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悦ちゃん
沖縄名物おばあスナックで、南国のおでんに舌鼓を打つ
長寿県沖縄の「おばあすなっく」とは
 那覇には店がたくさんあるが、表通りやガイドブックに載っている店は得てして観光客向けで、沖縄を何度か訪れているリピーターにはもの足りないものだ。そこで、ガイドブックに載っていないディープな沖縄の店を探してみた。
 沖縄ならではの店、そのひとつが「おばあスナック」だ。沖縄は全国一の長寿県である。また、お年寄り、とくに「オバァ」が元気なことでも有名だ。60歳、70歳で引退ということはなく、体の動くうちは生涯現役だと聞く。ここ沖縄では、そんな元気なオバァがやっている飲み屋が「オバァスナック」または「オバァ酒場」と呼ばれている。
 年寄りがやっている店は全国どこにもあると思うが、「おばあスナック」という独自のジャンルを築き上げているのは沖縄だけだろう。中には80歳のママさんもいるというから驚きだ。たまには怪しい店もあるらしいが、多くはただの小さな酒場。料金も驚くほど安く、遅くまで営業している店がほとんどなので、居酒屋がはねた後の酔客の受け皿となっている。
 その中に、知る人ぞ知るおでんやの「悦ちゃん」という店がある。沖縄でおでんとは本土からみるとちょっとミスマッチのような気がする。おでんといえば、寒い冬の夜、暖簾をくぐって熱燗といっしょにフーフー食べるあれでしょ。そのシーンがこんな亜熱帯の島にあるとも思えない。興味本位で繰り出してみた。

カーテンの隙間から覗く顔
 場所は那覇の国際通りにぶつかるグランドオリオン通りから桜坂に入ったところ。道は狭くタクシーが入るのを嫌がるので、グランドオリオン通りで降りて、歩くことにした。ひと昔前は地元の人を相手にした社交街だったらしいが、今はすっかり寂れて昭和30〜40年代の雰囲気を漂わせている。
 その中に、「悦ちゃん」というネオン看板を発見。やはりレトロだ。店の外観はひと昔前の新宿のゴールデン街にあるスナックといった感じ。事前情報では、この店、営業中でもドアに鍵がかかっているという。訪ねたのは夜9時ごろだったが、案の定ドアを押してみると開かない。ドアは真ん中がガラス貼りで内側にはカーテンが張ってあった。カーテンの隙間から中を覗くと客がいるので営業しているようだ。
 しばらくすると中からおばあがじろじろとこちらの様子をうかがっているではないか。怪しいものではないことをアピールし、3人で入りたいのですが、と指3本立ててアピール。するとごそごそと鍵を開けて中に招き入れてくれた。これがママ、たぶん悦ちゃんだ。

おにいさん、足はお好き?
 店は悦ちゃんひとりできりもりしている。10人ほどが座れるカウンターと奥には3畳ほどの小上がりがある。小上がりは5〜6人がやっと座れる広さだが、入店時は4人の客がいて、カウンターにも7人の客がおり満員状態。しかし、悦ちゃんが「ちょっと詰めて」と、手前の客に言うと、チームワークよく奥から順ぐりに詰めてくれ、3人のスペースが確保できた。このあたりは小さな店の暗黙の了解といったところだ。東京のこの手の店だと、店に入ってきた新参者を客全員がじろりとにらみ、「俺たちだけの楽園を荒らしにきやがって……」という光線を浴びせかけるものだ。しかし、この店はスムーズというか、統制が取れているいるというか、そんな光線は誰も発していない。悦ちゃんも客も意外と親切だ。
 席に座るやいなや、「この前なんか、毛糸の目だし帽をかぶった男が中を覗いてんのよ。こっちは女1人でやってるから、悪いけど入れなかったわよ」と、悦ちゃん。鍵をかけているのは防犯上のことで、会員制の秘密クラブだからではないということを言いたいのだろう。
 さて、注文だ。予想していたことだがメニューはない。これはこの手の店にはありがちなこと。東京のおでん専門店なら“がんも”がいくらで、“ばくだん”がいくらとかの紙が壁一面に貼ってあるものだが、そんなのを期待してはいけない。まず、泡盛を注文。棚にはいろいろな銘柄が並んでるので、目に止まるままに言うと、ないものが多い。で、瑞泉を一合注文。カラカラに入って、水割りセットといっしょに出てきた。
「お兄さんたちきらいなものある?」と、悦ちゃん。
 何か食べさせてくれそうだ。そしてその言葉の意味は「おでんの中で食べられないものはあるのか」、ということだろう。「ありません」と答えると「足は大丈夫?」ときた。ここは沖縄である。さすがに「テビチ(沖縄の豚足)」のことだとさすがにピンときた。「大丈夫です」と答える。しばらく酒を飲んでいると、大皿に山盛りのおでんがドーンと出てきた。

