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3 新しい風の影響:スローな生活、自分のスタイル
 新しい生活スタイルというものが徐々に広がっていくだろう。ここには価値観が絡むので、全員ということもなければ、いっせいにすぐに変化するということもないだろう。だが、個人的選択の総和が新しい時代を作る。
 そのとき増えていく考え方の基本は自己決定重視とスローで豊かな生活ということである。外部の何か・誰かが決めてくれるのでなく、自分なりのユニークさをもって自分で決めていくというスタイルである。
 その具体化のひとつが、自分のスタイルで生きるということである。たとえば、中田英寿さんを想像してみればいい。彼がぐでんぐでんに酔うことはイメージしにくい。無礼講だといって人にからむこともないだろう。何をどれぐらい飲むかも自分で決めるだろう。いやな飲み会の誘いは即座に断るだろう。健康にも留意するだろう。彼には自分なりの美意識、スタイルがあるのである。そういうことである。そういう人が増えていくだろう。
 共働き夫婦や働く女性が増え、忙しい、料理や食事のあと片付けをするのが面倒だとか、たまには気分転換したいといった理由も手伝って、外での飲食は減ることはない。夫婦関係の見直しに加え、短時間労働者が増えることもあって、夫婦でもこれからデートの時間をもつようになるであろう。これらのとき、外で酒を飲むようなことは増えるだろう。酒が安い店で酒を買って、1人で家で飲むとか、友人と家で飲むようなことも増えるだろう。プレゼントとしての酒の魅力は、これからも残る側面だろう。
 またパソコンやケータイなど間接的な、あるいはバーチャルな関係が増えていく中で、再度、直接的な、身体的な交流、接触の場というものが見直されていくだろう。顔を合わせ、同じ空間にいること。わざわざ時間を取って会いに来ること。一緒に食べたり、お茶を飲んだり、何か作業を一緒にするという交流の暖かさ、豊かさ。そのとき、酒は重要なアイテムのひとつになりうる。オフィシャルな場のあと、私的な小さな空間になることで図られる豊かな交流というもの。「酒でも飲もう」という適度な、目的指向的でない関係。直接性を緩めるような、間をもたせるような機能が酒にはある。そういう面は今後いっそう利用されていくだろう。
 たとえば忙しい時間が多い中で、あえてゆっくり飲む、味わって飲むというようなことの大事さに人は注目していくだろう。1日の疲れを癒し、神経を落ち着かせる小道具としての酒。一昔前の依存症的な酒びたり的飲酒とか、ストレス発散、何もかも忘れて憂さを晴らす的飲み方ではなく、適度な量を、自分の感覚を緩めるために、感覚の拡大のために、リラックスするために飲むという豊かさのスタイル。
 この点で「1人でお酒をゆっくり飲むという楽しみ」を今後覚えて実践していくひとが、とくに女性で増えるだろう。というのは、とくに女性はこれまで飲酒の主体としてみなされてこなかったし、この30〜40年で女性が飲酒することは、タバコ喫煙と同様に垣根が低くなってきたものの、2005年現在でも女性が1人で酒を飲むということは、いまだ奨励されてもいなければ流行ってもいないし、日常化してもいない。さびしい行動と見られやすい。人によると「女性の飲酒は少しハシタナイ」という感覚も残っている。だから1人暮らしの女性に「家で1人で飲む?」と聞くと、ほとんどの人が「外でみんなと楽しくは飲むけど、家でひとりでは飲まない」という。
 しかし私の親しい女性の友人は、1人で家で飲むのが楽しいという。ガブガブとかグイっと一気に飲むというのでなく、ゆっくりと飲むのは、自分を振り返る静かな時間になってとてもいいので、今後拡がっていくよという。とくに週末に、おいしく酒を飲むためにそれにあった料理を作って、じっくりと酒を飲む時間をもつのは楽しいという。疲れた1日や1週間への小さなご褒美のような感覚で、仕事帰りに多くの女性が、甘いものや菓子を買って帰って家で食べることに抵抗がないように、また時には自分の服を1人で買うことに抵抗がないように、「酒を自分ひとりのために買って家でひとりで飲む」ことは、今後なんら公言しても恥ずかしくないひとつのスタイルになっていくであろう。寝る前に部屋を暗くして好きな音楽を聴いたり、好きな小説を読んだりしながら、ゆっくりと酒を飲むようなことも、意識的に行う人が増えていくだろう。見えるものにお金を使ってきた女性(男性)たちが、「家でのゆったりとした、1人のひととき」という見えないもののために、お金を使っていくことになるだろう。それが成熟という方向だろう。
 それからスウェーデンなどでは、夕方、仕事帰り、オープンテラスのようなところで軽くビールかワインのようなものを、1杯飲みながら友人と談笑する風景がよく見られた。コーヒーではなく、ゆっくりと飲めて少しアルコールが入っているがゆえに感覚が緩むような、お酒のようなものでのひととき。決して「グループでの宴会」ではなく、「食事」でもなく、友人2〜3人程度での小さな時間。これなども、今後増えていくスタイルだと思う。
 最後に、紙幅がないので簡略に記すが、新しい生活スタイルの特徴のひとつは、環境問題に敏感であるということだろう。入れ物・容器の問題、酒の造り方・中身・風味、有機農法かどうか、添加物の問題なども購入基準のひとつとなっていくだろう(参考:長澤1廣『この酒が飲みたい:愛飲家のための酔い方読本』コモンズ)。

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