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日本と海外の酒めぐり
黄河下流域の酒を訪ねて
黄河下流域の酒を訪ねて―中国山東省の酒と飲み手  
人類最古の酒を手にした黄河文明、その下流域にある山東省一帯では、伝統的に黍(きび)を原料にした黄酒(ホアチュウ)(醸造酒)や高粱(こうりゃん)からつくる白酒(パイチュウ)(焼酎のような蒸留酒)が愛飲されてきました。およそ一世紀前には、ワインとビールの本格的な製造も始まります。山東省は、中国で外来の酒にもっとも早く接した地域でもあるのです。今回は、中国の酒の主産地のひとつである山東省の古今の酒をご紹介します。

黄河流域の古代の酒
地図 黄河の下流域に広がり、黄海をはさんで朝鮮半島と向き合う山東(シャントン)省。面積は北海道と東北を合わせたよりもまだ大きく、九〇〇〇万人を超える人口は中国で二番目です。
 ここには古代から豊かな酒文化が花開いていました。中西部に点在する大口(ダーウェンコウ)文化時代の遺跡は、紀元前四三〇〇年〜二四〇〇年頃のもので、すでに粟や黍を栽培し社会階層や貧富の差があったことがわかっています。たくさん出土した酒器は彩色土器や黒色土器で、祭祀性を感じさせる装飾が施されています。酒甕として使われたと考えられている陶尊(とうそん)や、酒を漉したとされる漏缸(ろうかん)なども出土しており、当時から酒が社会に定着していたことがうかがわれます。
 その遺跡のひとつ、陵陽河遺跡と大朱家村(ダードゥシャスン)遺跡に足を運んでみました。どちらも山東省の中東部の県(チューシエン)郊外にあります。山東半島の付け根にある青島から車で約四時間、野菜やトウモロコシの畑が広がるなかに遺跡はひっそりと在りました。あたりは黄砂に煙り、レンガを土で塗り固めただけの質素な家の集落が点在しています。通りがかりの老いた農夫に「このあたりからたくさんの酒器が出土したそうですね」と尋ねると、軽く頷いて、目の前の畑を指差します。「あそこに記念碑がある。出土品はぜんぶ博物館に行ったよ」と静かに応えます。
 最近、黄河流域からは古代の酒の発見が相次いでいます。昨年末には、黄河の上流域の河南(ホーナン)省の遺跡から九〇〇〇年前の酒の滓(かず)らしきものが見つかりました。中国科学技術大学や米ペンシルバニア大学などの国際調査隊が、出土した壷の破片から写真検出したもので、蜂蜜やブドウや米などでつくられた酒(発酵飲料)ではないかと見られています。その直後、今年の初めには陝西省の西安市郊外の遺跡で、約二〇〇〇年前の磁器が一〇数個見つかりました。そのうち五〜六個に液体が入っており、酒の可能性が高いと報じられています。これからも古代中国の酒を知る手がかりが、次々に出てくることでしょう。

黍から生まれた老酒
 伝統的な中国の酒は「穀類を麹カビで糖化してつくる醸造酒」で、黄酒と呼ばれています。広い国ですから場所によって利用する穀物はさまざま。浙江省や広東省など南部では糯米(もちごめ)や粳米(うるちまい)が使われ、寒冷な北部では黍がよく使われます。麹カビを繁殖させるのも小麦、米、麸(小麦を脱穀した皮の屑(ふすま))を使ったり、さらに柳蓼(やなぎたで)などさまざまな植物を混ぜ込んだりと、土地によって異なります。
 山東省の黄酒は、黍を原料にしてつくられる北方型黄酒です。揚子江地域より北は米の栽培適性がなく、米は貴重品でした。そこでは、かつて盛んにつくられていた黍が酒の主原料になったのです。黍は実が黄色いことから黄米(ホアンミー)とも呼ばれ、五穀豊穣の「五穀(米・麦・粟・黍・豆)」のひとつに数えられます。というよりも桃太郎の「きびだんご」の黍と言ったほうがわかりやすいでしょうか。
 現在は山東省で黍がほとんどつくられていないため、黄酒の原料には主に内蒙古産のものが使われています。栽培技術の進歩や品種改良により山東省はトウモロコシと小麦を中心とした農業になり、さらに経済開放政策の推進によってより付加価値の高い野菜へと転作が進んだためです。日本のスーパーには中国産の野菜がたくさん並んでいますが、その供給基地となっているのが山東省です。
 ちなみに山東省の耕地面積は六万八三〇〇平方キロメートルと省面積の四割を超え、カリフォルニア、ウクライナと並ぶ世界の三大野菜生産地と言われています。当然ですが野菜の生産量は中国でトップ、白菜、スイカ、ねぎ、しょうが、にんにく等の有名産地を抱えています。平均気温は一一℃〜一四℃ですから東北地方とほぼ同じ、降水量は六〇〇〜一〇〇〇ミリ程度と日本の半分程度です。

《 写真提供「週刊新潮」 》

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