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太平洋戦争が産んだ米国産あられ
 一九二〇年代。南カリフォルニア一円には中国人の三倍もの人数、約三万人の日本人が農業や漁業、商業などに従事していて、 沿岸や内陸の町々には、おもに日本人客を相手にする小さな中華料理店が、合計すれば百数十店以上もあったとか。なぜ中華料理 店なのかというと、その当時はカリフォルニアでも日本食のための材料を手に入れるのがむずかしく、代わりに肉と野菜と米と小 麦粉を材料に、日本人の口にも合う焼きそば、チャプスイ(野菜の炒め煮)、シュウマイなどを作っていました。そのよう な日系中華料理店に登場したのがフォーチュンクッキーで、いつの頃からか本家の、中国人が経営する中華料理店も取り 入れるようになり、今では中国系のフォーチュンクッキー製造会社もいくつもあります(なお、中国人社 会では、ロサンゼルでホンコン・ヌードル社を創立したデービッド・ジュン氏が一九一八年にフォーチュンクッキーを考案したと いう説も信じられています)。
 やがて第二次大戦(日米戦争)が始まると、太平洋沿岸に居住していた日系人は強制退去で、内陸部の収容所に送られます。浜 野氏の一家もいくつかの収容所をへてコロラド州の収容所(キャンプ)へ。しかし、戦局が決定的になった頃に、米国当局は日系 人にキャンプの外で事業を再開させる方針を打ち出します。浜野氏は砂糖の割り当てを受け、またカリフォルニア米の品質改良に 大きな功績をあげた国府田(こうだ)農場の餅米が手に入ることになったので、従来の甘い煎餅のほかに醤油味のあられも手がけることを決 めました。日本製あられの輸入が途絶えていたので、関東風の塩辛いあられの需要に応えることも大きな理由だったようです。
 特注した大型の臼と杵で餅をつくのも初めての作業。また、涼しいコロラドでは問題がなかったものの、ロサンゼルスに 戻ってからは、冷蔵庫の設備がなかったため、餅を冷やして固める工程に苦労したとか。
 アメリカであられの本格的な製造が始まったのが、日本国内でポテトチップが作られるようになった時期と重なっているのは、その時代 背景を考えれば当然だという気がしてきます。
 しかし、日本製ポテトチップとアメリカ製あられの大きな違いは、一ドル三六〇円の固定相場時代、日本から輸入される安いあ られに、地元ウメヤの製品はアメリカ市場で苦戦を強いられたこと。その後、円高や日本の製造コストが高くなると、今度は韓国 製、台湾製、そしてタイ製の日本風あられが、ライバルとして立ち現れました。
 現在は、アメリカのあられも多様化が進み、いくつものタイプのあられが共存しているように見えます。これは冒頭に触れた、 パッケージ(袋のデザイン)から見たあられの三部類とも重なりますが、まず、日本からの輸入品。次に日本製と見分けがつかな いようなアジア製(おもにタイ製)のあられ。そしてアメリカ的に変容をとげたあられです。この三番目の「アメリカンなあられ」 にも、またいくつかの流れが認められます。

日米融合の新種あられ登場
 一つは、日系を含むアメリカ人の嗜好に合わせたアレンジ。味の面ではワサビ味が代表的。これは寿司が定着したことと関係が 深いようです。日本人には辛すぎると感じるくらいの強い味付けが特徴。また、全体に赤みがかった色づけは、日系人の好みに合 わせたものだと、ウメヤ社長のタック浜野氏は説明します。
 ウメヤの製品群の中に、日本では定番の「柿ピー」(柿の種とピーナッツの混合)が見あたりませんが、「日本のピーナツはい ったん脂肪分を抜いてから、バターなどをからめるので、さっぱりしているから柿の種とよく合いますが、アメリカのピーナツは 脂肪分を含んだままで、柿の種と一緒にすると味が強すぎてしまうのです」。さらに続けて、「日本のバーやクラブでは、値段の高 いあられをちょっとだけ出してもチャージできるけど、こちらはまずプライス、量が多くなくてはいけません」。そういえばスー パーマーケットでは、日本ではあまりお目にかからない、枕にも使えそうな大袋に入ったあられも売られています。
 アメリカの前回不況時に話題になった「カウチポテト」(家に引きこもり、ソファでポテトチップを頬ばりがらテレビを見て時を過ごす) のポテトチップに、ヘルシーなあられが取って代わるのでしょうか。
 ヘルシーといえば、アメリカンあられのもう一つの傾向が、MSG(グルタミン酸調味料)、保存料、人工着色料、フレーバー を一切使っていないことを売り物にしたもの。たしかに色合いがぼんやりしていますが、さらに製造から日が浅く鮮度が高いこと を強くアピールすれば、今の日本でも大いにウケそうです。
 そんな自然健康志向あられの一つに、英語で「四川(しせん)スタイルあられミックス」と銘打った製品がありました。南カリフォルニア を中心にチェーン店を広げている食品スーパーマーケットのオリジナル商品。そのスーパーはドイツ系アメリカ人の経営で、ワイ ンの扱い量が多いことでも有名ですが、自然健康志向あられの製造を委託している先は、日系の製菓会社。少なくとも日中独米 (コメではなくアメリカ)の食文化が触れあって生まれたあられと見ることができます。
 多民族化、多様な食文化の混合や融合がますます進む南カリフォルニアで、カリフォルニアワインにぴったりの、アジア風味を 生かしたあられ(ライスクラッカーミックス)が確立する日が近いかもしれません。

【プロフィール】
市川隆(いちかわ・たかし)
フリージャーナリスト。一九五一年生まれ。アメリカ・東アジアの各地を訪問取材。二〇〇一年後半よりロサンゼルス近郊パサディナ市に居住。
月刊誌『グッズプレス』(徳間書店)に「アメリカ・ニッポン消費生活解読記」を連載中。

お酒の四季報 2002年秋号

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