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日本と海外の酒めぐり
スコットランド紀行
シングルモルトの旅 マッカラン蒸留所
徹底的に原料にこだわる贅沢な酒づくりで知られ、ハイランドきっての名門といわれるマッカラン蒸溜所。その事例から、酒づくりのさまざまな要素を取捨選択し、明確なイメージに結びつけていくブランドデザインについて考える。

忘れられた大麦品種 ゴールデンプロミス
ネス湖に近いインバネスから一時間ほど走った頃、ようやく車はクレイゲラヒー村のマッカラン蒸溜所に着いた。マッカランは、一九世紀にハイランド地区で二番目に政府登録蒸溜所となった老舗である。好事家のオークションには必ずといってよいほど同社のヴィンテージもののウイスキーが出品され、高級百貨店の 代名詞となっているハロッズは「ウイスキーのロールスロイス」と評する。
なだらかな丘陵を埋め尽くす大麦畑のなかにマッカラン蒸溜所はひっそりと建つ。入り口では「マッカラン ゴールデンプロミス(Golden Promise)」(写真1)と書かれたボードが目を惹く。ロゴがくっきりと浮かび上がるそれは、同社の原料へのこだわりを誇らしげに示すものだ。

スコットランドのモルトウイスキー蒸溜所は100箇所を超えるが、主原料の大麦品種へのこだわりは決して強くない。前回とりあげたグレンフィディックはスコットランド産の良質大麦と言うだけで、品種には言及しなかった。後に報告するアイラ島のボウモアとローランドのオーヘントッシャンでは、「マッカランはゴールデンプロミスに強いこだわりを持っていたが……」という問いに、「あれは古い品種だ。今、我々が使っているオプティック(Optic)やチャリス(Chariot)では410/トンの酒が採れるが、ゴールデンプロミスは400/トンしか採れない」と酒化率に着目したコメントしか聞かれなかった。契約栽培をしてまでこの品種に固執するマッカランは、異端といってもいいだろう。

栽培技術の進歩とともに移ろう品種
ウイスキーが高級品として世界に広がろうとした時、製造技術面でふたつの大きな革新があった。
スコットランドでは、寒冷な気候でも生育する大麦はもっとも重要な穀物であった。古い遺跡から出土するものは六条大麦で、現在、ウイスキーやビール用に栽培されている二条大麦はごく近年導入されたもの。スコットランドの在来品種の代表はベアー(Bere)。これに限らずスコットランド産の大麦は製麦(麦芽にすること)しにくく、イングランド産の大麦との競争力はまったくなかった。

これを打破したのが1960年代はじめに開発されたゴールデンプロミスである。イングランド産に負けない製麦適性をもっていたことと、この品種の将来性に目を付けスコットランドで製麦業を起業した事業家たちの活躍によって、1970年代にかけて広く栽培されるようになった。
このようにイギリスでの大麦品種の改良と栽培技術の進歩は目覚しい成果をあげた。1900年頃には収量は二トン/ヘクタールに過ぎなかったが、現在は5トン以上になっている(「稲富博士のスコッチノート」より)。
おそらく、こうした技術革新はウイスキーに限ったものではない。ワインのぶどうでも、清酒の米でも、収量のアップと酒造適性の向上に大勢の人々の知恵と力が傾けられ、今日の酒造業の礎となっているはずだ。
マッカランがゴールデンプロミスという品種にこだわりつづけていることに、ことさらに高い評価を与えようというわけではない。新しい品種を使った蒸溜所にも、飲み手を感動させるウイスキーはたくさんある。多くのシングルモルトメーカーが伝統的な製法へのこだわりを主張するなかで、マッカランは原料の大麦品種に着目しているというだけのことだ。最終的には同社が紡ぎだす酒づくりのストーリーと、酒そのものの味わいがどれだけフィットしているかを、飲み手は評価する。

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