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酒と水と料理と      光岡明
酒はバランスである。そしてそのバランスをとり易くするのが水だ、と思っている。
酒(あらゆる酒を言っているが、さしあたり私の頭にあるのは日本酒である)には味、香り、のどごし、後味など、その善し悪しを言う条件はさまざまだろうが、どれか一つが突出せず、全体が均衡がとれておれば、大抵の場合通用すると思う。例えば魚料理、肉料理という最大の料理区分や、食前、食中、食後という時間区分を乗り越えて通用する酒にはバランスがある。あるいは料理区分や時間区分に従って微妙に移動するバランス点があると言ってもよい。
私は酒大会に典型的に見られる酒だけの善し悪しを言うやり方に賛成でない。さしあたっての規準点の発見ということでは意味があろうが、酒は料理とともにあるのだから、酒だけを論じても、あるいは酒だけに責任を負わせてはいけないのではないか、と常々思っている。いまは技術の発展と吟醸酒の普及で、日本全国どこの酒も風味が似てきたが、それでもその土地土地の料理とそして水の違いが僅かの差を生んでいる。その典型が沖縄の泡盛ではないか。泡盛は沖縄料理なしでは語れないし飲めないだろう。
またこれだけ科学技術、醸造技術が進歩したのに、蒸溜水で酒を作ろうとする醸造元がないのも驚くべきことである。蒸溜水だったら味や香りも自由自在だろうにと思うのが素人なのであろう。
私が住む熊本は阿蘇山に養われた地下水の宝庫である。特に熊本市民六七万人は100%地下水水道に頼り、周辺に進出したI T 工場、ビール工場も同じようだ。熊本酒造研究所が析出した協会九号酵母とあいまって、ナチュラル・ミネラル・ウォーターを使う熊本の酒は高品質を誇る。なにが溶けているかいわく言いがたしだからこそ、酒の風味もいわく言いがたし、となるのではないか。酒と水と料理は風土そのものである。

【プロフィール】
光岡 明(みつおかあきら)
作家。一九三二年熊本県生まれ。
1955年熊本日日新聞社入社。1975年『卵』を第一作として小説を書き始める。著書には『機雷』『柳川の水よ、よみがえれ』(講談社)等




月刊酒文化(2004年3月号)

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