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「とりあえずビール」衰退の背景

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「とりあえずビール」衰退の背景
常に選択してきた若者たち
 少し視点を変えて、いまの二〇歳代前半の世代が育ってきた外食環境というものを考えてみよう。日本マクドナルドが東京銀座三越の一階に一号店をオープンしたのが一九七一年七月。八二年に売上高七〇二億円で外食産業のトップに立った。七〇年代後半には、デニーズ、すかいらーくなどのファミリーレストランも続々と店舗展開を進め始めた。
 彼らは子供の時から、メニューを見て一人ずつが注文をするというライフスタイルをあたり前として育ってきた世代なのである。このことが自分で飲むものは自分の好みで注文したいという背景にあるように感じられる。三木本さんや北山さんは、酒を飲む時だけでなく昼食、喫茶店などで注文する時でもみんなホットコーヒー、みんなAランチなどと注文を揃えることはあまりしないらしい。
 他人と同じ行動様式に合わせるということが全般に少なくなったことが、「とりあえずビール」衰退の根底にあると思われる。

タテの酒宴とヨコの飲み会
 かつては大人への通過儀礼として酒を飲むようになり、飲酒という行為には、地域や学校・職場の先輩後輩という関係が強く存在していた。酒は社会的なタテの関係に則って飲まれてきたのだ。
 「とりあえずビール」という言葉には、少し改まったかたちで、「さあ、お酒を飲みますよ」という意味が含まれている。年長者(あるいは会社の経費)が後輩に酒をご馳走するということは、日常的によくおこなわれていたから、上司・先輩の引率で宴が始まり、時間とともに無意識に酒席が無礼講に移る。それから、日本酒や焼酎、ウイスキー、サワーなど好みの酒を自由に選んだ。
 昨今では、若者・女性の間での飲み代は割り勘というのがほとんどであり、タテ関係は希薄で最初から無礼講である。さらに人前で酔うことを好まない彼らは飲酒量自体も少ない。「とりあえず」だけでほかの酒には進まない。したがって、最初から自分の好きなモノを注文して飲みたいという意識が強くなっていくのであろう。だから、若干でもフォーマルな色彩を持ち、タテ関係の生きている中高年男性中心の酒では、リーダーの号令の元、「とりあえずビール」で一斉に酒宴が始まるという部分が残っているのだ。
 これは飲酒の伝承力が弱くなってきていると捉えることもできる。最初は苦くて飲みにくいと思ったビールも、何回か経験を重ねるうちにおいしさが理解されていく社会的な飲酒装置があった。それは、濃密なタテの関係であったり、ビールそのものへの憧れであったり、酒への関心の高さなどによって形成されていた。それが失われているのである。
 特に、いまの若い層は酒への関心自体が低くなっている。だから苦くていやだと思うビールを無理してまで飲もうとは思わないのだろう。ましてそれ以上に最初は飲みにくいであろうウイスキーや日本酒などは、よほど飲みたいと思わせる情報がない限り、自分から試そうとはしないのではないか。
 また、一緒に酒を飲むことによって、コミュニケーションを深めるという考え方も崩れつつある。カラオケボックスでソフトドリンクだけでカラオケを楽しむ若者・女性はめずらしくない。

相対的な苦さ
 インタビューに見られたように「とりあえずビール」を拒む理由には、「ビールは苦くて飲みにくい」という意見が目立つ。しかし、ビールの味わいはこの二〇年間に苦みが少なくキレのある方向に大きく動いてきた。ハード面からみると、現在のビールはすでに苦くない飲み物となっている。
 一般論として苦みや辛みが嫌われているという声もあったが、ブラックコーヒーやお茶飲料の広がり、スパイシーなエスニック料理ブームなどの現象を考えると、簡単に肯けるものではない。
 それでも実感としては、たしかに「ビールは苦い」という声はこれまでよりも耳にするようになった。理由は単純だ。チューハイなどのより苦くない酒の台頭で、相対的に「ビールは苦い」という評価が際立つようになったのである。アルコール度数が低く、清涼感があり、冷やしてガブガブ飲める酒というジャンルはビールの独壇場であった。そこにより苦くない酒が新たに供給されるようになり、少しずつボリュームを増して誰もが認知する存在となった。チューハイの本格的な市場導入から二〇年を経て到達した位置である。

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