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日本と海外の酒めぐり
黄河下流域の酒を訪ねて
黄河下流域の酒を訪ねて―中国山東省の酒と飲み手  
黄土から生まれる驚きの酒
写真  白酒の原料の高粱は蒸した後に冷まして麹を加えます。この麹は大曲(ターチュー)と言い、大麦・小麦、豌豆(えんどう)を混ぜ合わせて煉瓦状に踏み固めてつくったもの。高粱と大曲を混ぜ、水を加えず粒のまま発酵させます。ウイスキーや焼酎などほとんどの蒸留酒は液体の状態で発酵させますが、固体のまま発酵させるこの手法は中国とヒマラヤ山麓の国々、インドシナ半島北部にしかない極めて個性的なものです。
 さらに興味深いことに、これを地中に埋めて発酵さます。窖池(こうち)という縦横が三×二・二メートル、深さが一・五メートルほどの穴に埋め、土饅頭状に軽く盛り上げ、表面をどろどろの土で丁寧に塗り固めます。気温の下がる冬季はこれにシートをかぶせて保温し、二カ月ほどしたら掘り起こして蒸留します。
写真  蒸留は、固体の醪に籾殻と高粱そのものを混ぜ込んで蒸留器にはり込み、およそ二時間かけて蒸しあげます。籾殻を混ぜ込むのは蒸気の通りをよくするためです。水蒸気が醪を通過することで、粒のままの高粱のなかにあるアルコールを抽出し、それを冷却して蒸留液を得ます。蒸留液は最初に流れ出るものはアルコールが七〇度くらいあり、その後徐々に下がって四〇度台になったところで頃合を見て蒸留を止めます。約一・二五立方メートルの醪から、アルコール度数六〇度の酒が七〇リットルほどとれるそうです。
 さて、蒸留の時に醪に高粱そのものを混ぜ込むことを、訝しく思った方がいるのではないでしょうか。実はこれも白酒独特の手法で、蒸留が次の仕込みに使う原料の蒸しを兼ねているのです。蒸留粕と高粱に大曲を混ぜ込み、窖池に埋め戻すことを繰り返していきます。このように連醸することで窖池の発酵菌は新陳代謝を促され、回を重ねるほど香気成分が豊かになっていくと言います。日本の焼酎では蒸留粕の廃棄処理方法が問題になったり、泡盛では粕を豚の飼料にしたりしてきましたが、中国の白酒は酒つくりのなかだけで粕の処理が完結しているのです。
 白酒はどれも強い香りがあります。日本人は、なかなか慣れない人が多いようですが、丁寧に仕込まれた白酒の香りを遠めから嗅いでみると、清酒の吟醸香と同じものが多分に含まれていることに気がつくはずです。正体はカプロン酸エチルや酢酸エチルなどです。これらは窖池から生まれた香気という意味で窖香と呼ばれています。穀物から果実のような香りが生まれる点を清酒の魅力にあげることがありますが、中国の白酒にも同じことが言えましょう。これが大地から生まれてくるというのは、まさに黄土の酒であります。

ポリ容器で白酒の量り売り
写真  蘭陵に近い臨沂(リンイー)の街の市場で白酒の販売店を見つけました。看板には散酒(サンチュウ)とあります。これは甕からの量り売りという意味です。青島などの都会では見ませんでしたから、瓶詰め商品が増えてきて、田舎にしか残っていないのかもしれません。
 薄暗い店内には真ん中に三〜四つの大きな甕が置かれていました。度数や貯蔵年数の違いで値段が違いますが、四五度の白酒は一・五リットルでたった五〇円。目の前で甕から汲み出してもらいます。なかには灯油を入れるようなポリタンクを持参して、バイクの荷台に豪快に積んで帰る人もいました。試しに買ってみると、どうもポリ容器の蓋の絞まりが甘いようで、揺らすと酒が漏れてきます。最初から長距離の移動は想定していないのですから仕方がありません。
 市場を歩くとこうした店が数件ありました。三軒目に覘いた散酒店は地元の白酒だけでなく、華北のものや紹興酒も扱っていました。店頭には広口瓶に漢方薬や蛇や蜥蜴を漬け込んだリキュールも一〇数種類並んでいます。ご主人に「最近人気のビールやワインは置かないのですか?」と聞くと、「俺のところはそんなものはやらない」ときっぱり。カーキ色のコートに身を包んだ大柄なご主人は、中国伝統の酒をこよなく愛しているのでしょう。ちょっとうれしくなります。
写真 白酒を飲んでいる人々を捜して夜の街に繰り出すと、特産の羊肉の餃子店で数人の若者が卓を囲んでいました。餃子をつまみに白酒を飲んでいます。五〇度以上のアルコール度数ですが、もちろん割りません。小さなグラスでストレートでグイッと一気に飲み干します。カメラを向けると「乾杯」と酒を高くかざします。当然、我々も一杯ご相伴に預かります。蘭陵の白酒とともにこの日は終わり、翌日も昼過ぎまでその香りと酔いを楽しんだのは言うまでもありません。

《 写真提供「週刊新潮」 》

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