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「とりあえずビール」の持つ社会性
 株式会社西洋フードシステムズが経営する居酒屋チェーン「藩」田町センタービル店は、東京のJR山手線・田町駅前の地下一階にある。席数一六〇席で「藩」のなかでも五本の指に入る大型店だ。店内は古民家を移築したような太い梁が走り、土壁に板の引き戸が落ち着いた雰囲気を醸し出している。近辺には大学も多いが、客層のコアはサラリーマン。三〇?四〇歳代が中心だという。
 「まだ、絶対数では『とりあえずビール』が多数派でしょうね。特にうちのようなお店の場合は、そういう傾向が強いと思います」と語るのは、店長の高橋正行さんだ。ただ、確実に「とりあえずビール」が減少しているのは実感しているらしい。しかし高橋さんによれば、そうした傾向を持つ若い人は、まず店選びから違うのではないかと考えている。
 たしかにそれを裏付ける証言もある。フリーのグラフィックデザイナーである近藤雅也さん(仮名)は三〇歳。ビールは好きだが、スタウトなどのイギリス、アイルランド系の銘柄を好むため、普通の店に飲みに行くことは少ない。
 友だちと飲む時は、最初からスコッチのシングルモルトやジンやラムなどのカクテルを頼むことが多いという。そんな近藤さんは、居酒屋は居酒屋でもいわゆる「隠れ家バー」のような流行りの店を自分では好んで選ぶ。
 近藤さんは、奥さんと子供との三人暮らし。もともと料理をすることが好きで、学生時代には何人もの友人がそれぞれ好みの料理の材料だけを持って、近藤さんの家に押しかけたほどだという。そうした「食」への興味が、シングルモルトやスタウトなどという酒へのこだわりにも影響しているのかもしれない。
 もっとも近藤さんも、「とりあえずビール」をまったくしないというわけでもない。実際に得意先と飲む時は、先方に合わせてビールからはいることが多いようだ。
「三分の一ぐらいですかね、仕事がらみは。『とりあえずビール』って言わないパターンってのは友だちで、仕事がらみの人と飲む時は、相手がビールって言っちゃうとじゃあ僕もっていうことが多いですね。ただ、それはさっさと済ませて別なのを飲みたいと」
 つまり、自分では特に飲みたくはないが、まず最初は先方に合わせるというのだ。特に、相手が年上の場合はそうすることが多いという。
 「藩」田町センタービル店の高橋店長も、年齢層が高くなると「場に合わせる」傾向が強くなると語る。
「二〇代前半の、特に女性が入っている場合はオーダーもバラバラです。カクテルも、四人いれば四種類ということが多いですね。年齢が高い場合は、ビールではなくてもみんな日本酒とか、ワインをみんなで飲もうかとか、まとまった飲み方です」
 また、「木舞家」の鈴木店長も同じように感じている。
「男の人は社交的な関係も含めてビールを飲む、女の人はわがまま言える時代だから違う。女の人と来ていても、女の人がビールを注ぐなんてのは珍しくなってきましたからね」
 つまり、社会人の男性は、上司と部下あるいは得意先と納入業者など、社会的な関係で飲むことが多く「とりあえずビール」に落ち着く。そうした規制から比較的自由な女性や学生は、最初から多様な飲み物に分散するという図式だろうか。
「以前に最初からみんなと別なものを頼んじゃって、ちょっとマズイなと思ったんですよ(笑)。あるお客さんと初めて飲む場で、最初の乾杯でみんなビールを持っているのに、自分だけラムのカクテルかなんかを持っていて……。ちょっと気まずくなっちゃったんです。次からはやめとこうって思ってる部分があります。だから、『とりあえずビール』には社会性みたいなものが少なからずありますよね」(近藤さん)

「とりあえずビール」は継承されるか
 もっとも、では学生には社会性がないのかといえば、どうやらそうでもなさそうだ。北山さんの話などを聞くと、少なくとも飲む場において周りの人や状況にかなり気を遣っている。
「僕はけっこう飲めるので、いちばん早いペースの人に合わせます(笑)。みんなあまり飲まないんだったら、今日は別にいいやって。単独で手を挙げて店の人を呼ぼうって気にはなりませんね。周りがみんなグラスが空になりはじめたら、さあ何にしようって考えます」
 最初の飲み物を頼む場合でも、相手の好みを知っている場合は「とりあえずサワーでしょ?」など、お互いに気を遣いあって始めることが多い。オジサンたちのように、「とりあえず、ビールでいいよな!」とだれかが仕切ってしまうようなことはないらしい。教授など目上の人間と飲む時には、ちゃんと相手の好みに合わせて「とりあえずビール」につきあう部分もある。この傾向は若い女性たちにも多少はあるようだ。
「女の人はビールを嫌いますね。女性でサワーよりもビールのほうが好きだっていう人は、とても少ないと思います。マズイって言いきってしまう人も多いくらい。そういう人は甘いお酒じゃないと飲まないです。でも私のいたサークルの飲み会は、必ず一杯目はみんなビールだったんですよ。どうしてもダメな人はちょっとにして乾杯をやって、あとは飲める人のところへ瓶を集めちゃう(笑)」
杉下さんのサークルは体育会系だったこともあるのだろうが、わずかに「とりあえずビール」は生き残っていた。
 では中高年世代はどうであろうか。前の調査結果からはこの世代は多くの人が「とりあえずビール」から始めるということを続けている。一人でソトで飲むならばという限定つきだが、ビールをあまり飲まなくなったというのがOA機器の販売をしている四〇歳の佐藤宏一さん(仮名)だ。好景気時に比べるとソトで飲む回数はめっきり少なくなったといいながら、「週に四日くらいは軽く飲んで帰る。一人のことはそう多くないが、一人なら最初からウーロンハイ」だそうだ。友人と飲む時でも半分くらいはそうだという。けっしてビールが嫌になったというわけでもない。「ビールよりも経済的で酔いも早い。使える金額も減っているので、一回あたりの飲み代を少しでも浮かしたい」と言う。ビールも好きだが、「甘いチューハイはパスだけど、ウーロンハイはつまみにも合う。腹も張らない。店でビールと発泡酒があるなかで発泡酒を選ぶのは抵抗があるけれど、サワーにはそういう感じもまったくない。ビールばかり飲むよりも身体によさそうな気もするので、いまはサワー党ですね」ということであった
 「とりあえずビール」ということで各人の好き嫌いに関係なく、ビールで口火を切るという飲み方が減り始めているのはたしかなようだ。その傾向は、男性より女性、年齢層でいえば二五歳以下、社会人より学生に顕著だ。
 しかし、中高年世代の間では許されるなら「とりあえずビール」からが主流のままのようだ。三木本さんや北山さんが、「社会人になって会社の先輩などと飲みに行く場合には、その場の雰囲気に合わせると思う」と語っていたのが印象的だった。

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