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福光屋 石川

贅沢な酒造りとは
福光社長の考える贅沢な酒造りとは、よいお米を使う、将来のためにいろんな酒を造って研究開発をする、造った酒を長期熟成させて味を深めるという三種類の方向である。そして新商品開発も、味を一層深めていく方向(同社の場合は長期熟成の要素が大きく何の表示がなくても、五年モノや三年モノの古酒をブレンドしている場合があるという)と、全く新しいお客様に飲んでいただこうという方向の両方を進めている。このうち特に大事になってきているのが、新しいお客様向けの開発だという。
「今の日本酒全体の需要が伸びないのは、供給される酒のアルコール度数が高すぎるから。あの度数ではガブガブ飲めない。一五度が基準度数になったのは戦後のことで、戦前の日本酒は一二〜一四度くらいだった。江戸時代に一番飲まれていたのは、八度くらいの酒だった。
たまたま、戦後の一時期に強い酒がよい酒だということもあったが、今の生活は、運動もあまりしないし、そんなに高いアルコールのものを飲みたいわけがない。そして忙しいから、翌日にさしさわりがあるほど酔いたくもない。低い度数でおいしいものを造るのが大命題で、そのためには酸味がもっと必要となる。
水で割ってもおいしい酸味の効いた酒というのは、実は戦前の酒のタイプに共通する。戦前は純米酒で、各蔵元が個性的な蔵つき酵母を使っていた。今は全部醸造協会で純粋培養されたあまり酸の出ない酵母を使っている。というのは、戦後の国税2000年庁醸造試験所の指導方法は簡単に言うと腐造しない酒造りが主眼だったからです。そのためには、あまり酸が出ない酵母が求められる。級別制度で統制され
ているうちに酵母もみんな同じタイプになってしまった。
同時に、戦後の酒造りの世界では酸が出るのは恥だと教えられてきたから、杜氏が意識改革をすることも必要になる。現在では当時の管理レベルと格段の開きがありますから、腐造の心配は殆どありません。戦前のよい部分もそろそろ見直す時期に
来ている。
戦前よりもさわやかな酸味。くどくなくてきれいでおいしい酒。これでアルコールが一二〜一四度になれば需要構造は全く変わると思っている。業界の大勢が度数を下げていくことに興味を示さないから不思議でしょうがない」
これは、本年六月から日本酒造組合中央会という日本酒メーカーの業界団体の需要開発委員長に就任した福光社長の偽らざる本音であろう。
実際に、石川県の場合は上撰レギュラー酒のアルコール度数は一四度に下がっている。日本酒以外の酒類全体の趨勢を見ても、これからはそんなに高い度数の酒は売れなくなるだろう。そこでおいしい日本酒を造るには、必ず好ましい酸味がないとできないというのが福光社長の考え方だ。

「伝統は革新の連続だ」
しかし、伝統的で極めて保守的な体質の中で、同社が新しいことに挑戦し続けるのは、なぜであろうか。
同社の家訓には、「伝統は革新の連続だ」という言葉がある。受け継いだ者は、先代が造った商品を自分の代で全部一度見直すことが求められる。実際に福光社長の父は祖父の代の商品を最終的には全部変えている。福光社長自身は逆に祖父の代に戻るというか、マルチブランド政策つまり品質毎にブランドを変えるという政策の方に大きく踏み込んでいる。
「今は、ひとつのブランドではお客様にこちらの考えやイメージを伝えきれない。商品それぞれのコンセプトに沿ってブランドの顔を作り、物語を作り、流通も作る。そこまでやらないと伝えきれない。例えば、『黒帯』は昭和五一年に金沢市内の高級料亭、割烹用に開発した商品です。
当社が『黒帯』を全国にリリースした平成四年は、第一次地酒ブームが終わったなと思ったときです。大吟醸ばかりがいいという風潮が少しあきられはじめて、それよりももっと日常の贅沢、ちょっと頑張れば毎日飲める珍しいお酒を探している人が多くなった。そこでは、長期熟成酒を主体にブレンドした『黒帯』のような急に量産できないお酒は、味の評価も高く評判がよかった」
福光屋が熟成酒に取り組み始めたのは昭和三五年である。初めは吟醸酒の熟成から始めた。その後本醸造も熟成させるようになり、温度帯別の熟成の変化についても様々な経験を深め、集大成が長期熟成酒「百々登勢シリーズに結実している。しかし、この古酒にしても別に目新しいことではないと言う。
「古酒は江戸時代から珍重されていたのです。明治になってから減ってしまったのは、酒に掛かる税金が造石税(造った量に応じて税金を支払う方式)になったことの影響が大きい」
現在は蔵出し税(メーカーが出荷する数量に応じて税金を支払う方式)に変更されたが、当時の税体系では、熟成酒を造るということは、経営的には極めて厳しいものであったに違いない。世界中を見ても、ワインの魅力は熟成にあるし、醸造酒にとって熟成させることは有意義なことは間違いない。今年新発売された「黒帯・秘蔵熟辛」は特別本醸造を五年間熟成させたものだという。
個性的なお酒を造るのに、熟成と酵母が決め手になっていること、また、将来のためにいろいろな酒造りを試してみることは大変時間とコストがかかることである。そのあたりはどのように考えているのであろうか。
同社では、ビーカー仕込みと酵母バンクという方式を採用している。ビーカー仕込みとは、酒造りを現実の五〇〇〇分の一に縮めて六〇〇gのビーカーで行う方式だ。小さくても、実際の手順は全く同じ。
始めの頃は、なかなかうまく造れず、いろいろ考えた結果、撹拌するときのスピードが五〇〇〇分の一になっていないことが原因と突き止め、スローモーションのようなスピードでかき混ぜたところうまく行くようになったという逸話もある。今年発売した低アルコールの「つぼみ」の場合は、ここで三〇〇回以上の試験醸造の結果生み出さ
れたものである。そもそもは、個性的な酵母の培養のために始めたこの仕込みであるが、今では、新しい麹、米、仕込みなどあらゆる新製品開発の第一歩がここから始まるらしい。これは、リスクを減らしスピードを速めるために大変効果を上げている。
酵母も現在では福光屋オリジナルの酵母が二〇〇種類以上、マイナス八〇度の酵母バンクの中で眠っている。

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