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日本と海外の酒めぐり
悠久の「時」シルクロードの町で
悠久の「時」シルクロードの町で  
オアシスの町・カシュガル
 「やりますか。もう一杯」……。そういって僕はかたわらの相棒に促す。隣に座る雪焼けで真っ黒な顔をした相棒に異論のあるはずはない。「一本ちょうだい」。ぐいと飲み干すゼスチャーをすれば、心得たようにウイグル族の青年が、ちょうど日本のワンカップの日本酒ほどの大きさのコーリャン酒の新しいビンを粗末なテーブルの上に置いてくれる。
 少々、ろれつがおかしくなってきた。こうやってもう何本空けただろうか。火照ったほおに夜気が心地よい。かすかな風にポプラの葉ずれの音が頭上から聴こえる。
 ここは、中国側シルクロードのオアシス都市・カシュガルの夜店である。道の両側に屋台がずらりと並んでいる。シシカバブーを焼く煙と香ばしい香りが路上に満ちあふれている。羊の頭やニワトリの丸焼きをそのまま吊るした屋台もある。シシカバブーとは、長い鉄製の平串に羊の肉を刺して焼いた日本の焼き鳥に似たようなものである。
 冬には、大地も凍りつくような厳寒の地の短い束の間の夏。その夏をいと惜しむかのように屋台や路上は人々のさんざめきでゆらいでいる。


なぜ、ここにいるのだろうか。我々はこのオアシス都市にもう一〇日近く逗留しているのだ。
 昨年夏、「スキーDEサミット隊」というけったいな遠征隊が中国・シルクロードにそびえる高峰ムスターグ・アタ(七五四六メートル)に登頂した。平均年齢はおよそ五〇歳という中年登山隊。出身母体も職業もまったく異なった七人の男たちが日本各地から集まった。この計画の立案推進者の隊長・冨岡一郎(「酒文化の」会員)は青果商社社長で当時五六歳。脳外科医、地質コンサルタント、大学教授、エンジニア、
ジャーナリストら七人のメンバーだ。アメリカの超ビジネスエリート二人が、中年になってから登山を始め、世界七大陸の最高峰を征服してしまったことに心をいたく動かされた。その様子は『セブン・サミッツ』(日本では講談社から翻訳が刊行されている)に詳しい。我々はこのビジネスエリートとは異なり、学生時代からヒマラヤに憧憬し、ある者は過激な登山をしてきたが、再びその血が騒いだのである。
 パキスタンのイスラマバードを発った遠征隊は濁流が渦巻く大インダスの源流をたどり、カラコルムの荒涼とした岩と半砂漠の風景を抜け、中国国境の四五〇〇メートルの峠を通ってムスターグ・アタにたどりついたのだ。コンロン山脈の西端、パミール高原とタクラマカン砂漠の間にそびえるこの高峰に登頂した我々は、帰路カシュガルに着き、飛行便の関係から長い滞在を余儀なくされたのである。
 しかし、旧ソ連国境に近い新彊ウイグル自治区にあるこの街は、「生きることについて」、「死ぬることについて」、「遊びについて」、「幸せについて」、そして「酒について」、つまり大げさに哲学的にいえば、人生を巡る諸問題についての命題を我々に突きつけてくれたのである。
  かつてシルクロードの交易の中心として栄えたこの街に住む民族は大半がウイグル族だが他にもタジクキルギスなど一〇を越える民族が混住しているあの強烈なイスラムの世界でもある。レンガと土づくりの家日曜日に開かれる朝市は近隣の村々から集まった人たちで賑わう。ロバや馬車に野菜やスイカメロン、ハミウリを満載した農民たちが行き交い、日用雑貨を並べた店が活気をかもし出している。原色の服をまとった女たちは、彫りが深く美しい。東西の民族の融合のおかげで混血の美人が生まれたのだろう。

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