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ヴェトナムに探る酒文化
ヴェトナムに探る酒文化  
米の焼酎と漢方リキュール
 ビアホイと並んでホーチミン市で最近めっきり少なくなった酒が焼酎(日本の規格ではスピリッツ)です。それもポリタンクで量り売りする焼酎。かつてはもっとも安価な酒として、大量に飲まれていたと言います。郊外にはまだあるというので出かけてみました。
 ミィェン郡の集落はホーチミン市から一時間半。焼酎屋の小屋が点在し、ポリ製のタンクやボトルに詰められていろいろな酒が並んでいました。どれもみな自家製です。
 もっともポピュラーなものはネプチャンという糯米(もちごめ)でつくる透明な焼酎。アルコール度数四五度のものが一リットルで七〇円です。製法は、糯米を蒸し、冷ましてから麹を混ぜ込み、すぐに水を加えてポリバケツに一気に仕込むいわゆる「どんぶり仕込み」です。四日間ほど発酵させて、腰の高さほどしかない小さな蒸溜器で二時間かけて蒸溜します。これで七キログラムの米と二〇リットルの水から、五〜六リットルの焼酎がとれます。
 焼酎の製法は地域や家々で大分変わるようでした。中部高原地帯にあるコンツムの雑貨店が自家製造していた焼酎は、蒸した粳米(うるちまい)に麹を混ぜ込んでビニールシートにくるんで三日間置き、甘酒にしてから水を加えてアルコール発酵(三日間)させていました。アルコール度数と収量はネプチャンとほぼ同じです。一五歳で両親から焼酎づくりを教えられ、三〇年も焼酎をつくっているというトゥーさんは、「儲からないから最近はやる人がいないのよ」と言います。ちなみに途中でできる甘酒はおやつとして食べられているほか、寄生虫除けにいいと言われているそうです。
 焼酎屋の店頭にはほかに赤と白の濁酒がありました。赤い酒はネプタンと言い、赤米で仕込んだ醪に焼酎を加えて発酵を止めたものです。白い酒はネプスーワァで白米でつくったものです。味醂とよく似た製法ですが、温暖なヴェトナムでは醸造酒の保存性を高めるために焼酎を加えるようになったのかもしれません。そのほか乾燥したバナナや漢方薬、あるいは蛇を漬けたリキュールがありました。
 これらの酒は、飲食店でも広く飲まれています。前述のハノイのビアホイにもありましたし、ホーチミン市の犬肉料理の酒場では、ジュースやミネラルウォーターの空き瓶に量り分けて、提供されていました。

蒸溜器 売ってます!
 ところで焼酎を自家製造する時に使う麹はどこで入手しているのでしょうか。日本では麹づくりは早くから酒造業者の手を離れ、専業の種麹屋が成立しています。麹は味噌や醤油など酒以外にもさまざまな用途がありますし、製造に手間暇がかかるからでしょう。
 ミィェン郡の焼酎屋で聞くと、「専門の業者から買っているが、ホーチミン市内のチョロン市場にもある」と言います。チョロンは中国人街で、ひときわ大きな市場があります。市場を彷徨うこと二〇分、三〇〇〇軒あるチョロン市場に麹屋はわずか三軒、迷路のような市場では容易にはたどり着けません。ようやく探し当てた店には、さまざまな麹が所狭しと並んでいました。麹は、地域によって素材、形、大きさが違うのだそうで、一袋三〇円〜七〇円まで値段もさまざまです。焼酎などの酒づくりをする人のほか、お菓子をつくるために買っていきます。
 蒸溜器も普通に売られていました。中部高原の中心都市プレイクの板金屋ではブリキでできた蒸溜器を見かけました。一年間に二〇台くらい売れるそうで、買い手のほとんどはプロ。つくるのに一日かかってしまうから安くないよと言いますが、お値段は七〇万ドン(約五〇〇〇円)です。ハノイの金物屋街でも蒸溜器や蛇管があちこちで並んでいました。
 このようにヴェトナムには酒の自家製造が広く残っているのを見ることができます。一九〇二年にフランスが自家製造を禁止し、フランス企業がアルコールの製造販売を独占しますが、「酒は自分達でつくるもの」という伝統文化は根強く、したたかに続いているのでした。

写真提供『週刊新潮』撮影:本田武士

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