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山田錦のテロワール(上)
近年、全国新酒鑑評会で金賞をとるには「YK35」が必須条件だとされてきた。「Y」はもちろん山田錦、しかも兵庫県産がベストという。しかし、この圧倒的な評価を誇る酒米の真の姿は、伝説のベールに覆われてなかなか見えてはこない。そこで本誌では二回にわたり、「山田錦のテロワール(故郷)」と題して、山田錦の過去と未来について考察する。

「YK35」神話は不滅か
平成13年5月におこなわれた「平成12酒造年度全国新酒鑑評会」では、明治44年からという長い歴史を誇る同鑑評会に、いくつか目に見える変化が現れた。
そのひとつは、主催者が財務省主税局醸造研究所から、独立行政法人酒類総合研究所に衣替えしたことである。
また、出品制限枠を撤廃して、希望するものはすべて出品できることとし、審査の充実を図るため、新たに製造担当者も審査員に加えた。
さらにもうひとつの変化は、二つの出品区分を設けたことだ。

新酒鑑評会での圧倒的な強さ
出品区分は、以下の二種類である。
[第1部]原料米として山田錦以外の品種を単独または併用、あるいは山田錦の使用割合が50%以下で製造したもの。
[第2部]原料米として山田錦の品種を単独または山田錦の使用割合が、原料の50%を超えて製造したもの。
つまり、山田錦とそれ以外の酒米を使った出品酒を、別々に審査しようというのだ。その理由を酒類総合研究所では「各地で開発されつつある酒造好適米に光を当てるため」としている。
この年、吟醸酒づくりの王道とされる山田錦を主原料とした第2部は、出品数1059。山田錦以外の酒米で挑戦した第1部の出品数は74、全体の6.5%にとどまった。
では、出品酒に対する評価はどうか。
第2部では、出品数に対して金賞受賞率は29%で、入賞率となると55%に上る。一方、第1部は金賞9%、入賞28%に過ぎない。この数字だけを見れば、やはり山田錦の圧倒的優位は揺るがなかったともいえるし、過去の結果に比べれば他の酒米は健闘したという見方もできる。ただし、第1部であっても50%以下なら山田錦を使えるわけで、麹米に山田錦を使っているものがある可能性は少なくない。
ここでひとつ、おもしろい意見を紹介しよう。
同鑑評会では、すべての出品酒を同じ容器に入れ、銘柄がわからないようにしたうえで並べて、きき酒をおこなう。そのため絶対評価ではなく、相対評価にならざるを得ない。梅錦山川株式会社の山川浩一郎社長は、この前提のうえで、平成11酒造年度以前の鑑評会につき、私見だと断ってこう言う。
「全国新酒鑑評会では山田錦で造ったお酒が並びますから、他品種のお米で造った酒は異質だと判断され、よい評価がされにくいのです」(同社ホームページ「社長のページ」vol.13)
平成12酒造年度より始まった二部制は、こうした見方に配慮した方法ともいえるが、山田錦と山田錦以外とを別々にNくという方法をとっても差は歴然としている。
もちろんそれには、山田錦という酒米本来の美質以外にもいくつかの理由が考えられる。
ひとつには、「YK35」伝説が流布したあまり、山田錦を使って好成績を収めるノウハウが先行的に発達したことである。蔵にとって鑑評会での受賞は営業政策上も重要であり、わざわざ他品種で冒険するよりも、ノウハウの蓄積された山田錦を使ったほうがリスクが小さいと考えるのは当然だ。逆にいえば、他品種を使った鑑評会用吟醸酒づくりには、まだ圧倒的にノウハウが不足しているのだろう。
また、二部制をとったとはいえ、よい吟醸酒の基準そのものが山田錦でできあがっているようなところがあり、その意味で他品種は不利な状況に立たされていると考えることもできる。
ただ、以上のような酒米本来の力以外の条件がいくつか考えられるとしても、金賞受賞率が三倍以上という圧倒的な差を実現するためには、山田錦自体にもともとそれだけの力が備わっていると考えるのが自然だろう。しかも、鑑評会での金賞受賞酒は、同じ山田錦といっても、兵庫県産が圧倒的に多い。
では、兵庫県産山田錦のどこに、他の酒米を圧倒するほどの力があるのだろうか。

造りやすい米がいい酒になる
最初に、結論として身も蓋もないことを言ってしまうと、化学的な成分から見れば、山田錦と他の酒米、もっといえば食用米まで含めてもほとんど変わりはない。
「(略)昔から心白は非常に尊ばれてきているのに、残念ながらその理由が完全に解決されていない現状であって、心白部は澱粉価が高くてタンパク質などが少ないと昔からよくいわれているようであるが、その根拠に疑問な点があり、最近では好適米であろうと一般米であろうと、成分的にははっきりと区別し得ないというのが妥当な見方のようであって、同一品種でも、栽培地や肥培管理などの条件で品質なども変わって、相当多くの種類について分析しても成分的な特性は出てこない」(『兵庫の酒米』兵庫県酒米振興会、昭和36年)
これはずいぶん古い資料ではあるが、現在でもこうした見方を否定する研究成果は現れていない。他の米との違いが見られないのだから、山田錦のなかの山田錦である兵庫県産と他県産を比べても、違いがないのは当然だ。もっとも、これは日本酒の製法から見ればあたり前の結論ではある。
同じ醸造酒といっても、原料であるブドウをそのまま使い、その味や香りが最終製品のできを根本的に左右するワインと違い、精米してから蒸して、複雑な発酵管理によって造る日本酒では原料の最終製品に関与する度合いが違う。
今後、兵庫県産山田錦の成分的な優位性が新たに発見されることも絶対ないとは言いきれないが、現状ではその可能性は低い。
では、山田錦の優位性はどこにあるのか。ふつうは 1.雑味の原因となるタンパク質が少ないこと 2.心白がある程度大きく、はっきりしていること 3.精米の際の歩留まりが大きくなるよう粒が大きいこと、などがよい酒米の条件とされ、山田錦はこの条件をすべて満たしている
確かに、タンパク質が遺伝的に少ないことは、日本酒の味に影響するポイントではあるが、他の酒米との差は成分比でわずか1%前後。あとの二つは味そのものとはあまり関係がなさそうだ。
しかし、じつはそうした、味に直接関係のない特徴も、巡りめぐって味に関係してくるのだという。
「米を磨く時、70%でしたらほかの米でもいいんですけど、50とか40では壊れてしまう。山田錦は、そこまで磨いても心白が壊れずに残ります。それから醪などでも、すっと溶けてしまうと味が雑になるので、穏やかな低温発酵で、しかし溶けないといけない。
過酷な条件に耐える米であってこそ、はじめて質のよい酒ができるわけです」(菊正宗酒造株式会社 岡本英輔取締役生産部長)
つまり、酒を造りやすい米は、そのぶん味や香りを引き出すための過酷な造りにも耐えられ、結果的にいい酒ができる。山田錦が吟醸酒づくりに向くいちばんの理由は、その造りやすさにあるというのだ。
なるほど、それなら一応納得はできる。山田錦の優位性の多くは、その化学的成分より、物理的特性にあるらしい。
「YK35」のうち、「K」つまり熊本酵母は他に替わる酵母が多出し、精米歩合の「35」は30へと主流が変わろうとするなか、「Y」だけが健在なのはこうした理由なのだろう。


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