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銀の酒器

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酒論稿集
酒器論稿
古代ギリシアの酒器
酒器を彩る古代人の生き様
 ワインを好んだ古代のギリシア人はワインを飲む以上に器に気を配り、美しい装飾のあるさまざまな器を用いることを良し とした。すぐれた陶画家は器という限られた空間の中で健筆をふるったのである。
 もちろん、古代ギリシアでは酒器は必ずしも陶製のものばかりでなく、金、銀、青銅製のものも数多く用いられていた。こ のことはアレクサンドロス大王の父、マケドニアのフィリップ二世の墳墓から出土したディオニュソスとアリアドネの婚礼を 浮き彫りにした青銅のクラテル(前三三〇年、テッサロニキ考古博物館)でも顕かであるが、残念なことにこのような金工品 の多くは長い歳月のうちに改鋳され、現存する作例は陶器に較べて著しく少ない。
 ギリシアの陶器は全般に頸部、胴部、把手など別々に成形したあと接合して乾燥し、そのあと絵付けして窯に入れて焼成した。 焼成温度は摂氏八〇〇度から九五〇度、火は酸化、還元、再酸化の工程で行われる。ギリシア陶器の魅力はその均整のとれた 器形に加えてその装飾にある初期の厳しい幾何学様式に次ぐアルカイック期(前六〇〇?前四八〇年)を代表するアッティ カ黒絵式陶器、そして前五三〇年以降に新たに誕生した赤絵式陶器、その絵付けのモチーフはすべて人物像で、神々や英雄た ちのすべてが悲喜こもごもの深い人間感情を表明している。陶器の絵付けにも、ギリシア的精神の特質とされる人間中心的な 考え方が顕著である。その一例であるが、前六世紀末に活躍した陶画家エクセキアスはトロイア戦争の英雄の一人アイアスが 自ら犯した行為を恥じて自殺しようとする場面を描いているがそこでは自殺したアイアスではなく、いままさに死なんとして短剣 を地上に立てるアイアスの姿で、そこにはまるでアイスキュロスの悲劇の一場面を想い起こさせるものがある。 日本の陶磁器の絵付けのモチーフはほとんどが花鳥画、しかもそれらは一種の装飾として描かれているのに対し、ギリシアの 絵付けの多くは装飾と言うより、器という一つの空間での人間の表明である。興味あるのは酒盃キュリックスの外側に大きな眼 を開いたディオニュソスの顔や、アイ・カップと呼ばれる眼だけを大きく描いた盃がある。酒神ディオニュソスを描いた盃は酒 神に乾杯か、あるいはアイ・カップは酔っぱらわないよう神が見張っているのであるとの解釈もある。

  最後になったが、哲学者プラトンの代表作の一つに『饗宴』 という著作がある。その原題は「シンポシオン」。現在学会や研究会の質疑応答のことを「シンポジューム」と呼んでいるが、 これはシンポシオンのラテン語である。じつはこのシンポシオンの動詞は「シンピノー」すなわち一緒に酒を飲むという語に 由来する。議論好きな古代ギリシア人は一人で酒を飲むより、人と一緒に飲む事を好んだらしい。現存する古代の壁画や文献 から古代ギリシア・ローマ時代には一般に食事や酒を飲む時は長椅子に体を横にし、女性や子供にワインを注いでもらってい たことが知られている。いまの学会のシンポジュームはお酒も出ないし、女性がお酌をしてくれることもない。そのようなこ とを求めれば、フェミニストから手痛い仕打ちを受けることは必定である。プラトン的シンポシオンを望む御仁は、連れ立っ て夜の銀座のバーに行くのがより無難とも考えられるが……。

【プロフィール】
前田正明(まえだまさあき)
武蔵野美術大学・名誉教授、日 本・ギリシア協会理事、美術評論 家。著書に『西洋陶磁物語』『ヨ ーロッパ陶磁名品図鑑』(講談社)、 『タイルの美 西洋編』(TOTO 出版)、その他西洋陶磁器関係の 著書多数。

お酒の四季報 2000年秋号

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