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福光屋 石川

四〇年経って日本酒業界に戦後が来た
福光屋が全国の地酒愛好家に名前を知られるようになる最初のきっかけは、昭和六一年に行った全量本醸造化であろう。日本酒の原料は、もともとは、米、米麹、水だけであった。それが戦前から戦後にかけての米不足から、使用する米を増やさずに製造量を増やすために原料アルコールや糖類を添加する方法が
開発された。一般に三倍増醸酒と言われているものである。これに対して、アルコールだけを添加したものはアル添酒と呼ばれる。本醸造は、このアルコールの使用量を少量に制限したものと理解しておけば間違いない。そして、一切アルコールを使用しないものが純米酒である。
今でこそ、宮城の「一ノ蔵」をはじめある程度の規模がある全量本醸造以上の蔵は複数存在しているが、福光屋が全量を本醸造以上に切り替えた頃には、ごく小規模の蔵元を除いては例がなかった。なぜならば、規模の大きい蔵は地元で毎日飲まれているお酒を製造販売しているわけであり、全量を本醸造にするということは、コスト的に不可能と思われていたからだ。
このあたりの事情について福光社長は、「単純に言えば昔に戻しただけのことです。江戸時代から一部に柱焼酎というも のがありまして、日本酒にアルコールを加えていた。この時の焼酎の添加量を秋山先生(醸造研究所元所長)に調べて頂いたところ、白米の四分の一とかでまあ今の本醸造の規格に近いだから本醸造までは歴史的な酒の造り方と言えるだろうと。それ以上の増量は、戦後の米不足による緊急避難的な政策だったのだからなるべく早くやめるべきだと思った。たまたま当社の場合は、父の代からアルコール添加量を減らしてきていたからスムーズに取り組めた。それと日本酒の級別廃止と特定名称酒というカテゴリーが生まれたことも決断を後押ししたわけです」と淡々と語る。しかし全国に先駆けてこのような決断ができた背景には、いくつかの条件があった。
ひとつは、高品質の酒米をふんだんに確保できるか、ということである。同社では、昭和三五年から、兵庫県多可郡中町の坂本地区とその町で採れた山田錦を全量買いつける契約栽培を行っている。他にも昭和六〇年頃から長野県木島平の金紋錦兵庫県出石のフクノハナといった希少な酒米銘柄の全量購入契約を結び、平成に入ってからも富山県福光町の五百万石を地域の農家との直接契約によって解決している。
さらに、全量本醸造化をこのタイミングで行う必然性もあった。杜氏と蔵人がやってきて酒を造れる最後の時代に近づいていたからである。将来のために若い社員が、ベテランの蔵人や杜氏から技術やノウハウを受けぐ必要があった。
「杜氏には少し失礼な言い方ですが、ベテランの人も本当の酒造りを忘れかけていただろうと思ったわけです。アル添にするということは、概念的には杜氏が米から造ったお酒が三分の一しか商品に含まれていないということです。本醸造にするということは、杜氏が造ったお酒がかなりそのまま口に入ることになる。お化粧でいうと素顔が美しい、つまりごまかしがきかなくなる。
同時に純米や吟醸を造る量もかなり増やしましたので、三シーズンくらい蔵の中は大騒ぎでした。その中で、杜氏もいろいろなことを思い出してくれて伝統的な技法のよい面、残さなければいけない面がはっきりしたのです。そのプロセスを経て社員蔵人を育てていけたのがよかった。今は社員の製造部員が三〇人くらいで、杜氏以外は頭まで社員です。うちとしてはこのときが日本酒ビッグバンでした」
しかし、レギュラー酒を本醸造にするということは、酒のコストにも相当影響が出る。レギュラー酒を値上げすることは競争上不可能であるし、そのあたりはどのように解決したのであろうか。
「酒造りのコストは酒の中身だけではありません。その他の会社の細かい無駄や仕組みを見直し、削減していけば十分吸収できることだと思った。
酒造りは正直なもので中身を贅沢なものにすればおいしいものができる。そうすれば将来に夢が生まれる。逆にその場をごまかそうとコストを削った酒造りをすれば、将来性のない会社になってしまう。中身にお金をかける代わりに、リベートもなくしたし、販促費もうんと減らした。そういう仕組みにしたわけですよ。
また、市場ではお客様の知識や味覚が高度化してきた。以前の酔えばよいという時代から明らかに味わいを楽しむというお客様が増えてきたので、中身にお金をかけてよい酒を造れば必ず支持してくれると確信できたのです。それに売る方も造る方も自信のあるものを扱う方が楽しいことですしね。
だからこういう方向に行くのは、誰が考えてもあたり前のことで、新しいことでも何でもなかったのです」

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