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酒所越後での顧客満足を追求した挑戦
先代の蒔いた種を形に
写真 「いまの仕事のほとんどは、親父が種を蒔いたもの」だと松本社長は言う。
本社長は言う。隣接する越路町などの篤農家に呼びかけ、酒造好適米「雄町」の契約栽培を始めたのは13年ほど前。この米を使った大吟醸「美の川越の雄町」は、長岡周辺に限られていた同社の県内市場を、一気に拡大するきっかけとなった。
華やかで個性が強いといわれるが、逆にいえば新潟産の雄町は、同社の得意とする華やかさを抑えたコクのある辛口に適しているともいうことができる。
「美の川越の雄町」は昭和63年春、全国新酒鑑評会で金賞を受賞するなど、高い評価を受けた。
また、尾瀬への新潟県側からの入り口にあたる荒澤岳の湧き水を使った本醸造酒「荒澤岳」に、同山の環境保護や整備を目的とした寄付を組み合わせるアイデアも、もともとは松本会長が考えだしたものだ。会長自身は登山をしないが、地元の山好きの集まりである「やまぼうしの会」とは古い付き合い。その友人たちから、奥只見銀山平に湧き出る、荒澤岳の伏流水がいい水だという話を聞いたのは、平成10年のことである。この水で酒を造ったら、おもしろい。思いたったら即実行の松本会長が、銀山平まで水を汲みに行ったのは12月の末だった。
「大雪のなかを何しにいくんだ、と思ったのを覚えています」(松本社長)
案の定雪で行く手を阻まれ、雪上車にドラム缶を積んだそりを引かせて、やっと戻ってきたという。
だが、そうした苦労のかいあって、「ふくらみがあり、ストンと切れるいままでになかった水」(松本社長)が、同社のこれまでの酒にない軽さを生み出した。
そして「荒澤岳」の生みの親である大自然を守るため、売上の一部を充てることを計画。この酒を販売する「荒澤岳の自然を守る販売店会」42店と同社とが協力して、基金を積み立ててきたのである。昨年5月には、それまでの積立金30万円を、荒澤岳のある北魚沼郡湯之谷村に寄付し、この資金は登山道の整備に使われたという。この酒はそんな経緯もあって日本山岳会などにも注目され、同社の名を全国に広めるのにも一役買っている。
また今年秋から、地元の宅配業者とタイアップして本格的に販売する予定の「酒蔵の甘酒」も、会長の試行錯誤が実を結んだものである。こうして、先代の仕込んだ仕事をつぎつぎと実現しながら、松本社長は少しずつ新しいカラーを出しはじめている。
「いま清酒は、業界自体が苦境に立たされていますが、苦境だからこそおもしろいともいえます。最近では、いろいろと仕掛けるのが好きになってきました。これは、親父に似たんでしょうね(笑)」(松本社長)
たとえば、酒販店の若手店主からのこんな素朴な疑問があった。「どうして、大吟醸は自動圧搾機ではなくて、袋吊りで搾るんだ。どう違うんだ?」、ではやってみようというわけで、松本社長は「大吟の仕込みで忙しい時になんでそんな面倒なことを」という杜氏を口説き落とし、本醸造生酒を袋吊りで搾ってみた。
やはり違う。自動圧搾機にかけたものは、ちりちりと炭酸の鋭さが残るのに比べ、袋吊りで搾ったものは丸みがある。酒販店の若手にとっても、松本社長自身にとっても、実際に飲み比べて納得できたのは大きな収穫だった。
また同社では最近、何軒かの酒販店と組んで、720ml以下の空きビンのリサイクルも手がけはじめた。これまでカレットにして、有償で引き取ってもらったものを、無償で引き取って再使用するという事業だ。
もちろん、各メーカーのビンが集まってくるため、同社では使えないものもある。そうしたものは、一足早くこの事業をはじめていた新発田市の菊水酒造との提携で、お互いに使えるビンを交換するシステムである。
確かに手間はかかるが、ビン詰め作業の手が空いた時にまとめて洗浄するというかたちなら、現場にもそれほどの負担にはならない。
いわば「荒澤岳」の精神を生かし、会社全体でエコロジーに取り組もうという方針の一環ともいえる。
酒づくりでも松本社長は、昨年から新しい試みをスタートさせた。そのきっかけは、県外の酒販店から「美の川の生酒には特徴がない」と言われたことである。そこで、純米吟醸「良寛」の生酒の無濾過化に挑戦。当初難色を示していた杜氏も、一晩考えた末にやってみようかと言ってくれ、「口に含んだ時、もう一段深みのある、甘く感じるようなコクが押してくる」(松本社長)新しい味わいが生まれた。
「私は、最終的にお客様が飲んでうまいと思う酒こそが、いちばん評価されるべきものだと思っています。確かに、いま無濾過が売れているから造ればいいというものではありませんが、新潟の蔵はいろんなことに挑戦しないところが多いようです。うちはやはり、挑戦したい。ただ、もう『新潟の酒』という大きなかたまりで販売戦略を立てるのは難しいと思っており、いくつかの蔵との連携で、顧客満足を追求していきたいと考えています」(松本社長)
淡麗辛口ファンは多く、その意味で多くの新潟の蔵がこの路線を追求しようとするのはわかる。だが、他県の蔵までも淡麗辛口に追随し、全国一律同じような味になってしまうのは願い下げだ。その意味でも、美の川の挑戦は貴重であり、成果に期待したい。

美の川酒造株式会社
新潟県長岡市宮原2-13-31
電話 0258(32)0607
FAX 0258(32)0515
お酒の四季報(2002年春号)

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