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日本と海外の酒めぐり
スコットランド紀行

シングルモルトの旅 グレンフィディック
技術選択の機微
現在のアイリッシュウイスキーの特徴は以下のような点があげられる。
第一に、麦芽の乾燥にピートを使用しない点である。そのため酒にまったく燻香がない。スコットランド同様にピートがふんだんにあるにもかかわらず、アイルランドでは石炭が使われた。その伝統がいまも続いている。
第二は三回蒸溜。蒸溜を三回繰り返すことで、クリーンなタイプのウイスキーを得る伝統的なスタイルである。
第三はポットスティルの大きさが、スコッチに比べて大きいことである。この理由についてはすでに述べた。
第四に原料に発芽していない穀物を使用することである。麦芽のほかに大麦や小麦を加えて発酵させる。スコットランドと異なりかつて麦芽に税金がかかったため、その使用を抑え他の穀物を採用したことが、結果としてアイリッシュウイスキーの味わいを特徴づけることになった。
意外なことは、同じアイルランド人のコフィが開発した連続式蒸溜機に、この国のウイスキー業者たちが反発したことである。アイルランドは、蒸溜釜を大型化することで生産効率を高め、蒸溜を繰り返すことで純度の高いニューポットを得るスタイルをもっていた。にもかかわらず、より生産性の高い連続式蒸溜機を受け容れなかった。

一方、スコットランドのローランド地方は、他地域よりも不利な税制に苦しんでいた。酒税が蒸溜釜の容積に応じてかけられたことを逆手にとり、蒸溜釜の底面積を広げ底を浅くして蒸溜速度を上げていた。そうやって量産化を図り、苦境をしのいでいたのであった。 しかし、この手法は酒の収量は増えるものの、質は低下し消費者の不評をかう。さまざまな蒸溜器の改善がなされ、ついに連続式蒸溜機に出会うのである。
以後、ローランドはブレンデッドスコッチの拠点として隆盛を極め、アイリッシュウイスキーは1900年をピークに長く低迷する。その後、アイリッシュウイスキーは連続式蒸溜によるウイスキーも使用するようになり、1960年代以降企業統合を一段と進めて合理化を図る。さらに原料にコーンを用いるようになるなど、さまざまな策を講じつつ今日に至っている。

次世紀を眺めた酒のあり方
今回のレポートを含めて四カ所のシングルモルト蒸溜所を紹介してきた。初回のグレンフィディック蒸溜所ではブレンデッドウイスキーが主流をなすなかで、伝統製法を選択しシングルモルトというコンセプトを打ち出したことを中心にまとめた。マッカラン蒸溜所では「ゴージャスなシングルモルト」というコンセプトに即した選択と表現をレポートした。アイラ島のボウモア蒸溜所ではテロワールに焦点を当て、ブランド訴求とその結びつきに触れた。そして今回は、技術革新の取捨選択が、制度や競争関係によって相当に規定されることを垣間見ることとなった。
これらに共通するキイワードは「選択」である。身近に「あるもの」や容易に「できること」によって、酒のかたちが決まるのではない。主体的に考え判断するところで、それらが決まる。このことは製造に限らず、コミュニケーションや販売手法まで規定し、さらに組織やさまざまな管理手法にも影響する。
酒類の消費が停滞した時に、酒の自己規定に関心が向けられるのは常である。難しいことだが、これからの100年を見据えるつもりで議論しなければならない。いま、日本の酒はまさにこの渦中にある。


月刊酒文化(2003年1月号)

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