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日本と海外の酒めぐり
カシャーサ・ひすとりい
カシャーサ・ひすとりい  
奴隷と酒 そこにルーツがあった?
 カシャーサはサトウキビを原料とするが、ブラジルに初めてサトウキビの苗が持ち込まれたのは1532年。ポルトガルの探検隊隊長のマルチン・アフォンソ・デ・ソウザ(Martim Affonso de Souza)がマディラ島から持ち込み、サンヴィセンチ(サンパウロ州サントス港近辺)に最初のサトウキビプランテーションが始められた。
 カシャーサは交易用砂糖づくりの副産物であり、工場で働かされる奴隷によって実に偶然に生まれ、見つけられたという。ある砂糖工場で奴隷がサトウキビの絞り汁を煮ているあいだに上ってくる泡が、見た目に汚らしいのですくい上げ、木製の桶に一昼夜うちすてておいたが、翌朝には液体になった。家畜たちが見つけたその液体は、醗酵したサトウキビ汁でアルコール分を含んでいたため奴隷たちはそれを飲むと機嫌がよくなり、食事もそれほど欲しがらなくなったという。監視役にとっても、過酷な生活環境に耐える黒人奴隷にとっても、この酒はなくてはならないものとなった。しかしこれが現在のカシャーサと同一品であるかどうかは不明である。
 当時、ブラジルの交易先はポルトガルとその領地であるアフリカ沿岸部などで、なかでも当時のダオメー(Daome:フランス領であった現在のベナン共和国)では非常にこの酒が好まれ、その代わりにブラジルに最も必要だった黒人奴隷がどんどん送り込まれた。
 そこで行政区は何度も出し、かつ破られるカシャーサ製造禁止令を取り下げ、さまざまな税金を課すことにした。掛けられた重税で焼都と化したリスボン再建を援助したり、コインブラ(ポルトガルの文化・芸術の拠点ともいうべき都市。ポルトガ大学教育を補助したりと、カシャーサはかなりポルトガルを助けた。彼らにとってカシャーサさまさまといったところか?

規格化の契機
 さて現在、アーティザンを製造する家内蒸留所はブラジル全州に散らばっているが、そのなかでも国土の南東部に位置するミナスジェライス州が圧倒的に多く、約8500あるといわれている。カシャーサの生産量は年間1億4000万Lで、国の生産総量(インダストリー含め)の14%を占める。そのほぼすべてがアーティザンで、そのうち正式登録されている銘柄は250のみである(1998年調べ)。
 長い間日の目を見なかったこの酒について、サトウキビ畑の土壌開拓から原料の育成法や醗酵、蒸留方法、そして熟成については、統一した意見・評価が確立されていなかった。こうしたことは自然発生的に生まれたあらゆる酒の常であり、管理やマーケティングのために規格化が問題になって初めてなされるものだ。アーティザンの定義が確立したのもまさにそうした流れに沿ったもので、州は産業のひとつとしてこれら家内蒸留所を援助し、かつ厳しい評価基準で高品質のカシャーサ産業を確立していこうと数々のassociation〔公益法人〕が立ち上がった結果である。
 図表2に示したさまざまな組合や連盟は、蒸留所をまとめ、製品の成分分析の後、レジスター(登録)し、消費者へ提供する役目を負う。組合/連盟のシールがはられている製品は消費者が安心して飲めるカシャーサというわけだ。また、サトウキビの品種選抜、 畑の土壌開拓、育成法や刈り取り、圧搾、醗酵の原料から方法、蒸留法、樽熟成に至るまでの過程をセミナーなどで教示している。
 そしてついに、彼らはカシャーサをたしなむグラスまでをも開発してしまった。これはうるさい流儀をとなえるテイスティング用グラスで、ミナスジェライス州カシャーサ共同組合(Coocachaca)の企画である。 デザインはヨーロッパ各地のワイン、コニャック、シャンパン生産地を訪ね、それら特有のグラスを参考に考案された。グラスの高さは一三センチ、全体的にふっくらとした丸みをもち、口もとはかなり絞ったフォル
ムをもつ。よいカシャーサに欠かせないロザリオ(気泡)を発生させ、ふちをゆっくりと液体が走る(lagrima)のを見るのに欠かせない太い胴。次に試すべきは香り立つアロマ(原料そのもののもつ香り)で、口に向かって切り立つ角度が立ち上るブーケ(醗酵や熟成の結果出てくる香り)に必要である。従来カシャーサを味わってきたグラスはアーティザン・カシャーサをたしなむにはまったくなじまない、と組合は発言している。
 テイスティングの能書きによれば、アーティザン・カシャーサはストレートでほんの少し、それも時間をかけてたしなむをよしとする。けっして浴びるように飲めとは言っていない。ショットグラスに50mlほどを注ぎ、ハードなミナス(ミナスジェライス)料理への食欲喚起とするのである。

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