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黒牛 和歌山
地域にこだわる純米酒を目指して
また、高品質酒を販売するとなると市場も地元だけでは賄えなくなる。そのあたりは「現在では全国五〇〇店あまりの酒販店さんに直接販売しております。初めは、地方酒で有名な酒販店さんに片端から取引のお願いに行ったのですが、剣もほろろの状態でした。まあ、和歌山県は清酒イメージも希薄ですし、彼らは既に売りやすい有名銘柄の清酒をたくさん扱っていましたから、珍しさだけでは新規参入できるわけがなかったのですと大きな壁に突き当たったようだ。
「それからは、これから地酒を扱ってみようという若手の酒販店さんを中心に、こつこつとお取引先を増やしていったのです。 面白いことにある程度『黒牛』の名前が知られてくると、初めは断られたお店からも注文が入るようになってきました」

地元に対するこだわり
地元にこだわって純米酒を造っていく上でどうしてもほしかったのは、和歌山県で作った酒米である。地方の酒が目指す高品質の酒造りには三つの方向があると名手専務は言う。ひとつは、何としてでもうまい酒を造るという方向。彼はこれを銘酒路線という。この場合には、なるべく酒米も最高のもの、つまり兵庫県特A地区産の山田錦や幻の米を使い、最高水準の酒を造り蔵の評価を高めていく。
ふたつめは地元へのこだわりを最大限重視する方向。彼はこれを地酒路線と言う。清酒メーカーにとってはごく基本的なことであるが、所在地にこだわり地域への密着度を高めていくこと。この場合は、規模が小さく家族で酒造りまでやっているなどということも大きなセールスポイントになると考えられる。
三つめは、地域の環境や文化等との関係を強調するもので、彼はこれを支援・喚起路線と名付けた。少し前に流行った酒蔵トラストなどもこの考えの延長上にあるし、消費者参加の酒米作りや酒造りもそうだと考えている。
彼は、このうち、二番目の地酒路線を選んだ。だからますます地元産の米がほしくなったのだ。しかし、もともと和歌山では稲作があまり盛んではなかった。
「今大河ドラマでやっている『葵三代』に出てくる紀州徳川家は石高五五万石と言われていますが、和歌山県内では、二〇数万石しか米が採れず、残りは三重県内の領地からのものだったそうです。平野が少ないこと、果樹や野菜作りが盛んなこと、収穫時に台風が多いことなど原因はいろいろあるのでしょう。まして飯米よりも背が高く倒伏しやすい酒米作りは三〇年程前から途絶えていました」
そこで、ないのならば頼んで作ってもらおうということになった。こうして和歌山県では初めての酒米の契約栽培が平成二年に始まる。現在では、契約栽培農家は一〇軒で、酒米の中では比較的収穫時期が早いので台風の被害に遭いにくい美山錦を栽培し、その量は同社の使用する酒米の六%に達する。成功事例が出るとその後の展開は早い。和歌山でも酒米が作れるとわかると、徐々にその軒数は増え、契約先以外でも酒米を作る農家が登場し、五百万石・山田錦・日本晴といった全国銘柄も栽培されるようになった。
昨年の名手酒造店の酒造好適米調達先は、福井県(五百万石)五七%、兵庫県(山田錦)一七%についで、第三位に和歌山県(美山錦・日本晴・五百万石・山田錦)が一三%で入ってくる。この契約栽培米で造られたお酒は、純米吟醸「野路の菊」として販売されている。
収穫間近の栽培田を見学した。同社から車で一時間ほど山間部に入った清水村の田圃には、身の丈一mにもなろうとする美山錦が数日前の風雨に叩かれて、今にも倒れそうになりながら、ぎりぎりのところでこらえ、刈り取りを待っていた。手に取ってみるとずっしりと重い稲穂に、米作り・酒造りの素晴らしさを感じさせられた。
名手専務は元銀行マンということもあり、蔵の将来については冷静な見方をしていた。清酒業界全体が減少傾向の中で、名手酒造店の純米酒の評価は年々上がっており、販売量を増加している。しかしながら、もうそ ろそろ上限だという。
「これ以上たくさん造るということは、今の造りのシステムを根本から変える必要があります。今は、ようやく育ちつつある二人の若手技術者を本当に一人前にして、蔵の将来を万全のものにすることと、和歌山県の酒のイメージを上げることが大切なのです。いたずらに数量を追う 時代ではありません。当社は、これからも将来も、家庭で飲めるリーズナブルな価格帯の純米酒造りをメインにしていきたいと思います」

株式会社名手酒造店
和歌山県海南市黒江846
電話 073(482)0005
FAX 072(483)3456
お酒の四季報(2000年秋号)

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