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瑞穂酒造
先代の古酒へのこだわりが生んだ地下貯蔵庫『天龍蔵』を訪ねる

古くから古酒にこだわる歴史ある酒蔵
 「クースー(古酒)ブーム」である。泡盛は蒸留酒の特徴で、熟成させると味が丸くなり上品な芳香を放つ。最近では首都圏や大阪でも泡盛を出す店が急増中だが、本土でも古酒の人気は高く、古酒の品揃えが店のこだわりの指標となっているほど。沖縄ではお土産として古酒を買い求める人が多い。一方、地元の沖縄ではどうなのか。沖縄でも古酒の人気は高いが、ここのところ高まっている古酒人気はどちらかというと本土の古酒ブームが拍車をかけているといっていい。
 沖縄で古酒といった場合、その意味は2種類あるようだ。ひとつは酒造所が長年寝かせた後に、出荷するもの。そしてもうひとつは新酒を買って個人が長年貯蔵したり、ブレンドしたりしてつくるオリジナル古酒だ。容器や貯蔵場所によっても味が変わるので、沖縄人は古酒づくりに情熱を燃やすのだ。しかし、このような古酒は祝い事や何かの折り目に飲む特別の酒として特別な意味を持ち、日常飲むのはもっぱら新酒である。現在のように多くの酒造所がさまざまな古酒を製品としてラインナップする現象は、10数年ほど前からのことらしい。泡盛メーカーが古酒販売に力を入れ始めたのも、比較的最近のことなのだ。
 そこで、古酒の話を聞くために、“古酒の瑞穂”と称され、古くから古酒にこだわってきた数少ない酒造所のひとつである瑞穂酒造を訪ねてみた。

琉球王朝の歴史を受け継ぐ首里三箇
 瑞穂酒造は、琉球王朝時代に泡盛造りを許された首里三箇のひとつである鳥越町で嘉永元年(1848年)に創業した首里で最も歴史のある酒造所である。首里三箇とは、首里城の東側にある鳥堀、崎山、赤田の三町のこと。琉球王朝時代、泡盛は大切な交易品であったため、「焼酎職(泡盛職)」と呼ばれる職人40戸だけに泡盛造りの資格を与え、監督がしやすいお膝元に集めて泡盛を造らせたという。また、三箇は盆地で水がよく、麹の発育にも適しているなど、泡盛造りに必要な気候条件も満たしていることもこの地で泡盛造りが栄えた理由だ。これらの酒屋のうち現在首里に存在するのは、瑞泉、識名、咲元、瑞穂の4社で、最も古いのが瑞穂酒造だ。戦後、現在、工場がある首里末吉町に新工場および地下貯蔵庫の「天龍蔵」を完成したが、鳥堀の旧工場は今でも貯蔵庫として残っている。
 工場は那覇市内から首里城方面に車で10分ほど、末吉公園の近くにある。正門に着くと右手奥の建物に天龍蔵の赤い文字が掲げてある。敷地内は植え込みや木もあって歴史のある酒蔵のイメージにピッタリ。事務所を訪ねると営業課長の玉那覇さんが心よく取材に対応してくださった。

昔の伝統を守る酒造り
 瑞穂酒造は昔ながらのくさみのある泡盛にこだわり、昔と同じ製造工程を守っているという。原料のタイ米を15時間水に浸漬し、蒸米する。蒸米は昔は木桶で行なったが、現在は回転ドラム式の蒸米機で1度に1トンを処理する。機械が2機あるので、同時に2トンの処理が可能だ。ドラム内で2時間蒸した後、1トンにつき100〜200グラムの黒麹を入れて混ぜ合わせる。この混ぜ合わせる工程は「マジン」といい、昔はニクブク(厚くて固めのムシロのような布)の上に蒸米を置き、手で行っていたというから大変だ。
 次に温度管理された製麹室に移され、約2日間寝かせて麹の熟成を待つ。この時の温度は一般的には35〜40℃といわれているが、質問したところ「企業秘密なのですみません」と教えていただけなかった。昔はこの温度管理も職人が手の感触で管理していたという。工場の壁は黒く煤けたように黒ずんでいる。これは空中に浮遊した黒麹菌が付着したもの、いわゆる「家菌」だ。これが各酒蔵で造られる泡盛の香りや風味を左右するといわれている。
 そして「仕込み」。できた麹に水と酵母菌を加えて桶に移して「もろみ」を作る。発酵が進むと泡が出て、液体の温度が上がる。発酵に必要な空気を送るために1日2回混ぜる。8日ほどで発酵が落ち着き、夏場は10日間、冬場で14日間程度で仕込みが終わる。
 熟成した「もろみ」を蒸留機に移し、蒸留すると黒麹と酵母の作り出す芳香を放ちつつ最初にアルコール度数約70度の「ハナ酒」が出てくる。出てくる酒は次第にアルコール度数が落ち、最終的には平均で約50度の原酒を得ることができる。これらの原種は最低でも半年寝かせてから出荷するのだそうだ。新酒といっても実は半年間寝ている酒なのである。さらに古酒として熟成される場合に貯蔵するのが次に案内された「天龍蔵」だ。

