストや希少性という硬質な情報を軸に消費者とコミュニケーションを とり続けた中上級市場は、たくさんの商品がありながら不活性に陥った。アクセサリーやバッグ、腕時計や万年筆では、高級ブランド への集中が見られるにもかかわらず、同じように嗜好性が強いはずの酒類ではそうした動きが顕著になっていないのはなぜか。
 先に見た、消費が二極化する理由とされる五つの理解のうち、(1)〜(2)はその妥当性は別として、いずれも酒にも同様に作用している ものだ。だから、酒の消費が二極化してもよいはずである。酒で条件が違うとすれば(4)のメーカーと流通の行動に関する部分と(5)の消 費の外部性である。
 (4)のメーカーと流通の行動については、低価格市場ではまったく同じことが認められた。一方の中上級市場で商品単価を高くコントロ ールする政策は、清酒や焼酎の一部に認められる。しかし、中上級商品が活性化していないのであるから、これが十分に機能していな いということになる。中上級商品として相応しい品質とブランドイメージづくり、そして販売店に必要な機能、販売拠点のボリューム と適切な配置、直営の売場や情報発信拠点の活用などを見直す必要があろう。
 (5)の消費の外部性の問題は、酒の中上級消費の基盤としてたいへん重要である。それが失われていることが、中上級市場が不活性な 最大の原因であるように思える。
 第一に、中上級の酒を飲むことが多くの人にとってカッコいいことではなくなっている。見せびらかしたくなるような、誰もが高級で あることを知っている酒はほとんどない。清酒や焼酎の幻と言われる商品やワインの一部にはあるが、かつての特・一級のような広い 裾野はない。だから自分が「こんなもんでいい」と思えれば、それ以上のカネを払う必要はなくなる。人からどう見えるかを気にせず、 好みだから「みんな違ってそれでいい」と並列になれば余計なカネは使わなくなる。単身世帯や個食の増加がそうした流れを加速させ、 価格に敏感な主婦が中心顧客であるスーパーでの酒販売の広がりが後押ししている。
 第二に、見せびらかすほどの魅力がないから高いステイタスを感じさせたり、特定のスタイルを象徴するようなシンボル性も酒から 消える。それはスノッビッシュな意味での情報価値を失うことを意味する。スタイルの基盤は美意識であり、どこかで厳しい自己規制 が必要になる。にもかかわらず低価格市場と同様に「飲みやすさ」と「量」を追うことを優先したために、自己規制は甘くなりカジュ アルでメリハリのない飲酒シーンがだらだらと広がった。低価格市場での施策をそのまま持ち込んだことが中上級市場を扁平にした。
 第三に、さらに中上級商品を好む集団が閉鎖的に映り、特殊な世界と捉えられている可能性がある。中上級商品がコストや希少性な どの硬質な情報をベースに自らを語るのは止むを得ない。量産商品との違いや、微妙で複雑な味の違いがわかるようになるには経験と 知識が必要だからだ。差異の根拠とされる知識のほとんどがコストと希少性であり、清酒では製法と原材料、ワインでは産地・ぶどう 品種・ヴィンテージを、覚えることが求められる。これが酒を語る時の基礎知識となり、知識を身に付けた者がコミュニティを形成す るようになる。中上級商品がその違いを説明しようとすればするほど、情報は複雑になり、わかった人にしかわからない世界、まさにオ タク化する。この世界は中上級市場の一部ではあるが、地道な勉強を必要とするため大きなボリュームにはならない。中上級市場の実 験場であり、言葉の開拓集団として位置づけるのが建設的であろう。

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