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日本と海外の酒めぐり
ビールのルーツを訪ねて
ビールのルーツを訪ねて  
日本酒の生もと造りに似た仕込み
 さて「グーズ博物館」に電話をしますと、週に一回見学日があるというので、早速その日に出掛けてみました。ブリュッセル南駅の近く、つまりブリュッセル市街のド真ん中になるわけですが、商店やら民家がビッシリと立ち並んでいる中にあるやや大きめの普通の二階家です。ビールといえば設備産業ですから、どうしても広い敷地と巨大な建物を想像してしまいますので、看板が無ければここでビールを造っているなんて到底信じられません。
 恐らくベルギーでも最少の醸造所でしょう。
 二階には煮沸釜があって、大麦麦芽を主に小麦とホップを加えて煮沸する。このホップは三年もわざわざ寝かせておいたものだそうです。出来た麦汁は屋根裏部屋にある、上部が開放された冷却槽にポンプアップされ、一晩放置されます。この屋根の裏側を見上げてビックリしました。小さな穴が沢山あいているのです。もっとも雨が降り込まないように工夫はされていますが。つまり外からの空気が自由に入ってくるわけですね。ここで麦汁が冷却されるうちに、空気中に漂っている酵母菌を取り込むというのですが、一緒に雑菌も入ってしまうはずです。
 一般にビールは完全に殺菌した麦汁に、純粋培養された酵母菌を植えつけて造るものです家庭で造るなら失敗してもかまわないけども、商売で造るとなると雑菌が混入して失敗したなどということは許されませんよね。そのあたりはどうなっているのだろうと思っているうちにハタと思い当たりました。グーズというビールはちょっとすっぱい味がするんです。「そうか、これは日本酒の生もと造りと同じことなんだ!」
 麹菌によって糖化された蒸米汁には、乳酸菌や酵母菌、それに種々の雑菌が一緒に入ってくる。
 まず乳酸菌が働いて乳酸を作ると、酸性に弱い菌類が死んでしまう。ところが日本酒酵母は酸性に強いので生き残る、やがてそのうちに乳酸がさらに作られてくると、今度は乳酸菌自体が自分の作った酸にやられて弱ってしまう。さらにここで撹拌が加わると、乳酸菌が好まない酸素を酵母は逆にエネルギー源として盛んに増殖する。そしてついに米汁の中は酵母菌の天下になってしまう−−これが「生もと造り」ですね。

感謝の気持ちで ビールをいただく
 これとすっかり同じ事がここでも起こっているのでしょう。酸っぱいのは乳酸で酵母だけが生き残っているわけですね。この酵母はブレッタノミセスという名前だそうです。
 でこの後、酵母の入った麦汁は二階で樽に詰められます。そして一年経ったものがランビックというビールで、もちろんこれも酸味があります。このランビックにサクランボを入れてさらに半年置くとクリークが出来上がります。
 色の赤い珍しいビールです。果実の風味はありますが、甘みは全くありません。また樽を一年ではあけないで、二年、三年と寝かせ、出来具合を見極めてそれぞれを適宜ブレンドしたものがグーズなのです。一階でびん詰めされた後、さらに貯蔵されて後発酵を続けるので、栓をあけるとちょうどシャンペンのような細かい泡が立ちます。
 現在のビールは一ヶ月もあれば出来てしまうのに、このグーズは四年近くもかかっているのですから、心して飲まなければなりません。
 こうした自然の酵母を採り入れる伝統的な製法を行っている醸造所は、現在では三、四軒になってしまったそうです。また、「本物のグーズはこのブリュッセルでなくては出来ない」のだそうです。つまりグーズを飲むということは、ブリュッセルの街に昔から住んでいるブレッダノミセスという酵母に「やあ、元気かい。お陰でグーズをまた飲めるよ」と挨拶することなのかも知れません。

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