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社交を彩る酒の文化
社交を彩る酒の文化  
格付けを暗示するワイン
'95 年5 月、第2 次大戦終結50 周年記念昼食会でのエリゼ宮のメニュー しかし外から見て、饗宴の政治性を最もよく体現するのはワインとシャンパンである。なぜかというとワインの産地と格付けを見れば、饗宴のレベルは一目瞭然だからだ。格付けのないシャンパンも、いい年のぶどうだけで造った高級なミレジメものか、いくつもの年のぶどうを混ぜて造った普通ものかは表示を見れば明かだ。また先に触れたように、クリュッグとドン・ペリニョンは高いレベルのもてなしをしたい時にだけ出すシャンパンと、エリゼ宮では決まっている。
大統領は「両陛下にフランスワインの素晴らしさを味わっていただくため、どんな銘柄がいいか考えて欲しい」と宿題を出された。ギヨーム氏が選んだのはシャトー・ムートン・ロートシルト六六年。英国のロスチャイルド家が所有するボルドー地方のメドック地区第一級格付け赤ワイン。年も今世紀屈指のヴィンテージ・イヤーだ。
ギヨーム氏にはワイン業者からの誘いが引きも切らない。ワインの試飲会、産地への見学会と、「エリゼ宮ご用達」になろうとあの手この手でギヨーム氏にアプローチする。これを断らないと聞いてフランスらしいと思った。日本だと業者との癒着当時のワイン担当者は、30代半ばのパトリス・ギヨーム氏だった。最初に彼の執務室に入った時、目についたのは机の上にうず高く積み上げられたワイン業者からの請求書だった。年間5千本ものワインが消費されるだけに、買い付け量も膨大なものになる。
賓客にどのワインとシャンパンを出すかは料理メニューを見てギヨーム氏が決めるが、大統領が指示することも少なくない。例えば94年10月、今上天皇皇后両陛下が国賓としてフランスを訪問した時、ミッテラン大統領は「両陛下にフランスワインの素晴らしさを味わっていただくため、どんな銘柄がいいか考えて欲しい」と宿題を出された。ギヨーム氏が選んだのはシャトー・ムートン・ロートシルト六六年。英国のロスチャイルド家が所有するボルドー地方のメドック地区第一級格付け赤ワイン。年も今世紀屈指のヴィンテージ・イヤーだ。
ギヨーム氏にはワイン業者からの誘いが引きも切らない。ワインの試飲会、産地への見学会と、「エリゼ宮ご用達」になろうとあの手この手でギヨーム氏にアプローチする。これを断らないと聞いてフランスらしいと思った。日本だと業者との癒着と騒がれそうだが、ギヨーム氏は「いかにいいワインを安く買い付けるかが私の仕事。むしろ積極的に応じてワインの知識を仕入れるようにしています」と言った。

私は帰国してから、取材した饗宴外交の模様を『エリゼ宮の食卓』という本にまとめた。改めて本を繰って思うのは、フランスの懐の深さだ。執事長は饗宴を担う人々を紹介してくれ、自由に取材させてくれた。儀典課の担当者は席次を決める大変さを、口角泡を飛ばして説明してくれた。饗宴の最中、料理長は厨房の奥に案内してくれ、20人からの料理人が立ち働く様子を見せてくれた。いまも時折、私はエリゼ宮儀典課の知り合いに国際電話してメニューをもらっている。「シラク大統領になってワインの選択の仕方も変わってきた。エリゼ宮の食卓パート2を書かないかい」と誘われると、つい「やってもいいかな」と思ってしまうのである。

フランス:1999年4月 『お酒の四季報』

【プロフィール】
西川恵(にしかわめぐみ)
1947年長崎県生まれ。東京外語大学卒業。71年毎日新聞社入社。東京本社地方部、社会部、テヘラン支局、パリ支局、ローマ支 局を経て現外信部長。著書『エリゼ宮の食卓』(新潮社)で98年度サントリー学芸賞受賞。

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