週刊新潮掲載 酒文化研究所
アジア酒街道を行く
#015 ヴェトナム編第4回 掲載ページ
タイトル
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お祭、結婚式、来客など壷酒はハレの日に欠かせない。酒が安全なことを示すため、最初にオーナーが吸うのが決まり。かつては葦などの植物であったストローは、いまはビニールチューブに代わっている

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少数民族が住むラット村。リゾート地として知られるダラットの名は、元々“ラット族の会”の意


写真: 本田武士
 これで9杯、いや10杯目かもしれない……。火照った顔を冷ましに、外に出て深呼吸する。赤土を踏み固めたデコボコの道は幅が2尺ほど、酔い加減を知るのにちょうどよい。厠まで歩くうちには、もう、ほろ酔いの域をだいぶ踏み出していることがわかった。

 ヴェトナムには54の民族が暮らし、中部高原地帯には少数民族の集落が点在している。ラット村はそのひとつで、リゾート地ダラットに近い。ダラット大学の民族学者レー・ディン・バー先生に同行いただいて、ラット族のリーダーであるリエン・ムトさんのお宅を訪ねた。目的は、壷酒(ラット語ではトゥルーナム、越語ではジエウカン)の製法を教えてもらうことと、実際に飲んでみることである。

 壷酒はインドシナ半島の山岳部に広く見られる。ムトさんの家では、よく洗って乾かした壷の底に籾殻を厚めに敷き、蒸した米、米麹、ドーンという木の根をつぶしたものを混ぜ合わせて入れ、乾燥したサトウキビかバナナの葉をその上に詰めてつくる。蓋をしてそのまま10日間ほどで飲めるようになるという。

 「さあ、説明はここまで。酒は飲んでみなきゃわからないよ」と言ったかどうか、ムトさんは奥さんに壷酒と10リットルはあろうかという水の入ったポリタンクを用意させた。蓋を開け、口いっぱいになるまで水をどんどん入れていく。長いチューブのついたストローを、フィルターとなる底の籾殻の層に届くまで挿し込む。ムトさんが吸い始めると液面がググ〜ンと下がっていく。「ふ〜、次はおまえの番だよ」と吸い口を手渡される。

 奥さんはすかさず壷に水を加えて口切いっぱいにし、さらに水の入ったマグカップを壷の口の上に構える。その意味がよくわからないまま、息を吐いて強く吸う。なかなか酒が出てこない。もっと吸う。甘酸っぱい味わいがようやく口に広がり、液面が下がり始めたその時、奥さんはマグカップの水を足し入れて、満杯の状態した。つまり、カップの水が壷に入りきるまで酒をイッキに吸いなさいということなのである。

 ムトさん一家と取材スタッフが順番にチュウチュウ。保存がきかない壷酒は、開けたら飲みきるのがルール。男も女も関係なく延々と酒を吸う。ラット族はふだんは酒をほとんど飲まないが、飲むときには徹底的に飲むのである。

 盛り上がってきたところでゴングが鳴った。左手に抱えたゴングを右手で打ち、ムトさんが歌い出す。ヴェトナムの高原リゾートの片隅で、踊れや歌え大宴会とあいなった。

2005年7月21日週刊新潮掲載