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比較 日本酒とワイン
日本酒と白ワインの比較 さて、ここで冒頭の疑問に戻ろう。日本酒もワインも、それぞれ米と果実(ブドウ)を発酵.醸造させたものだ。ワインは、原料のブドウが主に糖類(ブドウ糖)からなっているため、酵母菌の作用で容易にアルコールへと還元される。その出来は原料のブドウの品質に大きく依存する。
 一方、日本酒の場合、原料は米のもつデンプンをいったん糖にしないといけない。分子の大きさを小さくする必要があるわけだ。それには麹菌を使う。その結果、糖分を多く含んだもろみになり、ここで酵母を働かせる。
 つまり、日本酒製造はワイン製造に比べて手間暇がかかる。太古の日本では、口くみ酒が造られていたともいわれる。これは口の中で米をかみ、唾液の中のアミラーゼという酵素でデンプンを糖に変える方法である。このようにして造った酒は、冠婚葬祭のために神々や先人の霊をまつったり、遠来の客をもてなすのに使ったりしたとされ、待ち酒といわれる。その後、縄文後期に麹カビが発見され、稲作の普及と相まって、急速に酒造りの技術革新が進んだのであろう。
 日本酒は、一般に糖分を多く含み、それが甘さを生む。またアミノ酸などに由来するうま味をもつ。pHは4.5とやや酸性側で、酸っぱさを生む。また15%以上と、比較的高アルコールである。うま味がある点が、いかにも日本人的である。
 一方、ワインは香りを売りものとしている。芳醇な香り、エレガント、かぐわしい、すっきり、気品と優雅さ、といった感じで香りをたたえる言葉が盛りだくさん。中にはレマン湖のような香りといった意味不明の表現もある。糖分は低い。また本質的に酸っぱさを基調とし、pHが3程度と日本酒に比べてかなり酸性側に傾いている。アルコールはおよそ11%と、日本酒に比べて低い。またタンニンなどの苦渋味が、味にメリハリを与えている。
 ここまで来ると、なぜ吟醸酒がワインと似ていると思ったのか、おぼろげに推察できる。それは、ワインは香りがベースであることを私たちが経験的にまず知っていた。そして従来の日本酒はというと、香りよりもその甘さが記憶にインプットされていた。その結果、近年流行の淡麗辛口かつ芳醇な香りの吟醸酒を飲んだとき、(日本酒というより)ワインに似ていると思ったのである。実は全く違う飲み物であるのにもかかわらず、である。
 このことを逆に言うと、日本酒は、その製造工程にバリエーションが多いのである。実際、淡麗辛口の吟醸酒は、かつての濃厚甘口の日本酒とはかなり異なるお酒である。
 まとめると、私たちが吟醸酒がワインに似ていると思ったのは、旧来の日本酒との比較、そしてワインのもつ芳醇な香りのためといえる。つまり、味そのものは全く違うと考えられる。味覚センサーの結果を図表3に示す。予想通り全く異なる応答パターンである。これらは確かに違う味である。日本の文化の象徴である吟醸酒、ヨーロッパの香り豊かなワイン、どちらも伝統が生きた円熟の賜といえよう。

【参考文献】
都甲 潔:『味覚を科学する』角川書店.2002
都甲 潔:『旨いメシには理由がある』角川書店.2001
【プロフィール】
都甲 潔(とこう.きよし)
1953年福岡生まれ。九州大学工学部電子工学科卒業。食を知ることで人間の原点を知ろうと「味覚センサー」を開発。

月刊酒文化 2003年7月

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