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『兵庫の酒米 山田錦生誕60周年記念誌』によれば、酒米栽培には次のような地形が適しているという。
「海岸地帯よりも内陸地帯の低山及び丘陵地帯の山間、山麓または盆地で、風通しのよいところが適地とされている。それも南北よりは東西に開けた中山間の谷あいや盆地がよい。こうした地帯では、気温の日格差が大きく、それによって酒米の登熟や心白の発現がよくなる」
特A地区は、まさにこの条件をすべて備えた地形を持っている。

現在に生きる村米制度
特A地区が、酒米に適した環境を持っているのは事実だ。しかし、それだけで良質の山田錦ができるわけではない。
「農協にも指導員はいますが、農家のほうが技術は上です(笑)。栽培のしかたは圃場(ほじょう)ごとに違いますから、そこでは農家の経験がものをいう。山田錦は倒れやすく、病気になりやすい米ですし、一筆ごとに肥料の量を変えたり」(みのり農業協同組合 藤本幸男営農部次長)
村米制度をとっている地区では、毎年9月下旬から10月上旬、蔵元の担当者が作見をおこなうことが多く、その意味でも気が抜けない。もっとも、特A地区の酒米農家は、日本一の酒米を作っているというプライドを持っており、作見云々がなくても娘を育てるような気持ちで山田錦を栽培しているという。現在、この村米制度をとっている蔵元は10社ほど。自主流通米制度下におけるシステムは、次のようなものだ。
まず、各蔵元の購入希望数量を酒造組合がまとめ、全農と山田錦の栽培数量を契約。全農が栽培農家に予約数量を通知し、村米契約をしている地区の栽培農家の数量を農協がまとめ、作付けがおこなわれる。収穫された山田錦は地区でとりまとめ、農協、県経済連、全農を通して蔵元へと届けられることになる。
このように、システム自体はかなり複雑で間接的になってはいるが、村米制度の根幹である蔵元と地区との結びつきはおおむね健在である。
たとえば、村米制度の代表格である菊正宗酒造の嘉納会のケースを見てみよう。
まず4月末には理事会を開き、前年度の決算報告。田植えの時期から収穫までは、必要な時に蔵の技術者が出向き、成育状況などの報告を受ける。収穫時期が間近になると、作況調査がおこなわれるとともに、年間最大のイベントである総会がおこなわれる。
会場は最近こそ公民館などが多いが、かつては区長や総代などの自宅でおこなわれていた。蔵からは毎年、社長、常務など5、6人が参加するという。
出される料理もかつては決まっていて、地鳥のすき焼き、小芋とタコの煮付け、コイの洗い、小エビの煮付けが定番だった。最近では、ため池が少なくなってコイと小エビが手に入りづらくなっているが、それでも地鳥のすき焼き、小芋とタコの煮付けは欠かさない。

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