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古き一升びんをたずねて
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再現性のない酒へのチャレンジ
 一方で蔵元の技術交流は、古酒づくりにひとつの方向を与えていきました。ノウハウの蓄積と交流は、どうすれば完成度の高い古酒ができるのかを次々に明らかにしていきます。結果として、酒だけで完結するバランスのよい古酒が続々と登場してきました。最初の頃は「新酒ではあまりおいしくないので古酒にしてみようか」という感じがありましたが、目的的にバランスのよい古酒にするための酒づくりがおこなわれるようになります。
 さらに、ブレンドの発想が出てきて、バランスの悪い古酒も、一定品質を維持しながら商品化することが可能になります。
 こうした方向に行くのは、酒をパッケージして、自社のブランドをつけて品質保証するメーカーの取り組みとして当然のことです。そうすることで飲み手は安心して、一定のレベル以上の古酒を飲むことができます。メーカーにも、この仕組みを上手につくることで収益をあげてきたという成功体験があります。
 そこまできて私のようなサービスの提供者、古酒のパイプ役の役割がはっきりしてきました。シャブリは酸味の強い白ワインですが、それを個性として好意的に受け止める情報を飲み手が共有しているので、「酸っぱくてまずい」という評価は出てきません。古酒で同様のことをするのが私たちの役割だと思います。とても苦い古酒があったとして、それを飲んだお客様が「ほーう、これが10年の時を経た苦味か。重みを感じるね」と納得してもらえるようにするということです。
 みんながおいしいと感じる酒は、ある程度放っておいてもかまいません。しかし、「こんなになっちゃった古酒をどうしようか」というような時には、着目点を示唆して、どのような尺度で味わうかを補足してあげないと、古酒は「おいしくない」「わからない」「ばらつきが大きい」というネガティブな言葉でしか語られなくなってしまいます。
 今、よく蔵元に申し上げるのは、再現性のない酒を年に一本くらいつくろうということです。「今年はこんなになっちゃいました」という商品をもつことで、飲み手との双方向のコミュニケーションがとれる。年ごとに変わるから、あるいは製造ロットごとにばらばらだから、話すことがたくさんあるわけです。常に同じものだったら、一方的なコマーシャル・メッセージでも済ませられます。

そそられるのは探求心
 酒茶論は2002年の末にオープンしました。品川プリンスホテルのすぐそばの好立地で、古酒を洋酒バーのスタイルでお出ししています。グラスはワイングラスです。お通しは生ハムやナチュラルチーズなど洋風のもの。
 こうしたのは、日本酒を飲むという常識をはずしてから飲ませないと古酒を素直に見ていただけないからです。日本酒好きな友人たちが評価しなかった古酒をフレンチレストランは高く評価したことをお話しましたが、あれと同じにならないように、場を転換しないと愛好者が増えないと考えたからです。
 酒の楽しみ方には「おいしさ」に惹かれるというところが大きいのですが、探究心をそそられるというのもかなりウエイトが高いと思います。古酒は典型的に後者なのです。これが日本酒なのかという驚きから始まって、なぜ、どうしてと飲み手がひとつひとつ謎解きをしていく楽しみ方ができる。
 店はおかげさまで好評で、老若男女さまざまなお客様にお越しいただいています。ほとんどが最初は興味本位で来店されますが、古酒を気に入っていただけて、何人かは常連になってくださる。そこからまた口コミで広がっていく。まだそんなレベルですが、裾野が広がっている手ごたえを感じています。
 外国の方もいらっしゃいます。日本酒を知っている方は古酒に驚きの目を向けますし、日本酒が初めてという人には古酒のほうが馴染みやすいという方も珍しくありません。

日本酒の新しい市場開拓
 日本酒の新しい市場を創っているという実感もあります。従来の日本酒と違いすぎるので、これまで日本酒を飲んでいた人がシフトしているという感じはほとんどありません。
 また、日本酒は吟醸酒や純米酒の切り口で市場を切り分けて、情報性を高めて、一定の成果をあげてきました。さらに地酒という言葉に象徴されますが、ローカル色で多様性を打ち出してきました。しかし、あちこちから指摘されているように、味わいの広がりの狭さは否めないでしょう。地方性という横軸と新酒の中でのタイプ分けでバラエティをつくってきましたが、これに時間軸を加えることで、バラエティは格段に豊富になります。
 海外でも古酒の役割は大きいと思います。古酒を海外にもって行って、「タンク一本売ってくれ」という話が出てきたことも一度や二度ではありません。古酒は従来の日本酒と異なる酒で、洋酒の視角から見ても十分に評価されるポテンシャルがあるのです。
 特に欧州で使える酒だろうと考えています。従来の清酒がそのまま受け容れられて、上級酒の市場ができつつあるアメリカには、古酒はまだ早すぎるでしょう。アメリカ人はわかりやすいものを好みます。古酒のように複雑な味わいはもっと先でいい。
 ところが欧州ではワインが食中酒として広く飲まれています。ここに日本酒が入り込むのは容易なことではありません。アメリカで好調な日本酒が、フランスやイタリアなどワイン文化圏で苦戦しているのは、飲用シーンが日本酒とワインがぶつかっていることが大きな理由だと思います。
 しかし、古酒はその壁を軽々と超えていく可能性を秘めているのです。ヨーロッパでは日本酒が無色透明の酒という認識がほとんどありません。透明な酒はスピリッツであるという理解があって、これは古酒を説明しやすい条件と言えます。味も厚みがあって、骨格が洋酒と似ているため、かえってわかりやすいようです。

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