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「おつまみ」の日米交流 意外史(2)枝豆
 アメリカでも、ペリーが持ち帰った大豆が、すぐに栽培されるようになったわけではなく、一八九六年になって農商務省が最初 に試作したあと急速に栽培が進み、ヨーロッパは一九〇八年にアメリカ産の大豆を輸入して以来、食品として関心が高まったとい います。
 欧米には、いずれも「日本ルート」で大豆が伝わったものの、すぐには広まらなかった理由として、大豆が他の豆とは違って水 に浸して茹でただけでは、その不快な臭いが抜けず、消化もよくないことがあげられます。東アジアで古来より大豆が多用されて きたのは、豆腐、納豆、味噌など独特の加工技術があったせいです。アメリカでは一九三〇年代から、製油用や飼料用に大豆の需 要が高まったのがきっかけで生産量が増大しました。現在では年間で一億五〇〇〇万トンに達し、世界の大豆生産の半分近くをア メリカが占めています。
 枝豆とは、まだサヤが緑色をしている未熟な大豆を指しますが、未熟な状態で収穫し、塩ゆでにして食べる食形態のことでもあり ます。日本のほか、中国北部、インド、マレーシア、インドネシアのジャワ島でも古くからある食べ方です。日本ではどちらかと いうと関東地方以北で親しまれていた食習慣であり、これが大都市を中心に全国区的なものになったのはそれほど古いことではな く、ビール飲用の普及と強く結びついていると考えられます。今や日本では、枝豆とビールを切り離して考えることは難しいでし ょう。
 ところで以前、トマトは野菜か果物かなんて「論争」がありましたが、国連食糧農業機関(FAO)の農業生産年報では、豆類 を三つに分類しています。
一つ目は「豆」で、乾燥いんげんまめ、乾燥そらまめ、乾燥えんどうまめ、ガルバンゾー(ひよこまめ)、レンズまめ……。
二つ目が「油料作物」で、大豆、落花生……。
三つ目が「野菜」で、生いんげん、生えんどう……。
この分類に当てはめると、大豆は「豆」ではないのですが、大豆の未熟作物である枝豆は、三つ目の「野菜」に分類されると見 るのが妥当でしょう。

アメリカで枝豆は、日本食レストランの英語によるメニューの説明で「日本ふう大豆(Japanese soybean)」「茹でた大豆(steamed soybean)」「ヤサ付き茹で大豆(boiled soybean pods)」など、さまざまに表現されていますが、もう少し農学的というか生産者サ イドに立つと、「ベジタブル・ソイビーン」や「ベジタブル・グリーン・ソイビーン」という呼び方があります。まさに野菜、 それも緑色野菜としての豆が、枝豆というわけです。
  枝豆はアメリカで、日本酒のつまみであるだけでなく、そのままでスナック、また各種のサラダ、サコタッシ ュ(豆料理の一種)などの料理素材としても受け入れられつつあり、スーパーマーケットでは、サヤから取り出した状態でも売ら れています。つまりむき豆で、そのまま食べられるように茹で上がったものと、冷凍品があります。サヤつきであってもむき豆で も冷凍枝豆には中国産が多いのですが、いずれにしても、アメリカの枝豆は冷凍と切っても切れない関係で、生の枝豆を買ってき て自宅で茹でるという形は少ないようです。 英語でビーン(bean)とは腎臓のような形をした豆のことで、丸い豆はピー(pea)と呼びますが、その区別はあまり厳密ではな くて、丸大豆もまたソイビーンです。
ピーで思いつくのはピーナッツ。しかくこれも丸くはありません。またナッツといってもアーモンドやクルミのように木に実をつける堅果ではなく、畑で、それも地中にもぐったサヤの中に実る種子です。
 ピーナッツの原産地は南アメリカの南部ボリビア、アンデスの東山麓とされています。日本には、南京豆という呼び方が示すよ うに、一七世紀の末に中国から伝わりました。しかし、このときは広まることもなく、明治の初めにアメリカから種子が導入され、 政府も奨励したことで、二〇世紀に入るころから生産が盛んになりました。
 外国でピーナッツは、油を取るための油料作物であることが多いのに対して、日本ではほとんどが食用。関東地方では千葉県の 名産として「殻つき落花生」が有名です。皮もむいて味付けしたバターピーナッツは、アメリカの影響と言われていますが、米 菓・柿の種と混合の「柿ピー」も定着し、ビールの強い味方になっています。
 こうして見てくると、日本からアメリカに伝わった枝豆、アメリカから日本に伝わったピーナッツは、それぞれ独自に変容 をとげていることが分かります。日本では、ピーナッツの甘納豆や、ピーナッツを殻ごと塩ゆでにして、枝豆ふうに食べること もありますが、アメリカでは見られない形です。
 日本で弁当のおかずに、いろどりを兼ねて枝豆を二つか三つ添えるようになったのも、冷凍食品やホームフリージングが普 及してからのことで、アメリカンスタイルの枝豆と呼べそうです。
 初めの話題に戻ります。ドジャー・スタジアムでは、アボカドを巻いたカリフォルニアロールといなり寿司の詰め合わせ、 つまりスシパックが売店に並んでいますが、茹でたて(または解凍したて)の枝 豆が、殻つきピーナッツのようにスタジアムで移動販売される日は果たして来るのでしょうか。
アメリカで枝豆が、ビールではなく熱燗と親和性が高いという現状から考えると、なかなか難しそうですが、それよりも日本の 野球場で、ビールと相性がいい枝豆を売った方が……、いや、もうすでにどこかの球場で売られているかもしれません。

【プロフィール】
市川隆(いちかわ・たかし)
フリージャーナリスト。一九五一年生まれ。アメリカ・東アジアの各地を訪問取材。二〇〇一年後半よりロサンゼルス近郊パサディナ市に居住。
月刊誌『グッズプレス』(徳間書店)に「アメリカ・ニッポン消費生活解読記」を連載中。

お酒の四季報 2002年夏号

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