テビチが主役の沖縄おでん
 さて、そのおでんの正体とは。まず、大ぶりなテビチが数個。それにウインナソーセージ、大根など。その上には大量の青菜(ほうれん草を茹でて、ちょっと絞ったような感じ)がトッピングされている。うーん、これが沖縄おでんか。つまり、東京の沖縄料理の店ではテビチを頼むとテビチだけが出てくるが、それといっしょにいろいろな具が出てくるという感じ。おでんというよりは煮込み料理に近い。
 もともと好物のテビチから箸をつける。よく煮込んで脂が抜けており、意外とさっぱりしている。骨と骨との間のゼラチン質の部分、最近は美容によいコラーゲンとかいうらしいが、おっさんである我々にはそんなこと関係ない。あくまでも、おいしいゼラチン質だ。これが口の中で溶けてなんともいえずうまい。口の回りを脂でヌラヌラにしながら、夢中で食べてしまうほどうまい。もちろん、泡盛の水割りにはピッタリの相性であることは言うまでもない。
 とはいえ、こればかり食べ続けるとさすがに胸やけがする。ここで初めて大量の青菜の存在理由がわかった。これは煮込んでないところがミソ。テビチの後に食べるとスッキリする。気がつくと、連れ合いにも青菜が人気で大量にあったはずの青菜がなくなりかけている。慌てて、残りの青菜を皿に取った。
 後から調べると沖縄におけるおでんというのは、本土のはんぺんやちくわが入っているおでんとは違うが、結構ポピュラーな食べ物。居酒屋や食堂のメニューにもあったり、このような専門店もあるようだ。そして必ず入っているのがテビチだ。沖縄のおでんではこのテビチが主役なのである。そしてバランスを取るために青菜は欠かせない。逆に、はんぺんやちくわなどのいわゆる練り物は入っていない。これは鮫を食べる習慣がないからだそうだ。

自由な営業形態。デリバリーぎょうざ。
 その後、おでんを肴に泡盛を3本ほど注文。おでんの皿も空になった。しかし、この店他につまみはなさそうだ。この強力なおでんを追加発注する気にもならず、空の皿を前にしばらく飲んでいたところ、悦ちゃんが「おにいさん、餃子食べる?」と声をかけてくれた。
「やっぱり餃子があったんだ」。
 というのも、我々が入店した時、席を詰めてくれた隣の客の前には食い残しの餃子が2個ほどあった。気にはなっていたが、メニューもないし、注文している客もいない。もしかしたら、持ち込み? そこまで考えていた。とにかくこの店のシステムがわからないのだ。初心者はおとなしくしているに限ると、耐えているうちに忘れてしまっていた。
「おでんたくさん食べたから1,000円分でいいわね」
 うーん、1,000円分ってどんな量かもわからないが、そんな大量に来ても困るので、「はい、それでお願いします」と答える。すると、悦ちゃんカウンターの端にあるピンク電話に10円玉を投入。「あ〜、〇〇ちゃん。1,000円分お願い」。
「出前かよ!」と、心の中で小さく突っ込みを入れ、電話の成り行きに耳をそばだてる。
 頼んでる先はぎょうざ専門店なのか。しかも、その店の名前も「〇〇ちゃん」。(よく聞き取れなかったが)この辺りの店名はみんなちゃん付けなのか、などあれこれ考えていると、ドアをノックする音。例によって悦ちゃんが、ドアを開けにいく。餃子が来たのだ。
「早かったわね」
 出前に応対しながら、悦ちゃんは入り口のそばに座ってた私の背中をたたいて、手を出した。
「1,000円!」
 えー、こっちが払うの? 普通なら勘定の時に上前を乗っけてまとめて請求しますよね。この店にはマージンとか、そういうシステムはないのだろうか。そんなことを考えながら、1,000円札を渡した。そして受け取った餃子を「どうぞ」と私たちの前に置いてくれたのだった。
 この餃子がまた、本土では見たことがない。いや、見た目は本土の餃子と同じだが、食べてみると、ひとつの餃子の中ににんにくひとかけらまるごと入っているのだ。これがまた、結構いける。明日のことなど考えずに餃子を頬張った。
 この辺りには餃子店が多いらしい。それもやはりスナックなのだが、メニューは餃子しかない。店を出た後に見ると、ところどころ「餃子」という看板を掲げているスナックが目についた。

「赤いハンカチーフ」に進駐軍を想う
 11時を回るころになると、だいぶ客が少なくなってきた。
「おにいさんたちどこから?」
「東京です」と答える。
「何かかけてよ」と、店の奥を指さすと、そこにはジュークボックスが。米軍基地に置いてあったものを30年ほど前に下取りし、ドル仕様だったものを近くの器用な電気屋さんが円仕様(100円で3曲)に改造してくれたという。こういう店の片隅にも米軍統治時代のなごりがあるのだ。以来ほとんど故障がなく、現在でも現役だ。しかし、中に入ってるのは昔懐かしいアナログのドーナツ盤なので、新曲が増えないという。常連のお客さんが寄付してくれるドーナツ盤で、時々曲が入れ替わったりするそうだ。仕方ないので、石原裕次郎の「赤いハンカチーフ」のボタンを押した。意外とよい音だ。ジュークボックスの音は、古びた店を一層ノスタルジーの世界に引き込んでいく。
 12時をまわり、いよいよ客は我々だけとなった。「そろそろお勘定を」というと、3人で3500円という安さ。(もちろん餃子の勘定は入っていない)これで、商売が成り立つのだろうか、心配になってしまう。聞くと店は朝4時ごろまでやっているらしい。これから来る客も多いのだ。
「大体、毎日3回くらい波があるわね。今は1回目の波が引いたところ」と、悦ちゃん。
 これから2回も波が来るのか。さすが日本一夜が長いといわれる沖縄である。
 観光コースを外れると、こんなディープな沖縄がある。みなさんもこんな店を探して訪ねてみてはいかがだろう。

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