週刊新潮掲載 酒文化研究所
アジア酒街道を行く
#019 ヴェトナム編第6回 掲載ページ
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フエ近郊の水田にて。米は5月と 10 月の2回収穫される。栽培されているのは、粒が細長いインディカ米がほとんど

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フエフーズ社の大崎マネジャー(右)と関谷工場長。関谷さんは、かつて伏見の酒蔵で杜氏を務めていた

ワサビは精力剤とされ、刺身を食べるのに一人でチューブの半分を使ってしまう人も(ハノイ西友で)


写真: 本田武士
 ヴェトナム第三の都市ダナンの南に位置するホイアンは、この国を代表するビーチリゾート。4つ星のホテルはすこぶる快適で、ゆっくりしたいところだったがそうもいかない。前日深夜に到着したにもかかわらず、早朝から陸路をフエに向かわなければならなかった。

首都ハノイと南のホーチミンを結ぶ国道一号線を一気に北上する。サイゴン行きと書かれた長距離バスと次々にすれ違う。生活のなかではホーチミンは今もサイゴンなんだなぁ、福岡と博多みたいなものか…などと思っているうちに、車は順調に峠を超えた。

そして山を降りると風景がガラリと変わった。目の前に広がるのは一面の田園風景、整然と田植えされた田もあれば、種籾を撒き散らしただけの雑然とした田もある。遠くに見える椰子やバナナの木が南国を感じさせるものの、近景は日本の田舎にそっくりだ。

フエにはこの豊かな米を使って、主にヴェトナム国内向けに清酒をつくっているフエフーズ社がある。酒名は「越の一(えつのはじめ)」で、他に米焼酎を製造している。たくさんの候補地のなかからフエに決めたのは、清酒づくりに向く水があったから。同社の関谷工場長によると、酒どころ京都・伏見の水によく似た、たいへん使いやすい水だそうだ。

大崎マネージャーは「この10年間の変化は凄まじいものです。年に7〜8%の経済成長が続いて、大衆消費社会の到来がもう目の前。もちろん清酒も米焼酎も売れ行きは好調」と言う。しかし、中華風の料理が多く、酒といえば「モッチャム・フン・チャム(イッキ飲み)」に流れがちなヴェトナムで、清酒はどのように飲まれているのだろうか。

「刺身がブームなんですよ。ハノイにあるスーパーの西友に行ってみてください。新鮮な魚がいっぱい並んでいます。刺身がOKならば清酒が受け容れられない理由はありません」と大崎さん。ハノイ西友の荒川社長も「ハロン湾の朝獲れの魚介は大人気で、遠くフエやダナンまで宅配もしています。酒も高級なものの売れ行きがすごくいい」と言う。

たしかに和食とともに日本の酒が普及するのは十分にある話だ。けれどもロードサイドの焼酎屋で売られている焼酎は1リットルで70円。一方、越の一は1.8リットルで600円、米焼酎も750mlで同じくらいである。10倍近い価格差があるにもかかわらず、本当に売れているのであろうか。そんな質問に大崎さんは、「飲み比べればわかりますが、あの焼酎とは品質レベルが段違いです。今、当社で伸びているのは高級な焼酎。予想以上に富裕層に厚みが出てきているんです。これから益々おもしろくなりますよ」と断言した。

2005年8月25日週刊新潮掲載