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日本と海外の酒めぐり
中欧「酒と水」紀行
中欧「酒と水」紀行4 ハンガリー2  
エゲル
 ハンガリーの家庭料理を堪能して、ほろ酔い気分のまま次の目的地エゲルへと向かうことにした。エゲルについた頃にはあたりが薄暗くなり夕闇が迫っていた。ここでの宿泊はゲストルームを一棟借りてある。部屋数は寝室が六部屋あり、築年数も新しく設備も整い快適な家だ。しかも朝食付き三人で60ユーロと安い。早速町のレストランに夕食を摂りに向かう。連絡してあったせいかテーブルには日本の国旗が飾ってあった。エゲルといえば赤ワイン、ということでソムリエを呼びビンテージもののおすすめのワインを持ってきてもらう。日本円で二万円ほどのワインがきた。この国にしては高いがこれほどの値段ならきっとうまいのだろうと期待が大きくなる。デキャンタに移し、まず澤辺さん(ハンガリー語の通訳として同行をお願いした、ワインにも詳しい女性)がテイスティングをする。しばらくの沈黙の後、「エー、これ味噌か醤油の味がする」と素っ頓狂な声を上げた。それはないよと思いながら渋々飲んだことだったが、ソムリエがワインを評価するときの表現方法に話が盛り上がった。「豚皮をなめしたような……」などと訳の分からない表現をするが本当に豚皮をなめしたのを嗅いだことがあるのだろうかなどと、しばしこの話題に花が咲いた。
 翌朝ガールティボル社を訪問した。ガールダとはワインの意でこの社の経営者ティボル氏は100ヘクタール以上の葡萄農園を所有する。早速畑を案内してもらった。ここはトカイの火山灰が降り積もった地層で、平地は結構豊かな土壌なので葡萄作りには適さず、土地のやせた山の斜面を利用している。葡萄畑のあちこちにローマ時代の遺跡が散在し探検をしているような気がする。この社の真ん前にはかつての国営ワイン工場「エゲルビン社」があり今は個人経営となっているが、15〜16世紀にたてられた当時の威容を残している。ガールティボル社の代表的ワインに ピノノアール種のワインがある。またカベルネソービニオン種2001年、シラーメルローと呼ばれるシラー80%メルロー二20のワインなどいいものがある。
 エゲルのワインはエグリピカヴェールとして知られている。この名の由来は1552年、10万のトルコ兵に包囲された2000のエゲル兵と土地の女たちは指揮官ドーボ・イシュトヴァンのもと城に籠もり戦った。城壁を登り来る敵兵に煮えたぎる油やアスファルトを浴びせ28日間の戦いの後勝利を収めたのである。このとき将兵の志気を高めるため、ドーボ指令官の命により女たちは将兵に赤ワインを飲ませた。これを見たトルコ兵は、てっきり牛の血を飲んでいるものと勘違いし恐れおののいたという。これがエグリピカヴェール(牡牛の血)といわれる由縁となった。

終章
 ぐるっとハンガリーを回り首都ブダペストに戻ってきたのは一週間ぶりだった。この後ウィーンに戻り帰国することになるのだが、もっともっと調べたいことがあり、中途半端な心残りの旅となってしまった。帰国後半年を経てまたこの地に戻ってくることになろうとは、このときには思いもよらなかった。2004年5月から6月にかけ再度この旅の跡をたどることができ、不足していた部分を埋めることができたのは思いがけない幸いだった。日本の「どぶろく」のように、土地の人しか知らない酒にたくさん巡り会うことができたが、そのときの取材記はまた改めて読んでいただける機会があるかもしれないと、密かに楽しみにしている。

月刊酒文化 2004年 11月

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