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オーナー杜氏の誕生の軌跡
オーナーシェフがあるなら、オーナー杜氏があってもいい
−杜氏になられる時には、ためらいもあったのではないでしょうか。
「そりゃあ、ためらいましたよ。技術上の責任者を名乗るわけですし、杜氏といえば経験豊富な蔵人の長でもあります。ついさっきまでは月の輪の酒の味をまかせていたのを、自分で責任をもってつくるということになるのですから、迷わない方がおかしいでしょう。
その時、盛岡でたいへんユニークな酒場をいくつも経営されているチャーリー菊池さんという方がいまして、この人がこう言ってくれたんです。『フランスにはレストランの経営者でありながら、シェフとして自分が料理人としての腕を振るって、スリースターをもっている人がいます。こういうスタイルをオーナーシェフというんですが、料理人としては理想的でしょう。オーナーシェフがあるようにオーナー杜氏がいてもいいんじゃないですか』と。この一言で気持ちがさっぱりしまして、よしやろうという気持ちになりました」

通信講座で酒づくりを学び、実践で技を磨いた
−オーナー杜氏という言葉はなるほどわかりやすい言葉ですね。横沢さん以前にもこうしたオーナー杜氏というのはいらっしゃるのでしょうか。
「全国ですと随分いらっしゃるのではないでしょうか。お父さんが社長で子供が杜氏という会社はいくつかあるでしょうし、そういうところはいずれオーナー杜氏になられるでしょう。岩手県では南部美人さんがそうです。息子さんが東京農業大学を出て蔵に入っていまして、杜氏と名乗られるかどうかはわかりませんが、やがては酒づくりに精通したオーナーになられるのではないでしょうか。
経営に責任をもつものが酒づくりを杜氏まかせにせず、製造計画をもってこういう米でこういうものをつくれと現場に指示を出せるそういうオーナーが、どんどん出てくるんじゃないですか。
オーナー杜氏が増えてくると、お酒の世界が変わると思います。よくなると思います。個性的な酒が増えます。指示は出すが中身がわからないのが昔の親父像。オーナー杜氏は技術面もわかるわけですから、無理も言えませんが、すべてに合理的だと言えます。
それから杜氏になろうと決心させてくれた人がもう一人います。山形の酒蔵の「竹の露」の松野さんという方です。4000石くらいのお蔵で、やはり社長ご自身が杜氏をしておられるんです。お訪ねしてどんなふうにしているのか見せていただいて、自分でもやれるんじゃないかと自信を与えていただきました」
−新しい杜氏像として、市場の見えている杜氏、経営センスのある杜氏、というように聞こえたのですが、そう理解してよいのでしょうか。
「親父がいて杜氏がいて、離れたところの技術集団がいて、そういう体制で酒づくりをするというのはもう無理だ、というのがわたしの基本の考えなのです。大手メーカーさんのように研究所をもって技術をたくわえるということもできません。
ですから、京都の漬物屋さんのように伝統の技・伝統の味というものを、代々の当主がもって伝えていくというスタイルが、わたしどもの規模のメーカーに要求されているのだと思います。いい酒をつくるためにいい杜氏を探してくるという発想では、もう限界だと思います」

個性の豊かな酒が生まれる
−一言で社長兼杜氏といいますが、杜氏は酒づくりのすべてを見なければならないのに、社長業は営業もしなければならない。市場探索もかねてあちこちの勉強会にも出ることも必要でしょう。両立は相当にむずかしいように思いますが……。
「おっしゃるとおり、何から何まで関わらなければなりません。楽ではないですね。
杜氏というと、蔵に入ったら出てこないものだと思われていて、勉強会に出ていますとよく言われます。こんなところにいていいのか、と。もちろん外出していても帰ったら蔵を必ず見ます。しかし、きちんと設計して仕込んだものですし、しっかりした現場杜氏がいるわけですから心配はないのです」
−社長業は市場を見ますね。
そこで、市場性のある酒をつくろうとして、杜氏に相談をしながら着地点を探します。しかし、社長兼杜氏となるとまったく孤独で、市場性と自社の技術のすりあわせを一人でおこなわなければならない。
また、市場性にこだわれば大手メーカーの酒のような、万人向けの酒になるのではないでしょうか。
「社長と杜氏が別々ですと、社長が設計図を書いて杜氏がそれを実現するということになります。社長兼杜氏であれば自社の技術力が設計者の頭に入っているわけですから、理想的です。
現在は個性的なものを求める時代だと言われています。次から次に新しいもの珍しいものを求めます。そんじょそこらにないものがもてはやされるわけです。オーナー杜氏は、めずらしもの好きという時代の欲求にこたえていることになるのじゃないでしょうか。飲み手から見れば、オーナー杜氏は飲み手の求めている、ありきたりではない酒をつくってくれる意味でも理想だということです。
市場を見つめていれば大手メーカーと同じものをつくることになるのではないかという話ですが、10人が10人同じ物を求めるわけではありませんし、わたしは世間の流れの逆をいくということにしています」

横沢さんは眠っていた昔ながらの艚(ふね)を引き出してきた。昔ながらの搾りがしてみたかったという。
そこから生まれたのが『うすにごり』。世の中の逆をいったこの酒は評判がよいそうだ。市場を見つつも大手メーカーのように最大公約数を答えとするのではなく、まず個性を出すこと。そうでなければ存在感が出せない、というのが横沢さんの持論である。
個性を追求するオーナー杜氏がたくさん出ることで、横沢さんが語るように個性的な酒が増えてくるなら、売手にとっても飲み手にとっても日本酒の未来はうんと明るいものになるかもしれない。杜氏の高齢化が語られ、日本酒の未来が危惧されている今日、オーナー杜氏は酒づくりの未来形のひとつだといえるのではないだろうか。

月の輪酒造店
岩手県紫波郡紫波町高水寺字向畑101
電話 0196(72)2503
FAX 0196(76)5011
お酒の四季報(0997年冬号)

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