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日本と海外の酒めぐり
中欧「酒と水」紀行
中欧「酒と水」紀行4 ハンガリー2  
キッシュバルダへ
 トカイを後にしてウクライナに近い町「キッシュバルダ」へと向かった。車窓をすぎる景色を眺めながら、先ほど見たワイン工場の地下にある酒蔵を思い浮かべていた。迷路のごとく続く酒蔵を案内されたときには、このまま地下トンネルに迷い込んでしまい、太陽の輝く地上に永久に出られないのではないかと根拠のない恐怖感が襲ってきたものであった。ワイン工場の酒蔵はだいたいがこのようなトンネル式になっていて、大きな工場になると100キロメートル以上の規模を持つという。ハンガリー全体で使用されているトンネル式酒蔵の全長は500キロメートルとも600キロメートル以上ともいわれている。そんなことを思いながらキッシュバルダについたのは陽もとっぷりと暮れた頃だった。
  日本を出るときに在日ハンガリー観光局にこの町に行きたいと情報を求めたところ「それはどこですか」といわれてしまった。それほどの田舎町なのだ。この町にきた目的は一般家庭で日頃飲まれ、食されている「酒」と「料理」を味わってみたいと思ったからだ。町についてただ一軒あるホテル(木賃宿といった方がぴったりの天井の低い粗末なホテルだったが)に入った。宿賃は2100フォリント(一フォリント=約0.52円)ということは1000円ちょっととそれなりに安い。
 荷物をおいて早速ナジラティさんのお宅を訪ねた。玄関まで出迎えてくれたご夫婦から、挨拶もそこそこに抱きしめられキスをされるという熱烈な歓迎を受けた。聞けばこの町に日本人がきたのは片手で数えられるくらい希な出来事だったらしい。
 夕食を準備してあったので早速食卓を囲むこととなった。まずはパーリンカが出る。も ちろん自家製のパーリンカでリンゴから造ったものだ。この地方ではリンゴが結構たくさん獲れ、各家の裏庭には大体何本かのリンゴの木が植えてある。収穫したリンゴは地下室の倉庫においておく。自然発酵した頃合に町の蒸留屋さんに持っていきパーリンカができあがる。これを食前酒として小さなコップに入れ一気に飲み干してから食事が始まる。朝・昼・晩ともパーリンカがないと食事は始まらない。
 さて料理であるが、通常はグヤーシュスープにポテト、それにパンといったごく質素な食事が普通なのだが、今日は伝統的なこの地方の料理を作ってもらった。前菜はファーンクというドーナッツのようなパンにアプリコットジャム。次はマリーのスープと名付けられたフランクフルトスープで、キャベツや人参、ニンニク、タマネギ、ジャガイモをサワークリームで味付けしてある。そしてベルケルトという豚肉の煮込み。ハンガリーでは豚肉を使う料理が主役だ。生肉を使うほかにハム、ベーコン、ソーセージなどがよく使われる。そしてそれらの製品は冬場を乗り切るために作られる。このため一一月になると冬場に備え一斉にハム作りが始まる。この地方では一一月を「豚殺しの月」と呼んでいる。
 余談はさておきこれらの料理のほか、茹でたジャガイモにピクルスなどを食べながらワインを飲む。家庭で作られているワインはこの地方の「マサラの宝石」というブドウで造る。洗練されてはいないし、ワイン自体も濁った赤色をしているが、これが一般家庭で飲まれているごくふつうの自家製ワインだ。味自体も旨いとはいえないが、それほど渋味などもなく十分飲める。このワインを炭酸水で割ったものもよく飲まれている。この地方も水事情が悪く水道水は飲めないので、浄水器を通したりしているが、町には「炭酸水屋」があり、日本の牛乳配達のように毎日届けてくれる。これをワインと半々に割り飲むのだ。
 さんざん食べたり飲んだりした後はデザートが出る。ベイグリ(ケーキ)は延ばした生地に芥子の実とジャムを乗せ巻き上げて焼いたものだ。
 食事が終わると驚いたことにはこれからワインタイムが始まるという。ワインを飲みながら鶏の丸焼きをそぎ落としてつまみとし、野菜をパンでつなぎオーブンで焼いたベジタリアンハンバーグなどを食べなからおしゃべりをして延々と続く。一つ一つの料理についてその由来と作り方を聞かせてもらったのだが、紙数の都合でお伝えできないのが残念である。夕食が終わった頃には日付も変わろうかという時間になっていた。
 次の朝ナジラティさんの家で朝食を済ませ近くに住む酒造りの名人ヨリカさんを訪ねた。ヨリカさんはいろいろな果実を自家栽培しパーリンカ、ワイン、ブランディなどの酒を造っている。庭を横切り家に入ろうとすると軒先に変わったものが懸けてあった。瓢箪のようなものであるがどこかで見たような気がするが思い出せない。「あれは何ですか」と聞くと「あれはロヴォートクだよ(後で聞いたら盗人のカボチャという意味だとか)ワインロヴォーの元になったもので、昔はあれで試飲をしていたんだよ」と教えてくれた。
 部屋に通され早速ヨリカさんご自慢の酒の試飲会が始まる。まずはパーリンカ。プルーン、リンゴ、サクランボ、ナシ、小麦などの種類がある。香りが原料によって大きく違い
飲み比べるのが楽しい。つまみは「ボガーチョ」というクッキーのようなものだ。次が赤ワイン、そしてイチゴのエンペルリキュールとつづく。エンペルリキュールはイチゴに砂糖をまぶして時間をおくとイチゴの水分と砂糖でできた液体になる。これを熱して殺菌するとともにあくを掬いだし九五%のアルコールと水を混ぜアルコール度50〜60度に調整して寝かせて造る。
 さんざん飲んでからこの町に別れを告げてエゲルへと向かうことにした。最後に町の酒屋に入り量り売りのワインを買う。サムロディの甘口と赤ワインを二リットル入りペットボトルに入れてもらうが、一本300フォリント(約160円)は安い。味見をしたが結構いい味をしており、普段飲むには十分のレベルと見た。

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