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日本と海外の酒めぐり
永遠の田舎イタリアの酒
永遠の田舎イタリアの酒  
地域をまとった食材の魅力
地方のレストランでは地元ワイン・地元食材が供される(シチリアにて) 私のワイン歴は13年前、パリに赴任して以来だが、飲み方は折々に変わってきた。パリの7年間はまんべんなく楽しみ、特に最上級のグランヴァンにこだわらなかった。フランス人は個人的な祝い事があるときははり込むが、ふだんは30フラン(約600円)前後がせいぜいで、それでも十分美味しかった。それだけに、グランヴァンを開けるときは心がはずんだものだ。
帰国したとき、フランス赴任前より日本人のワインへの関心は高まっていた。ワイン会も結構あり、そこで出るのはフランス人でさえふだんめったに口にしないような最高級ワインだった。それはそれで楽しい体験だったが、これでもかこれでもかと最高級を求めるワイン会に疲れ、感覚が麻痺していたことも事実だった。
ローマでのフラスカティとの新鮮な出会いは、パリでも日本でもついぞない体験だった。地域社会が一つのまとまりをもち、確固として存在するイタリアにあってこそで、風土に根ざした地域性というものがいかにワインを味わう上で大事かを教えてくれた。
改めて私は考えた。ワインを含め食材というものは、本来、地域性を濃厚に保持しているものである。その土地の滋味、気候、水によって育てられる食材は、その地だけで完結する。だから郷土料理、地方料理がある。技術が発達し、温室や水耕栽培でどこでも育てることが可能となったとはいえ、食材が本来もつ地域性がなくなった訳でない。
むしろ現代はグローバリズムの進展の中で、地域性を濃厚に宿すワインを含めた食材、さらには食といったものが、グローバリズムの画一化、平準化に抗するものとして立ち現れているのではないだろうか。

私は駅前の酒屋で買ったフラスカティを冷蔵庫で冷やし、ある夜、抜栓した。やや黄金色がかった薄緑の液体はローマのときと変わらなかった。一口含んでみた。酸味が鈍り、ワイン全体の輪郭もややぼやけている。ローマで飲んだときとは比べるべくもないが、長い旅をしてきた割にはまずまずだった。一度訪ねたことのあるフラスカティの丘陵地帯、そして市場の赤ら顔の酒屋の主人に思いをはせながら、私はワインにご苦労さんとつぶやいた。

イタリア:1999年10月『お酒の四季報』

【プロフィール】
西川恵(にしかわめぐみ)
1947年長崎県生まれ。東京外語大学卒業。71年毎日新聞社入社。東京本社地方部、社会部、テヘラン支局、パリ支局、ローマ支局を経て現外信部長。著書『エリゼ宮の食卓』(新潮社)で98年度サントリー学芸賞受賞。

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