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日本と海外の酒めぐり
スコットランド紀行
シングルモルトの旅 ボウモア蒸留所
シングルモルトウイスキーのなかでも強い個性をもった産地として知られるアイラ島。佐渡島ほどの広さのこの島にはおよそ3500人が暮らし、七つのモルトウイスキー蒸溜所が稼動している。一八世紀末に創業したアイラ島でもっとも古いボウモア蒸溜所を訪ね、風土とともにあるその魅力を探る。

潮風とピートの島
地図 スコットランドは一日にすべての天気があるといわれるほど天候が変わりやすい。雲ひとつなく晴れていたのに突然雨が落ちはじめ、あがったと思うと強い風が吹き出す。アイラ島も例外ではなく、さらに一年を通じて強い潮風が島を吹き抜ける。
島には、いたるところにピート湿原があり、樹木はほとんどない。厳しい気候のなかで数千年にわたって蓄積された厚いピート層が表土を覆っている。ピートは湿原に生育するコケ類や葦などが堆積し炭化したもの。堆積速度は100年で数b 程度という。
人々は春から夏にかけてピートを切り出し、冬場の燃料として利用する。ピートは特有の形をしたカッターで長さ10b ほどの10b角の直方体に切り取られる。まるで羊羹のお化けのようだ。これを天日で干し、ある程度固まったところで井形に組み上げてさらに乾燥させる。ピートはウイスキーづくりに使われるだけでなく、アイラ島の人々の生活になくてはならないものなのである。
島の主な産業は漁業とウイスキー産業と若干の観光業。農業は牧畜で潮の香りの草を食んで育った牛と羊が名物。あまりに厳しい条件であるため大麦の栽培は難しく、ウイスキーづくりの大麦は本島から運んでくる。ボウモアでは一時期、島での大麦づくりに取り組んだが、たくさんの肥料を使わなければ良質のものが育たず、採算がとれないため断念したという。
アイラ島のウイスキーはスモーキーかつピーティーなのが特徴。潮の香りがするともいわれる。七つの蒸溜所はみな海に面して要塞のように建つ。

自家製麦を続ける蒸溜所
写真1 ボウモア蒸溜所は島の中心部ボウモア地区にある。輸出に貢献した企業として1996年から三年連続クィーンズ・アウォードで表彰された。エリザベス女王も訪れたことがあり、その時に献上したウイスキーは女王の即 位50周年を記念して今年ボトリングされた。味わいは、クセの強いアイラ島のモルトの中では中間に位置するバランスのよいタイプ。
同社のウイスキーづくりの特徴は、フロアモルティングという伝統的な麦芽づくりをいまも自社でおこなっていることがあげられる。スコットランド本島の大麦を、アイラ島を流れるラガン川の水に一二時間ずつ三回浸す。すると大麦の水分含有率は四五%ほどになり、発芽酵素が活性化する。ピート層をくぐり抜けたラガン川の水は、ヨードに染まり薄い紅茶のような色。ボウモアでは麦芽づくりと仕込み水にこの水を使っている。
水分をたっぷりと含んだ大麦は、モルティングルームの床一面に10b ほどの厚さで広げられる。温度を16度〜20度にコントロールして、四時間おきにスコップで攪拌して空気を吸わせる。発芽してからは、芽が絡まないように鋤のような道具を時々通していく。すべて手作業であり、従業員は八時間勤務の三交代制で作業にあたる。こうした作業は、繊細さは感じられないものの清酒の麹づくりにちょっと似た印象を受ける。
100を超えるモルトウイスキーの蒸溜所で、現在も自社で麦芽を作っているのはほんの数社だけだ。ほとんどが麦芽の専門メーカーから購入しており、この工程は外部化されている。これは清酒の共同精米に例えられるかもしれない。 マクファーソン工場長は、自社で麦芽づくりを続ける理由を三つあげる。ひとつはコストが安いこと。既存の設備が整っており、この工程を織り込んだ勤務シフトが滞りなく動いているから、外部から購入するよりも総コストが低いという。二つめは環境面でエネルギー効率がよいこと。蒸溜の余熱を利用することで、エネルギーの無駄をなくす。ちなみに蒸溜所の隣には余熱を利用した写真2室内プールがあり、島民に広く利用されている。三つめは際立ったイメージをつくれることだ。
自社製の麦芽が最終製品に与える影響を聞くと、工場長は「そんなものはないよ。ウチの麦芽だけでは足りなくて外から買った麦芽も使っているが、どっちもいい酒ができる」とあっけらかんと答える。

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