天から龍が舞い降りる天龍蔵
 先代の社長は古酒造りに情熱を傾け、貯蔵用の地下タンクを手掘りで完成させたという。そして、「この蔵に龍が舞い降り、泡盛のおいしさに心魅せられ、すべての酒を飲み干しながら、また天に舞い戻っていった」夢を何度も見たことから“天龍蔵”と名づけられた。
 沖縄には、半地下または地下の泡盛の貯蔵蔵がある家も少なくないという。そこに買ってきた甕入り、または瓶詰めの泡盛を貯蔵し、自分だけの古酒づくりを楽しんでいる人も多い。また、沖縄特有の石づくり(現在はコンクリート作り)の大きな墓に泡盛を貯蔵するのも一般的らしい。つまり、亜熱帯のこの地では一定の低温で貯蔵できる地下が古酒造りに適しているということが古くからの定説。先代もさまざまな思考の末に、巨大な地下貯蔵庫を作ることを決意したのだろう。
 現在、天龍蔵の地下槽は床の下、深さ2.5メートルで、いくつかの区画に漕が仕切られている。そのひとつひとつの槽に搬入口があり、別々に管理できるようになっている。ひとつの漕は2万リッター。約80p四方の正方形の蓋をずらすと、内部に透明な泡盛が並々とたたえられているのを見ることができる。ここで貯蔵されるのは3〜7年で、その後は甕に移され、さらに寝かせる。
 天龍蔵には地下貯蔵庫の他に大きな南蛮甕に貯蔵された泡盛が数多く並んでいる。この南蛮甕も先代社長が約30年前に、ミャンマーに泡盛のルーツを探る旅に出かけた際に仕入れてきたもの。上薬をかけない南蛮甕は壁面からの蒸散で、香気成分を濃縮させるため、最も熟成に適した容器として珍重されており、先代の古酒にかける情熱が伝わってくる。

ビジネスとしての古酒は7年が限界
 ひと通り案内していただいた後、自慢の泡盛を試飲させていただいた。製品のラインナップの中には時代に合わせた飲みやすいものもあるが、基本的には昔ながらのくさみのある泡盛にこだわっている。主力スタンダード商品は、古酒43度「ロイヤル瑞穂」、古酒25度「マイルド瑞穂」。
古酒特有の華やかな香りとマイルドでコクのある味だ。また、ここでは市場には出していない10年古酒も売っている。
 古酒について玉那覇さんは「15〜16年前は古酒をやっていたのは瑞泉と瑞穂しかありませんでした。最近は古酒ブームで古酒は出せば出すだけ売れる状況ですが、貯蔵にも限りがあります。これまで古酒に力を入れてきましたが、古酒の定義※も変わり、ビジネスとしては7年が限界と考えています」とのこと。古酒づくりは「仕次ぎ」※と呼ばれる伝統の方式がメインだったが、全量を同年数貯蔵しないと年数表示ができなくなり、より多くの酒を貯蔵する必要があるためだ。
 そんな古酒づくりの一方で、最近ではサントリーで古酒・本場泡盛「天龍蔵」を販売したり、8年前には台湾に工場を建設したり、新たなビジネスも展開している。台湾工場では台湾の米で泡盛を生産しており、甘い米なので甘い酒ができる。これは日本向けに逆輸入されている。

社長のみが知る古酒のありか
 戦前まで那覇の旧家や首里の酒蔵では100年以上前の古酒がたくさん保存されていたというが、沖縄戦の戦火でそのほとんどは失われてしまったという。しかし、防空壕や深い穴の中に古酒を非難させたという例もある。現在、瑞穂酒造に貯蔵されている古酒で一番古いものは30年もの。そして、それ以上古いものは「社長が秘蔵しているという噂が社員の間にでるくらい古酒は大事にされています」と玉那覇さん。はたして秘蔵の泡盛はあるのか、ないのか、はっきりしないところにロマンがあるというものだ。

※古酒の定義
「全料を3年以上貯蔵したもの、または仕次ぎしたもので3年以上貯蔵した泡盛が仕次ぎ後の総量の50%を超えるものでなければ「古酒」と表示してはならない。」(泡盛の表示に関する校正競争契約)より古酒の表示に代えてクース又は貯蔵酒もしくは熟成酒と表示することができる。貯蔵年数を表示する場合は,年数未満は切り捨てるものとする。」

※「仕次ぎ」
「仕次ぎ」とは,古酒の伝統的作り方でカメの壁面からの蒸散で減った分や飲んで使った分を、次に古い泡盛で補充する貯蔵法。通常3個以上の甕をすえ、最も古い一番古酒の減った分を二番古酒から、二番の減った分を三番古酒からと順次補充する。

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